王都脱出
「事前の打ち合わせ通りに動く事も出来ないとは、国内最高の騎士団が聞いて呆れますね」
徐に歩き出した私に、獣人と騎士団双方の視線が集中しました。
「正規の作戦ならまだしも、こんな卑怯な事にやる気など出るはず無いだろうが」
先走った騎士がぼやきました。そんな口をきくのは、やるべき事をちゃんとやってからにしてほしいですね。
「獣人の捕縛すら出来ない、お飾りの騎士団が一端の口をききますね」
「我らとてやれば出来た!現に、気付かれずに包囲していたのだから!」
「それは私が鎧を脱ぐよう指示していたからでしょう?そうでなければ、音をたてる金属鎧を着て来るつもりだったわよね。だから獣人に悟られ逃げられていたんじゃないの?」
獣人サイドは、全員が首を縦に振って私の言葉を肯定しました。
「ガチャガチャ音がしてたから、逃げやすかったよなぁ」
「夜中に奇襲してきても、金属音で全て台無しになってたし」
「本当に有り難かったよなぁ」
獣人さん達のだめ押しに、騎士団はガックリと膝を付きました。
「さて、間抜けは放置して、獣人達には馬車に乗ってもらいます。この人質の命は惜しいでしょう?」
セティーが抱く白虎を、これ見よがしに見せつけます。
「皆、頼む。素直に馬車に乗ってくれ。冷血姫の機嫌を損ねたくない」
「お前らも、人質を取られていたのか。くそっ、冷血姫め!」
虎の獣人さんの懇願に、大熊猫獣人さんが悔しそうに叫びました。
「おい、その子を連れて逃げてくれ!お前たちも誇り高い狼獣人だろう?卑怯な人間の味方をする理由はないはずだ!」
狼獣人さんが悲痛な声で懇願します。でも、セティーは逃げる素振りを見せません。
「そう、狼獣人は誇り高いわね。誓った約束を違える事など無いほどに」
「貴様……彼女達に何をした!」
狼獣人さんが今にも飛び付いてきそうな程の怒りを顕にして問いかけました。
「取り引きをしただけよ。彼女達が連れていた狐獣人の子に危害を加えない約束で、私に忠誠を誓わせたの。ただそれだけよ」
「子供を質に誇りを踏みにじるとは……その子は無事なのだろうな!」
怒りのあまり、今の自分の立場を忘れているようですね。
「さあ?約束通り、私は危害を加えなかったわ。魔物が多い森で別れたから、今はどうなっているか知らないけど」
「きっ、貴様には人の情という物が無いのかぁ!」
ロープを強引に引きちぎり、私へと殴りかかる狼獣人さん。しかし、ミリーが私の前に立ち塞がります。
「どけぇ!そいつを殺せば、全て上手く回るんだ!」
「私はユーリ様に忠誠を誓いました。ユーリ様に危害を加えられるのを見逃す訳にはいきません」
「だが、お前達が守っていた子はもう……」
「私自身が狐っ子に危害を加えていない以上、約束は果たされているわ。狼獣人は、一方的に約束を破る種族ではないわよね」
馬車から護衛騎士の二人が駆けつけ、狼獣人さんを鉄の枷で拘束しました。
「そんな物まで持ってきていたのね」
「はっ、こんな事もあろうかと、準備しておきました」
リアルで「こんな事もあろうかと」を聞く事になると思いませんでした。
獣人さんを全員馬車に乗せると、虎の獣人さん達も乗り込みました。
「第一騎士団は、そのまま帰城。王妃様に作戦の成功を報告しなさい。私はこのまま領地まで帰ります」
屋敷には作戦後そのまま領地に帰ると言ってあります。お父様には騎士団長から報告がいくでしょう。
王都を四台の馬車を連ねて走れば、相応の注目を受けます。しかも、先頭の馬車の馭者台に私がいるので尚更です。
王都の正門を出ようという所で、門衛の騎士に呼び止められました。
「これはユーリ・マゼラン嬢、物々しい車列ですな」
「先程第一騎士団と協力して、スラムの獣人を一網打尽にしましたの。その獣人を持って帰る為の車列ですわ」
その言葉に、騎士と周囲に居た野次馬がざわめきました。
「なっ、スラムに潜伏していた獣人を一網打尽にですか?!我々が何度捕縛に行っても逃げられたのに!」
「お疑いならば、第一騎士団に問い合わせて下さいな。通っても宜しくて?」
「はっ、お通り下さって結構です」
獣人一掃の報に沸く王都の門を抜け、無事に王都を脱出する事に成功しました。
「流石に四台の馬車を連ねていたら止められるわね」
「第二騎士団、ちゃんと仕事してるんですねぇ」
一応仕事はしてるみたいです。内容が及第点に達しているかは別として。
「念のため距離を稼いで王都から離れるわよ」
「はい。進めるだけ進んで、適当な場所で野営ですね」
窮屈な馬車に押し込められた獣人さん達には悪いけど、今は進むのが先決です。
野営で真相を話したら、皆さんどんな反応しますかね。




