10話 チョロインチョコレート
「うん。 やっぱりここが一番落ち着くわね。 さてと貴方達も適当に座って構わないわよ」
屋敷に入った後、ルカが俺達を招いてくれた場所は随分とこじんまりとした部屋だった。
適当に座ってって言われても……これ座る場所なく無いか? なんか床一面に紙屑あるし。
「何よその顔は? あっ、もしかしてこの部屋の凄さに声も出ないのかしら? まぁその気持ちもわかるわ、ここは私の研究室だからね」
顎を僅かに上げ胸を張ってルカが言う。
いや、ただ単に汚いんだよな。 正直何が凄いかなんて俺にはわからないし。
「す、凄い部屋ですね。 個性的と言うか何と言うか」
おそらくは俺と同じ気持ちの結衣ちゃんは言葉を選ぶ様に呟く。
「そう言えば貴方は背負ってるその子は一体どうしたの? 体調でも悪いのかしら?」
「あぁ、この子は青蜜あかねって言うんだ。 俺達と同じく未来から来たんだ、今は訳あって気を失っているけど、多分すぐに目覚めると思うよ。 怪我した訳じゃ無いからさ」
「そう、じゃあさっき通った部屋で横にさせるといいわ。 あの部屋には基本的に生活に必要な物も揃ってるし、何より貴方もずっと背負ってるのは辛いでしょ?」
ルカは結衣ちゃんに優しく微笑む。
……なんか急に優しくなってない? 怖いんだけど。
「本当ですか? ありがとうございます!」
「お、俺も行くよ。 話はその後でも出来そうっ」
「貴方は駄目よ! そ、それに私の休憩が終わったら話なんてしないんだから!! 今しかチャンスはないんだからね?」
頬を僅かに赤らめてルカが俺の言葉を遮る。
えーと、俺なんかしたかな? 実験体とかにされないよね?
「じゃあまどかさん、後は任せますね。 私はあかねちゃんの看病をしてきます!」
ルカの言葉をそのまま飲み込んだ結衣ちゃんは笑顔で俺達がいる部屋から出て行った。
「えっ! ちょっと待って結衣ちゃん!!」
は、はやっ! ……青蜜が心配なのもわかるけど俺の事も少しは気にしてくれても良いのに!
「ふ、二人きりになっちゃったわね」
「ひっ!」
ルカの言葉に思わず出てしまった悲鳴を俺は直ぐに飲み込みゆっくりと視線を向ける。
な、何で俯いてるのこの子? わからない! 何を考えてるか本当にわからん!!
「さ、早速休憩するわ。 貴方、ここに座りなさい」
俺に目線を合わせる事はせず、ルカは自分の隣の床を軽く叩く。
隣に座れって事で良いんだよな、あれ?
「ここでいいのか? 何もわざわざ隣に座らなくたって……って何してるんだ?」
「……き、休憩よ」
俺が隣に座った瞬間、ルカは俺の肩にその小さな頭を載せる。
え? 何この状況??
困惑する俺を他所にルカはそのままの体制で話を続けた。
「研究を始めたのは今から5年程前なの。 最初はたまたま思いついただけだった、もし災害を無くす事が出来れば、いえ、無くす事は出来なくとも大を小に変える事が出来れば、この世界はより素晴らしいものになるんじゃないかってね」
「それを実行してるんだからルカは凄いよ、まだまだ子供なのに」
「子供なのはお互い様じゃない……ねぇ、貴方は世界の滅亡を防ぐ為に未来から来たって言ってたわよね?」
「ん? あ、あぁ。 信じてくれるのか??」
「信じてないわ、聞いただけよ」
「何だそれ」
まぁ当然か、未来から来たなんて簡単に信じてくれる訳ないしな。
「まぁ仮に信じるとしたら……つまり私の研究が世界を滅亡させる可能性があるから辞めさせる為に来たってことかしら?」
上目遣いで俺を見るルカの目に哀愁が漂う。
「そ、それは……ごめん、はっきりとはわかってないんだ。 俺達はただそのヒントがここにあるかと思って来ただけなんだ」
「ふふっ、意外に優しいのね」
この時になってようやく俺はルカに伝えた言葉が間違えだったと気付いた。
ルカは世界をより良い方向にする為に研究をしていたんだ。 それなのに急に現れた怪しい人間に世界を滅ぼす研究なんて言われたら良い気はしないだろう。
「……それで? 貴方は私に研究をやめて欲しいのかしら?」
「あっ、いやそれは」
何の根拠も無いのに辞めて欲しいとは言えないよな……そもそもルカに会いに来たのだってあのおっさんが適当なページを解読しただけだし、仮に本当だったとしてもルカが俺なんかの言う事を聞いてくれるとも思えない。
あんなに自信満々に私が世界を変えるって言ってたし、あの熱は簡単に冷める様なもんじゃ無いだろうしな……うん、本気で困ったなこれ。
「……別に辞めてあげても良いわよ、この研究」
「まぁそうだよな、急に辞めて欲しいなんて言われても困るよな。 それに正直ルカの研究が関係あるかもわかって……って今なんて言ったの?」
なんかさっきからこんな展開多いけど今回は流石に聞き間違いだよね? 全く理由ないもんね??
「や、辞めてあげても良いって言ったのよ!!」
俺の肩にもたれる横顔を真っ赤に染めてルカは今迄で一番の声を出した。
「えーっと、何で急に?」
ってか肩が異常に熱いんだが。
「そ、それは……まぁ心境の変化ってやつよ」
手をもじもじさせながらルカは小さく呟いた。
いやいやいやいや! そんな一気に変わるものなの?
秋の空どころの話じゃない速さじゃん!!
「……でも一つだけ条件があるの」
ルカのその言葉を聞いた瞬間、俺の背中に汗が滲むのを感じた。
条件って……長年の研究を辞めても良いって言うくらいだし相当厳しい条件なんじゃ?
……なんか本当に人体実験な気がしてきたぞ、嫌な予想はこの世界ではよく当たるからな。
「そ、その条件って?」
実験体にされる以外の条件である事を願いながら俺は恐る恐るルカに尋ねた。
……実験の内容どんなのだろう。
既に諦めながら俺はルカの言葉を待つ。
その後少し時間を置いてルカは深呼吸を挟んだのち、急に立ち上がって口を開いた。
「わ、私の! こ、恋人になって欲しいの!!」
目の前で震えた声を響かせ、俺に頭を下げるルカの所作はまるで誰かに告白している様だった。
……ん? いや、これって告白してるんじゃ?? えっーと、誰に??
「……う、嘘だろ?」
予想外の展開に俺は小さな声でそう呟く事しか出来なかった。
更新大幅に遅れてすいませんでした。




