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8話 貴方はそこにいる意味ありますか?

 

 目の前で繰り広げられる光景に俺は目を奪われた。


 今の俺よりも背が小さい筈の少年は、いや、結衣ちゃんは自身よりも何倍も大きい獣達を次々に倒していく。 

 

 す、すげぇー! バトル漫画みたいだ! こ、これだよこれ!! 俺が望んでた展開はこういうのだよ!

……まぁ出来るなら助ける側をやりたかったけど。

 


「ふぅー、まぁこれで一先ずは安心でしょう。 それにしても良かったです、最悪もう会えないんじゃないかと思ってましたから」

 

 最後の狼が甲高い悲鳴を響かせた後、結衣ちゃんは俺達の方へ近付く。

 

「えっ? もしかしてゆい? それに私なんで生きてるの??」

 

 今になって目を開けたのか青蜜は結衣ちゃんの存在にようやく気付く。

 

「すいません、もう少し早く来れたら良かったですね。 どうやら怖い思いをさせちゃったみたいで」

 

 震える青蜜の肩に手を置いて結衣ちゃんは優しく微笑む。

 

「ゆ、ゆい……ありがとう」

 

 そんな結衣ちゃんに青蜜も身体を預けていた。


 え? なにこの状況。 結衣ちゃんの見た目が男の子っぽいからかラブロマンスでも始まりそうな勢いなんだが??

 いや、別に良いんだけどさ、結衣ちゃんがあの狼を倒したのも俺が何も出来なかったのも事実だし……く、悔しい。


「ここからは私が二人を護りますから安心してくださいね」

 

 青蜜を優しく包み込みながら結衣ちゃんは俺にウィンクをする。

 

 滅茶苦茶格好良いな、おい。 まるで白馬の王子だな、あっ白馬の王女か?

 

「まどかさんとりあえずここは危険ですから移動しましょう。 あかねちゃんは私がこのまま抱えます。 ここに来る途中大きなお屋敷の様なものを見ました、一先ずはそこに向かいましょう。 事情を言えば助けてもらえるかも知れませんから」

 

「あ、あぁ」

 

 お屋敷って多分リアが言ってたルカ一族のだよな? へ、へぇーそう、もう見つけてたんだ。

 

「では行きましょう、道が険しいので気を付けて下さい」

 

 俺と青蜜に気を使ってか結衣ちゃんはゆっくりと歩き始める。

 


 うん、まぁ改めて思ったけど俺要らないよね? これが一つの物語だとしたら俺の存在って明らかにノイズじゃん。 主人公どころかモブだよ、ずっとついて来てるだけのモブ、所謂ストーカーモブだよ。 ……何だよ、ストーカーモブって。

 

 堂々と目の前を歩く結衣ちゃんの大きな背中を見つめながら、俺は屋敷まで歩く間、ずっと自分の存在意義を確認して  いた。

 



「見えましたあれです。 ってどうしたんですかまどかさん? 何でそんな悲しい顔してるんですか??」

 

「……してないもん」

 

 色々考えたけど俺が居て良かった出来事が一個も思いつかなかったからなんて言えない。

 

「今にも泣き出しそうじゃないですか! す、すいません。 まどかさんも怖かったんですよね。 当然ですよね、あと一歩で死ぬ所だったんですから。 私ったら今更こんな当たり前の事に気付くなんて……でも大丈夫です、あと少しですから、ね? 頑張りましょう?」

 

 そう言って結衣ちゃんは俺の手を優しく掴む。

 

「……うん」

 

 今更違うとも言えず、俺はそのまま結衣ちゃんに身を任せた。 


 な、なんか凄い罪悪感を感じるな、正直あの狼の事なんてもう記憶から無くなってたし。 

 

 いつの間にか背で寝ている青蜜を片手で支え、もう一歩の手で俺の手を引く様は最早母親の様だ。

 

 ってか結衣ちゃん見た目に反比例して母性が桁違いに上がってない? 元から強かったけど今や聖母みたいじゃん。 まぁ控えめに言っても最高だけどさ!



 それからまた少し歩き俺達はようやく屋敷まで辿り着いた。おそらく歩いて1時間程だっただろう、この足の割には早く着く事が出来たなと安心する。 

 屋敷の近くに飛ばされた事は今回で唯一の幸運と言っても良いかも知れないな。

 

 それにしても近くで見ると本当に大きい家だと実感するな。 高さは無いけど広さ的にはおっさんの城と変わらないくらいじゃないか? 

 

 ……なんかさ、大きい家見ると緊張するよね。 これ絶対俺だけじゃ無いと思う、まぁ青蜜と結衣ちゃんは何となくだけど、慣れてそうに見えるけど。

 

「すいませーん! 誰か居ませんか?」

 

 思った通り結衣ちゃんは家の前にたどり着いた瞬間に声を張って叫んだ。

 

「……反応無さそうですね。 」

 

 やっぱ全然気にしないんだな。 

 いや、そんな事より本当に誰もいないのか?

 ここにルカ・ルーレットが居なかったら、もう手掛りないぞ?


「どうしましょうかまどかさん? 勝手に入りましょうか?」


「うーん、勝手に入るって言っても鍵なんて無いし、誰か帰って来るまで待つしかないんじゃないかな?」


「え? あぁ、そうですよね! すいません、壊せそうな扉でしたのでつい!!」


 舌を少し出して可愛らしく結衣ちゃんは言う。


 え? こ、壊すつもりだったの? しかもついって……母性と一緒に破壊性も増してるんじゃ。


 俺はそのまま目の前を塞ぐ大きな扉に目を向ける。


 ってかこれ壊せるの? めっちゃ重厚感あるけど??

 ……結衣ちゃんにだけは殴られない様にしないとな。


「こ、壊すのは最終手段にしようか。 これだけ大きな屋敷だし、後々面倒になったら困るしね」


 それっぽい話でなんとか壊さない方向に持っていこうと思っていた矢先、目の前の扉は突如として鈍い音を響かせながら開き始めた。


「あんた達誰? もしかして殺し屋?」


 人一人分程開いた扉の奥から物騒な言葉と共に女の子が姿を見せた。


 殺し屋って……第一声に出る言葉か? 


 俺はその声の主へと視線を向ける。

 

 目の前には、青蜜や結衣ちゃんに負けない程の美少女が一人佇んでいた。


 

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