婚約者は試される 4
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次の日、ニーナから聞いていた通り、ローズの元に教育係のダリエ夫人がやってきた。
赤茶色の髪をきっちりとひっつめ、緑色の目の上には黒縁の眼鏡をかけている。神経質そうに見えるのは、キリリと細い眉をわずかに寄せているからだろうか。癖なのか、しきりに眼鏡のブリッジを押し上げる仕草をしていた。
「王妃様からローズ王女殿下の教育係に任ぜられましたダリエと申します。早速ですが、明日からの教育スケジュールを作成いたしましたのでお目通しくださいませ」
挨拶もそこそこに、ダリエ夫人がびっちりと書き込まれたスケジュールを手渡して来た。すごく細かく書かれているので、かなり練り込まれたものだろう。昨日の今日という短い時間で用意された細かいスケジュールにローズが感嘆していると、ローズの隣でそれを確認したミラが片眉を跳ね上げた。
「なんですか、これ。朝から晩まで休憩する暇もないじゃないですか!」
「ローズ王女殿下に覚えていただかなければならないことはたくさんございますから」
「だからって」
「ミラ、いいのよ。わたしだって、時間がないことはわかっているもの」
ローズは十七歳。ラファエルと正式に婚約した以上、どんなに先延ばしにしたところで数年先には彼と結婚することになる。その短い間に彼の妃として恥ずかしくないだけの教養を身につけなければならないのだ。
ローズの返答に、ダリエ夫人が意外そうに眉をあげてから、大きく頷いた。
「お判りいただけているようで何よりです。本日はローズ王女殿下の現在のレベルを把握するため、わたくしが用意したテストを解いていただきます。三十枚ほどありますので、今日いっぱいはこちらのテストだけで一日が終わるでしょうね」
「三十……!」
ミラがあんぐりと口を開けた。
「何か問題でも?」
「大ありです! いくら何でも多すぎます!」
「一枚当たりの設問はそれほど多くございませんので、夕方には終わるはずです」
「ローズ様に夕方までずっとテストを受けていろと⁉」
「ミラ、落ち着いて。ダリエ夫人が時間を割いて作ってくださったテストだもの、わたしに異論はないわ」
「ローズ様……」
ミラはまだ不服そうだが、ローズがいいならばと口をつぐむ。
(うーん、テスト中はミラに出て行ってもらっていた方がいいかしらね)
ミラがローズのために怒ってくれているのはわかるけれど、彼女が隣にいてはダリエ夫人もやりにくいかもしれない。
「ミラ、わたしがテストを解いている間、ニーナにお城や王宮での作法を聞いておいてくれないかしら? そうしてもらえるととても助かるのだけど……」
ミラは嫌そうな顔をしたけれど、口をとがらせて頷いた。
「……わかりました。でも! 何かあればすぐに呼んでくださいよ?」
「ええ、約束するわ」
ミラがニーナとともに控室に下がると、ローズはホッと息をつく。
「ダリエ夫人、侍女が失礼しました」
「いえ、構いませんが……ずいぶんと過保護な侍女ですね」
「そうかもしれません。ミラは乳兄弟で、姉妹のように育ちましたから、わたしの姉のようなものなので」
「なるほど、それでですか」
ダリエ夫人が納得したと薄く笑う。無表情の時は神経質そうに見えたが、笑うと優しそうだ。
ローズが机につくと、ダリエ夫人が一枚目のテストをその上に置いた。
「それでははじめてください。三十枚あるので、途中の休憩時間も加味して、一枚当たり十分ほどで解いてくださいね。わからない問題は飛ばして行かないと時間がたりなくなりますよ」
時間を測ります、と言われて、ローズは急いでペンを手に取った。










