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監禁

スカル達がもうひとりのナンバーズと遭遇していたころ、キリヒトは戦い続けていた。

辺りには折れた剣や、破壊された武器が無数に転がっている。


「…能力は金属かよ」


息を切らしながらキリヒトはそう言った。


「ご明答…と言いたいけど、時間かかりすぎ」


メタルが両手に持った、何本目かもわからない刀がぐねぐねと動く。


「私は自由に鋼を操れるし、生成することもできるんだ。

 生成するのは結構疲れるんだけどね」


キリヒトがかわしたはずの刃で切りつけられたのは、瞬間的に刃の形状を変化させたことによるものだった。

超再生と変身による消耗を狙った戦い方は、十分に効果を発揮していた。


「とはいっても、今の君ほどじゃないよ」


キリヒトの『喰らうもの』は相変わらず燃費が悪く、火力と同様に負担も大きかった。

それを理解したキリヒトは息を大きく吐いて、変身を解いた。


「うーん、賢明な判断だけど…やっぱり遅すぎ」


そう言って、メタルは切りかかった。

激しい金属音がして、何度目かも分からない火花が飛び散った。


「変身を解けばこれが使える…!」


キリヒトは両腕を回転鋸に変形させて、受け止めていた。


「はは、そんなもん予測してるに決まってるでしょ」


メタルの持った刀がキリヒトの腕に入り込み、回転を止める。

驚いたキリヒトは一瞬動きが止まり、足を払われ後ろに倒れ込んだ。

キリヒトの体が二本の刀で地面に固定される。


「こんなモン…!!」


刃を力で強引に引きちぎろうとした瞬間、メタルは両手を離してキリヒトに大きな機械の首輪を巻き付けた。

途端に鋸が消滅し、キリヒトの腕は元に戻る。

縫い留められた部分からは血が吹き出し、キリヒトは苦痛に顔を歪めた。


「うぐっ…何だコレ…」


刃を外されても力が入らず、メタルを押しのけることもできない。

さらに首輪に手をかけたが、さほど頑丈でもないのに破壊できない。


「ふー、やっとだ。苦労したよ。

 上からの命令は生け捕りだからね」


もがくキリヒトの上で、メタルはそう言った。


「クソ…血が止まらねえ!何しやがった!」


メタルはキリヒトにつけられた大きな首輪を指で軽く叩いた。


「君は今からただの人間ってこと」


「てめ…がはっ!」


立ち上がったメタルに腹を軽く蹴られただけで、キリヒトは悶絶した。


「私達が持つような能力を作ったシルヴァは、それを封じる方法も研究したんだ。

 それで、やっと一個それができたってわけ」


メタルは倒れたキリヒトを何度か蹴り、意地の悪い笑みを浮かべる。


「こんなのを欲しがるなんて、アグ様は何を考えているんだろうね?」


頭を踏みつけ、キリヒトが呻き声を発するたびに嬉しそうに笑う。

しばらく痛めつけた後、メタルは細い鋼線を生成しキリヒトの両手を縛り上げる。

キリヒトを担ぎ上げ、メタルはスカル達がいる方角を向いた。


「はぁ、ステルスは随分と手間取ってるみたいだ。仕方ない、私から向かおうか」



「結果的に勝ててよかったよ」


「なに…やってんだ…!」


スカルの口から出た言葉に、キリヒトは顔を歪めた。

キリヒトは銃を頭につきつけられ、もう片方の手で首を抑えられている。

ステルスの喉元にナイフを突きつけるスカル達を見ながら、メタルは呆れたように笑った。


「はっ、まさかただの人間に彼が捕獲されてるなんてね、何でも予定通りにはいかないよ」


メタルはじりじりと動きながら、木を背にした。


「ソイツは銃なんかじゃ死なないだろ。こっちの人質もナイフで死ぬとは思えんが」


スカルが手で指示すると、ぐいとステルスの頭を持ち上げてメルートはナイフを首に食い込ませた。


「ところが残念、こっちの人質は死ぬのさ」


そう言ってメタルは銃を持っていない方の手で、キリヒトの頬を切った。

実際は手から小さな刃物を出したのだが、遠目には爪で切られたように見える。


「ぐ…」


傷口から血が流れ出すが、すぐに治らない。


「面倒な説明は省くけど、彼は君たちが聞いたみたいに不死身じゃなくなったんだ。

 だから…こっちとそっちは同条件じゃないんだ。分かったら彼を解放してくれるかな?」


スカル側がステルスを殺すのにかかる時間は、メタルがキリヒトを殺してそれを止めるのに十分だった。

それを理解して、スカルは悔しそうに舌打ちをした。


「どうします、アレは嘘じゃなさそうですよ…」


クラムが不安そうにスカルに視線を向ける。


「やめろ、ソイツを離すんじゃねえっ…もがっ」


叫ぶキリヒトの口を、メタルは手で塞いだ。


「あんまり時間をもたせるのも面倒だね。5、数えるうちに離してよ」


キリヒトを殺すのはメタルにとっても好ましいことではなかったが、

捕獲されているステルスを解放するためのハッタリとしては十分だった。


「…!!」


キリヒトは激しくもがくが、メタルの体はびくともしない。


「ごーお、よーん…」


「わかった」


スカルが手で指示を出すと、メルートはステルスから離れた。


「あれ、あっけなかったね」


スカルは銃を捨て、両手を頭の後ろに回した。

さらに、2,3歩下がり膝をついた。


「抵抗はしない。だから、捕虜条約に法った扱いをしてもらおうか」


後ろの二人も同じように銃を捨てる。


「条約はどうでもいいけど、君たちにはしてもらうことがあるからね。

 無駄な抵抗をしなけりゃ、命の心配をすることもないよ」


メタルはキリヒトを地面に突き飛ばした。


「ぐっ…クソ、てめえら何で…!」


キリヒトの怒鳴り声を意に介さず、メタルはステルスの方へと歩き出した。


「よっ…と」


屈みこみ、ステルスの体を縛っている鋼線を切ろうとする。

キリヒトはまだ怒鳴り続けている。

メタルの視線が外れた瞬間、スカルは地面にナイフを突き刺した。

空を切る音がして、ステルスを縛ったようなワイヤートラップがメタルを襲う。


「はっ!!」


だが、そのワイヤーをメタルは剣で簡単に切断した。


「やっぱり仕掛けてきたね。でも、発動するまで全く見えなかったよ。

 先にステルスがやられてなかったらヤバかったかも」


諦めたように下を向くスカルを褒めて、メタルはステルスの鋼線を切断した。


「ああ、それと…」


立ち上がったメタルは、地面に突っ伏しているキリヒトの顔を思い切り蹴りつけた。


「あがっ!!」


「無駄な抵抗はもうしないでね」


トラップに使った鋼線で、3人は両腕を後ろに縛られた。

その後、メタルはステルスの拘束を解く。

両腕が自由になった瞬間、ステルスは口枷を自分で引きちぎった。


「人間と、それに与する異形共が…よくもやってくれたな」


憤怒に目をギラつかせ、降伏した3人の元へ近づこうとするステルスの肩を、

メタルが抑える。


「彼らに手出しするのやめてくれないかな?

 見たところ、結構優秀だから使えると思うんだよね。

 …君が負けるぐらいだし」


ステルスはその言葉にピタリと足を止めた。


「負けたこと…黙っててあげるから、今回は頼むよ」


仮面の奥で両方の表情は伺えないが、空気が緊張しているのが分かる。

だが、ふっとステルスの方が力を抜いた。


「…仕方ない。油断していたのは事実だ」


「これで貸し借りナシってことで」


そう言ってメタルは降伏した3人を拘束した。


捕まった後、4人は目隠しをされて彼らの拠点である建物に連行された。

武器も道具も全て奪われ、キリヒトの力も封じられていた。

4人は乱暴に拠点内の牢へ放り込まれ、地面に倒れ伏す。

土埃で汚れた床なうえに、ベッド一つ無い石造りの牢は、待遇の悪さを示していた。


「手枷は仕事のときだけ外してあげるよ。彼の首輪を壊したりしないようにね。

 首輪の爆弾が作動してこの牢がまるごと吹っ飛ぶのは見たくないから」


4人は何も言わず、キリヒトの荒い呼吸だけが暗い牢に響く。

その様子をしばらく眺めてから、メタルはガチャンと牢の鍵を閉めて歩き出した。

だが2,3歩ほどで足を止め、再び牢の扉を開ける。


「忘れてた。尋問…っていうか拷問しなきゃいけないんだ。

 君たちの国について、色々と聞かなきゃいけないから」


メタルは鉄格子にもたれかかり、倒れている4人を見回す。


「誰にしようかな?」


キリヒトはいち早く体を反転させると、地面に伏したままメタルを見上げ口を開いた。


「コイツらはどうなってもいい、俺は勘弁してくれ」


メタルの後ろで立っていたステルスも含め、全員が目を見開いた。


「すごいね、ある意味潔いよ」


「…見損ないました」


クラムが吐き捨てるように言うと、キリヒトは振り返って叫んだ。


「うるせえ!立場が上の俺を隊長扱いしないうえに、こんな結果にしやがって!

 最初から俺の指揮通りにしてればこんな…!!」


キリヒトの言葉は、メタルに頭を踏みつけられることで遮られた。


「ああ、君が隊長だったんだ。残念だったね、お願いされると逆のことをしたくなっちゃう」


「何でだよ、やめろ!」


キリヒトは叫びながら首輪を掴まれ、牢の外へと引きずられていった。


「ずいぶん立派な隊長を持ったな。同情する」


後に残ったステルスが、3人を見てそう言った。


「そうかい、どうも」


そう言い返したスカルを一瞥して、ステルスもその場を去った。

足音が遠ざかったのを確認してからメルートは起き上がり、壁を背にして座った。


「…見たか?」


メルートの囁きに、スカルは頷いて同じように小声で返事をした。


「ああ」


スカルはうつ伏せに倒れたまま、手をもぞもぞと動かしている。

クラムは自分を挟んでされる二人のやりとりを見て、スカルに尋ねた。


「…何の事ですか?」


「連れて行かれる瞬間のキリヒト…隊長の表情だ…ぐっ」


鈍い音がして、スカルの肩関節が外れた。

さらに体を起こし、縛られた腕を前に持ってきて、鋼線を観察し始める。


「ちょっ、何してるんですか!?」


スカルの方を見て慌てるクラムの眼の前を、小さな棒が横切った。


「使え。腹の中に入れてた非常用だ」


「どーも。胃液でベッタベタだな」


手のひらに収まるようなサイズの棒には、何箇所も切れ込みが入れられている。

何度か変形させると棒は、糸切りバサミのような形になった。

スカルは鋼線を止めているところを特定し、注意深くその部分だけを切った。


「足音は?」


スカルの問いに、メルートはしばらく目を閉じてから答えた。


「約20m先に1。遠ざかってるからしばらくは問題ない」


スカルは外した肩を戻して、二人の鋼線も同じように切断し始めた。


「さっきから何してるんですか!?私達はあんな隊長のためにまた戦うんですか?」


「キリヒトは連れて行かれる瞬間、笑ってた」


「…!」


クラムはその言葉に黙り込んだ。

パチンと音がして、メルートの腕が自由になる。


「…偶然かは知らないが、ここにはおそらく国王が監禁されている。足音が多くて聞き取りづらいがな。

 奴ら…ナンバーズとか言ったか。戦闘は強くても、それ以外がお粗末だ」


体を起こしたクラムの鋼線を切りながら、スカルはメルートの言葉に再び頷いた。


「どこまでが計算で、どこまでがキリヒトの素なのか分からん。

 だが…少なくとも奴は責任をとろうとしたのは確かだ」


クラムの両腕が自由になったのを確認して、切断した鋼線に細工を始める。


「俺はいい加減な指揮をする隊長を信じる気は無いし、昨日今日知り合った相手に従う気も無い。

 でもな、身を挺して自分を庇った相手を無視するほど恩知らずでも無い」


手早く細工を済ませ、さっきまでと同じような見た目にする。


「近付いてくる。約25。スカル、早くしろ」


「分かってる、ちょっと待てって」


同じように他のにも細工を施し、放り込まれた時と同じような姿勢に戻す。


「だから…クラム、お前も戻ってきたアイツに応急手当ぐらいはしてやってもいいんじゃないか」


歩いてきた見張りは倒れている3人の方を少し見ただけで、欠伸をしながら通り過ぎていった。

足音が聞こえなくなってから、クラムは顔を上げた。


「…最初っから、ちゃんと言ってくれればいいのに」


スカルは少しだけ、ナシャエルの考えが分かり始めた気がしていた。

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