35-1話 バイオレンスな彼女
「ねぇ、ダーリン? お願いがあるんだけど良い??」
妖艶な声を響かせたルカがにっこりと微笑む。
「え? えっーと、何かな?」
めちゃくちゃ嫌な予感がするんだが……ってかそれより前に殴った説明して欲しいんだけど?
ねぇ、俺は何で殴られたの? あの雰囲気で殴られるのなんて想像してないんだけど?
「私ね、あの日にダーリンの頬を叩いたでしょ? あの時の興奮がずっーと忘れられないの……だからこれからもそのぅ、叩いても良いかな??」
大きな胸を両腕で挟み込み身体をもじもじさせながら、ルカは上目遣いを俺に向けた。
か、かわいい。 いや、どっちかと言うとエロいって表現の方が今のルカには良いか。
……い、いやいや! 今はそんな事どうでも良いわ!!
え? どう言う事?? つまりルカはあの時に俺に手を出した事によって、バイオレンスな女の子に目覚めちゃったって事??
ルカの変わり様に理解が追いつかず、俺は近くに居た青蜜と結衣ちゃんへ視線を向ける。
「「……」」
二人とも俺と視線があった瞬間にそっぽ向き、俺にも分かる程の話しかけるなといったオーラを醸し出した。
「いや、無視すんなよ! 今までなんだかんだ言っても助け合った仲間じゃないか!! 俺こんな展開初めてなんだから助けてくれよ!!」
そんなクソみたいなオーラをぶち壊し、俺はルカに背を向け無理矢理に青蜜と結衣ちゃんの間に入った。
「し、知らないわよ!! それに別に仲間だなんて思った事ないわ!!」
「つ、次からは相談してってさっき言ってただろ!!」
「それはそれ! これはこれよ!」
ぐっ、この腐れ青色がっ!
「そ、そうですよまどかさん。 別にそんな気にしなくても良いじゃありませんか。 ルカさんがちょっと暴力的になったくらい可愛いものじゃないですか!」
「いや、結衣ちゃん? さっきのビンタ見てた? ちょっとのレベルを超えてるんだって! 音が遅れて聞こえたんだよ??
見てあれ、あの打たれ強いおっさんが未だに気絶してるレベルだよ? あんなの定期的に食らってたらいつか俺の首が飛ぶからね?」
「……わ、私よりは力が弱そうで良かったじゃないですか」
いや、乳力を全て腕力に変換した貴方と比べられても……ってか薄情じゃん!! 一言くらいアドバイスくれても良いじゃん!!
「ダーリン??」
「ひっ!!」
ルカの声に思わず悲鳴が漏れてしまう。
「何をそんなに怯えてるの? あっ、もしかして私が叩く回数を気にしてるのかな? 心配しないでいくら私でも毎日は叩かないから!」
あっ……か、回数の問題じゃないんだけど。
怖くて声が出ない俺にルカは笑顔で続ける。
「私がダーリンを叩くのは月、火、水、木の4日だけのつもりだから」
……週4日もあの殺人ビンタを?? え? ルカって俺を殺しにきたの? やっぱり怒ってたって事?
「そ、それにね。 私が叩くのはダーリンだけだから安心して、他の男だったら殴っちゃうもん! 誰でも叩く様な尻軽な女じゃないんだからね!」
ルカは恥ずかしそうに顔を赤らめる。
なんで照れてるんだ……もしかしてこれがルカなりの愛情表現なのか?
だとしてもこのままじゃまずい!! なんとか上手い事、ビンタで快楽を得る様なバイオレンス女から脱却させる道を探さなっ……!
「ダーリン? どうして黙ってるの? ……もしかして私の頼みが聞けないの? 私達付き合ってるのよね?
私、ダーリンに会う為に今日まで頑張って来たのよ??」
俺が妙案を思いつくより先に今まで感じた事の無い圧がルカから向けられた。
……は、はっきり言うんだ、俺!
今この圧に負けたら命の危機だぞ??
せめて週1にしてもらえる様に交渉をっ。
「ダーリン??」
「い、い、嫌だなぁー。 俺がルカの頼みを断る訳ないだろ?
むしろ嬉しくて声にならなかったくらいなんだから。 は、ははっ」
……うん、無理無理、一体どこでこんな圧を? も、戻して欲しい、もっと幼くて可愛かったあの頃に!!
ま、まぁ元を辿れば俺の自業自得なんだし、これが俺の責任ってやつなのかもな。
そうだったわ、俺にとって最高の展開なんてこの異世界の神様が許す訳ないもんな。
「あ、ありがとうダーリン!! そう言ってくれると信じてたわ!!」
咄嗟に出た俺の言葉に満面の笑みを浮かべたルカが抱きついてくる。
!!?
ちょっと待って!!
お、俺の腹部に当たってるこの柔らかな感触って………まさか。
異世界の神様、貴方を信じて本当に良かったです。
私はこの幸福の為なら命など惜しくはないのですから……。
「な、なんですかあれ?? まどかさんってやっぱり阿保なんですか??」
「今更気づいたの結衣? まどかちゃんは最初から阿保で馬鹿よ。 まぁそれは男全般に言える事だけどね」
「そうじゃな! 彼奴は最初の最初から抜けてる所あったもんな」
「そうそう……って! おっさんいつの間に??」
青蜜の驚いた声に俺はルカから一度離れて視線を再度青蜜へ向けた。
……な、何かと思えばおっさんが目覚めただけか、くそ、もう少し体験していたかったのに。
「ふむ、何がなんだか全く分からんが、この状況を見るに全て丸く収まったのじゃな??
いやはや、流石ワシと言った所じゃな、自分の有能さが怖いわい」
「……」
ドヤ顔でそう語るおっさんに俺は殺意を覚えずにはいられなかった。
多分、青蜜と結衣ちゃんも同じ気持ちだろう。
めっちゃ怖い顔してるもんな、二人とも。




