見るべき現実
「まあ、個人的な趣味の話は置いておきましょう」
「うむ、奴の顔は覚えた。しっかり対策するから心配はいらぬ」
流石お父様です。出来れば一党丸ごとどうにかしてください。変態の相手はしたくありません。
「先ほど、おかしな事を口にしていましたね。勇者は正義だとか。この世に正義など存在しませんよ?」
「貴様、神に選ばれた勇者を愚弄するか!」
「そうです、冷血姫様!幼女は正義、これは未来永劫不変の真理ですぞ!」
ちょっと外野が煩いです。変態には退場願いたいですね。
「えっと、陛下。話が進まないので……」
「うむ。そこな文官、二枚目のイエローで退場!」
変態文官は騎士に連れられて退場しました。言葉だけで、悪質な反則ではないので文官生命には支障無いそうです。
「さて、勇者さん。先程も言いましたが、この世に正義などありません。そんな物を根拠に人を誹謗し暴力に訴えるなど正気ですか?」
「ふざけるな!神に認められた勇者が正義でない筈がないだろう!」
神を出せば何でも通ると思っているのですかね。これだから宗教は嫌いです。
「では、勇者さんは神にお会いになった事があるのですか?」
「無い。神に会える人間など居るわけ無いだろう」
そんな事も知らないのかと、嘲る勇者。
「では、神に認められたという勇者さんは、何を根拠に神に認められたと言い張るのですか?」
神の会えない人間が、どうやって神の意思を確認したのか。明らかな矛盾が生じます。
「それは、神の代理足る光神教の教皇様がだなあ……」
「では、あなたは神に認められた勇者ではなく、人に任じられた勇者ですね?」
驚きを露にし、硬直する勇者。周囲に「神に認められた勇者」とおだてられ、それを信じ込んでいたのでしょうね。
でも、論理だって否定された事で動揺しているのでしょう。
「絶対なる神ならともかく、人が神の意思を騙り正義を口にするなど烏滸がましいと思いませんか?それは神を詐称する事にもなりますよ?」
周囲の高官がざわめきました。勇者に、そして背後にいる光神教に疑念を持ったようです。
「し、しかし冒険者ギルドの件は別だ。一部で不正があったからと潰すのはやりすぎだ!その元凶を排除するのは、間違いなく正義だ!」
正義正義と煩いですね。ならば、その正義とやらを壊してあげましょう。
「ならば、三つの質問をします。正義か悪かで答えて下さいね」
「何を聞くつもりかは知らんが、答えてやろうじゃないか」
これから出す質問のうち、二つは簡単に答えるでしょう。でも、最後の質問にどう反応するでしょうね。
「ある街道に、数件の宿屋がありました。各々は旅人の為に最低限に近い料金しかとらず、蓄えはありませんが仕事に誇りをもっていました」
「そんな人達は確かに居たな。貧しくも幸せそうな顔をしていた」
あら、そんな人達が本当に居るのですね。例え話しで捏造したのですが。
「でもある日、宿屋がある街道が使われなくなりました。このままでは宿屋は潰れ、一家は死ぬしかありません。その街道が使われなくなった原因を作り出した人達は悪ですか?」
「悪だ、悪に決まっている!旅人を思い、最低限の値段で暮らしてきた一家を追い詰めるなど言語道断!勇者の名に懸けて剣の錆びにしてくれる!」
予想通りの反応です。勇者パーティーの残りや、謁見の間の高官達も同意見のようですね。
「では次です。とある所に、新たな道を作る事になりました。それが出来れば、一ヶ月掛かった道のりが一週間に短縮出来ます」
「深い谷に橋が出来たり、深い森を突っ切る道が出来るとそうなるな」
文官からのあるあるコール。これも時たまある話です。
「しかし、それに反対する人達が居ました。彼らは悪ですか?正義ですか?」
「お前はバカか?そんなの悪に決まっている。便利になるのに反対するなんて、正気の沙汰じゃない」
自信タップリに返してくれました。まあ、そう答えるでしょうね。
「では、最後の質問です。一問目の宿屋の家族が、二問目で出来る新たな街道に反対しました」
勇者のみならず、文官や武官、陛下に王妃様まで「えっ!」と吹き出しを付けたくなる顔で私を見ました。
「新たな街道が出来れば、皆が便利になります。しかし、宿屋を営んでいた数家族は死ぬしかありません。さて、街道に反対した宿屋一家は正義ですか?悪ですか?」
正義だと答えれば、二問目での回答が間違いに。悪と答えれば、一問目の回答が間違いになります。
「くっ、そんな問題を出すなんて卑怯だぞ!」
「卑怯?こんな事はよくある事です。それが現実なんですよ。さあ、勇者さんお答えは?」
悔しそうに項垂れたまま、勇者は答えを返しませんでした。




