三年目の
勇者と言って誰もが思い浮かべるのは、剣を持ち魔法を操って魔王を倒すために旅をする正義の味方でしょうか。
私がこの世界に来る前には、某ネット小説サイトで「自己中」「独善的」「道化」「(笑)」等のイメージが付きましたが。
この世界では、神託も異世界からの召喚魔法陣もありません。なので神に任じられた勇者や、異世界からの勇者といった存在は無いのです。
この世界の勇者は、光神教が指名して任命しただけの存在。腕が良い冒険者に付けられた称号でしかありません。
「ユーリ、心当たりは無いのだな?」
「ええ。まだ光神教には何もしていませんわ」
大体の日本人の例に漏れず、私も宗教には興味がありません。なので、光神教は放置していました。
獣人虐待の元凶なので気に食わないのですが、宗教に絡んでろくなことはないと思ったからです。
王都に着いた私とお父様は、翌日の朝一番で王城に呼び出されました。
謁見の間には、前回同様大勢の重臣たち。そして、四人のむさ苦しい男たち。
「陛下、ユーリ・マゼランお召しにより参上いたしました」
「貴様が元凶かっ!」
陛下に挨拶すると、四人のうちの一人が殴りかかって来ました。
「控えぬか、この無礼者!」
横にいたお父様が取り押さえ、床に組み伏しました。それを見て残りの三人も身構えます。
「陛下、我が娘に乱暴を働こうとしたこの男、首を跳ねる許可を出していただきたい」
「そちの怒りはもっとも。しかし、そんなのでも光神教が認めた勇者。話を聞かねばならぬ」
この世界の勇者は、最近流行りの話を聞かない独善的な百害あって一利無しな勇者ですか。
「では手短にしろ。貴様ら何用で娘を呼び出した?」
「その前に放せ!」
「陛下は首を跳ねる許可を下されなかったが、放せとは仰せになっておらん。そのまま話せ」
激オコ状態のお父様は当然として、陛下を始めい並ぶ皆様誰一人放すよう言いません。
「貴様、勇者である私に対して無礼であろう!」
「ふん、勇者と言っても所詮平民。罪人を野放しにするほど我が国は甘くないぞ」
勇者だから敬えとでも言いたいのでしょうかね。でも、勇者という肩書きは、光神教が決めたもの。我が国には通用しません。
普段なら、国の最大宗教である光神教には一定の便宜を図ります。しかし、今回は別。
平民の勇者が上位貴族の令嬢に殴りかかって無罪放免となれば、王国が教団の下についたと思われます。
そんな国体を揺るがすような真似はしません。スエズでは、カノッサの屈辱は起きませんよ。
「俺達は、冒険者ギルドを潰した極悪人に天誅を下すために来たのだ。それを邪魔するならば、神敵と断ずるぞ!」
あらまあ、冒険者ギルドを潰した余波でしたか。そんな事もありましたねぇ。あの頃は私も若かった。
「それなら何故今さら?もう三年も経っているのに?」
「それをお前が言うのか!全てお前のせいだろうが!」
疑問を口にしたら、激昂されました。私、勇者との接点も光神教との接点も無かった筈ですが?
「お前のせいで冒険者ギルドが潰れ、支援が受けれなくなったんだ!この国に来るのにどんなに苦労したと思っているのだ!」
「光神教の教会が無い国では、冒険者ギルドが頼りだったんだ。それを潰された俺達の苦労、償ってもらうぞ!」
ガタイの良い二人が怒鳴りました。武器を取り上げられていますが、戦士職ですかね。
「冒険者ギルドは組織ぐるみで犯罪を犯していたから潰されたのよ。その責任なんてとる必要は無いわ」
犯罪組織を潰したから不便になった。その責任を取れと言われても、その必要があるとは思えません。
「冒険者ギルドは正義だ!勇者である俺が所属しているのだから、正義の集団だというのは常識だろう!」
出ました、勇者様の超理論。自分が居るから正義だなんて、本気で通用するとでも思っているのでしょうか?
「あなたが正義?女児に問答無用で殴りかかる人のどこに正義があると言うの?」
「そうだ、幼女こそが正義、幼女こそが全て、美幼女は神!それが常識だ!」
文官が並ぶ辺りから私の質問を応援する声が飛んだのですが、何故か嬉しくなく背筋に悪寒が走りました。
「……なあ、俺よりもあいつを拘束すべきなんじゃないか?」
「私もそんな気がする」
勇者とお父様の間で、意見の一致をしたようです。私もそうして欲しいです。
「あー、奴は『イエスロリータ、ノータッチ』を守っとる。気持ちは分かるが話を進めて欲しいのだが」
陛下から話を進めるようにとの沙汰がありました。個人的には放置して欲しくないのですが、先に勇者との決着をつけましょう。




