24話 スマホを取られただけなのに
「話を切って悪かったなリア。 続きとやらを教えて貰えるか?」
おっさんの姿が見えなくなった後で俺は再度リアへ話かけた。
「うむ、そうじゃな。 ではさっきも言ったデメリットの話じゃが、我はあの機械を試作品では無く欠陥品と言った事は覚えておるか??」
「あぁ、過去に戻ると同時に身体の成長も戻ってしまう不具合を治せないってやつだろ? 良く覚えてるよ」
まぁ試作品と欠陥品の差については深く考えてなかったけど。
「それもあるのじゃがな、あの時は1回目じゃったし既に使用した後だったから言わなかった事があるのじゃ。
実はあの機械にはもう1つ大きな不具合があるのじゃよ」
「もう一つの不具合??」
何だ? 1回目と2回目でそんな大きく変わるものなのか? もしかして今度は身体の成長が早まるとか?
「あ、あの機械は使えば使うほど『ズレ』が生じるのじゃよ。
つまりまどかがもう一度同じ時に行く事は二度と出来ないのじゃ。 まぁ2回目だったらそうじゃな、大体1、2年程の時間のズレが生じるのじゃ」
ズ、ズレかぁ。 まぁ確かに何回も同じ時に行けるとは限らないよな、過去に行くってそんな簡単な事じゃないだろうし。
でも2年程度のズレならそこまで大きな不具合でも無さそうだよな、2年後のルカに会いに行けるは楽しみでもあるし!
「……そして3回目になるとな、大体100年程度の『ズレ』が発生するのじゃ。
つ、つまりもしお主がこのままルカ・ルーレットに会いに行ってまたこの時代に帰ってきた場合、もう二度とルカとは会えなくなると言うわけなのじゃよ」
「………は?」
申し訳なさそうに声を細めるリアの言葉に俺は自分が異世界の神様に嫌われてる事実をもう一度思い出す。
「い、いやいやいやいや! でもあれだろ? リアの力が全て戻れば、その力で俺を過去に連れて行く事は出来るんじゃないか??」
そうだ、何もあんな欠陥品の機械になんて頼らなくてもリアの力ならっ!!
「そ、それは無理なのじゃ。 我がどうしてあの欠陥品を完成させずにいたか、その理由は一つしかない。 完成させる事が出来なかったからじゃ!
我の力が全回復しても、3回目の時間跳躍は不可能なんじゃよ!」
「う、嘘だろ? じゃあ今回俺が過去に行けばもう二度とルカには会えなくなるのか?」
「……そうなるのぅ。 じ、じゃがそれはあくまでお主が今回過去に行った場合じゃ!! この話を先にしたのは、お主に過去に行かせない為でもあるからのぅ。 我の提案はお主をこの世界に留め、青っ子と貧乳っ子それからあのポンコツにでも過去に行ってもらいルカに研究を再開してもらう様に頼むと言うものじゃ!!」
絶望する俺を励ます様にリアは優しい口調で言う。
「そ、そうか! そうだよな!! わざわざ、俺が行かなくてもおっさん達に頼めば良いんだもんな!!」
聞いといて良かった、そうと決まれば早速青蜜と結衣ちゃんに相談だ!!
リアとの話を進めながら俺は青蜜の元へと直ぐ様歩き出した。
「ち、ちょっと待つのじゃ! まどかよ、青っ子に頼むのも大事じゃが、とりあえずあのポンコツが帰ってくる前に機械を保持しといた方が良いと思うぞ。 青っ子達と違い彼奴は過去に行くのを全力で嫌がるじゃろうしな」
………うん、まさにその通りだな。 先ずはそっちを優先しよう、おっさんには前科もあるし勝手に行動される可能性がかなり高いもんな。
リアの言葉に俺はすぐに進路を変え、おっさんが俺達を過去に送った時に使用した機械を探し出す事にした。
確かこの辺りだったよな。
見た目は俺が持ってるスマホより少し大きいくらいだったし、見たら直ぐにわかると思うんだけど………あ、あれ? ぜ、全然見当たらないぞ? あの時からそんなに時間が立ってない筈だし、間違えなくここにあると思うんだが……。
物色する時間が長引く程俺の額には汗が滲む。
「ど、どうじゃ? あったか??」
「それが見当たらないんだよ。 もしかしたらおっさんが今もそのまま持ってるのかもな」
クソ、こう言う時のタイミングの悪さは天下一品だな、あのおっさんは!
「そうか……まぁそれならば仕方ないのぅ。 ポンコツがまたここへ戻って来た時にそれとなく回収する様にしよう!
先に青っ子達への説明を済ませておこうぞ」
「あぁ、そうだな。 おっさんが帰ってくるのをただ待ってるのは時間の無駄だしな」
リアの言葉に促さられ俺はもう一度青蜜の元へと向かって歩く。
それにしてもおっさんが持ったままだと大変かもな。 あのおっさんの事だ、そう簡単には手放さそうっ………いや、待てよ? なんか引っかかるな。 何だろう、何かを見逃している様な……。
嫌な予感を感じとって俺は、一度足を止めてさっきまでのおっさんの行動をもう一度思い起こす。
……そうだ、確かおっさんが俺達をまた勝手に過去に送ろうとしてリアに止められてたあの時、一瞬だったけどおっさんは身体の向きを変えてた様な? もしその時にあの機械を持ってたなら、おっさんなら直ぐにでも取り出してたんじゃないか??
それによく考えたらこの状況でおっさんが来客に会いに行くなんてありえない様なっ………おい、もしかしてあのおっさん。
「お、おい! 急にどうしたのじゃ!!」
スマホから響くリアの声を聞き流し、俺は全速力でおっさんが出て行った扉へと走った。
さ、流石に有り得ないと思いたい! だけどあの状況でこの部屋から出て行った事、過去へ行ける機械が置いてある場所がおっさんの歩いてたルートの延長線上にあった事、そしてあのおっさんが心の底からクズの事を考えれば可能性はゼロじゃない!!
最悪のケースを想像しながら俺は走り、たどり着いた先で扉へと手を伸ばす。
ま、間に合ってくれ!!
……だけど結局俺の手が扉に届く事は無く、その代わりと言わんばかりにこの短時間で3回目となるあの感覚が俺を襲った。
「お、終わったな。 ははっ」
最早見慣れた大きな穴に吸い込まれる様に落ちていくこの感覚に俺はもう笑う事しか出来なかった。
◆おっさんの思惑◆
ふふふっ、どうやらうまくいったみたいじゃな。 これさえ回収してしまえばこちらのもんじゃな!
「だ、旦那様? どうかなさいましたか?」
「な、何でもないぞ! それで客人とやらは何処の誰なのじゃ? 今日はそんな予定は入ってなかったと思うのじゃが?」
まぁタイミングが良かったし、別に誰でも良いんじゃがな。
大方何処かの国の大臣じゃろうし、いつも通り適当に逃げるとするか。 今はそんな事よりやらねばならぬ大事な事があるしのぅ。
「そ、それがあのっ」
「あー、やっぱり言わなくて良いのじゃ。 何処の誰であっても大差はないからのぅ。 それより少しお腹が痛いのじゃ、先にトイレに行ってくるから待っててもらう様に言ってて貰えるか??」
「そ、そんなっ! こ、困ります! 今すぐ来て頂きたいのですが……って旦那様!! だ、旦那様ー!!」
すまんな、出来るだけ早く帰ってくるつもりじゃ!!
……それにしてもあやつのあんな焦ってる姿を見るのは初めてじゃな。 もしかして他の国の王でも来ているのか?
まぁ今はそんな事はどうでも良いがの!!
ふむ、ここまでこれば大丈夫じゃろう。
さてと、早速まどか達にはもう一回過去に行って貰うとしようかのぅ。
さっきはあの魔女に止められたが、魔女の話など聞いてる時間などないしのぅ!
もし話してる間にこの世界が滅んだらどう責任とるつもりなんじゃか全く!
まどか殿もあかね殿もわしをポンコツと呼ぶがそういう当たり前の事には気付かぬのよな。
やはりわしがしっかりしないとダメじゃな。
過去に行く時間と場所は最初と同じで良いじゃろ。
帰ってくる為の条件はルカの子に研究を再開させる事にしてとっ………むっ? 警告?? 何じゃこれは? 最初に使った時はこんな表示は無かったような??
んー……いや、あったような気もするな。 それに1回成功したんじゃし、2回目も大丈夫じゃろう、あの魔女は技術だけは優秀じゃしな。 まぁわしは使うつもりはないが。
よし! これで準備はバッチリじゃ!
まどか殿、あかね殿、結衣殿、後は任せたぞ!
この世界の命運、お主らに託すのじゃ!!
……今回は2度目じゃから失敗したら完全にお主らのせいじゃからな。




