脱出作戦
「現在時間、十二時八分。最終段階に入ります。虎獣人達は所定の場所に隠してある馬車に乗りスラムに行きなさい。下手な事をすれば……わかるわね?」
「くっ、分かっている。だからあの子には手を出さないで欲しい」
屈辱に顔を歪め、幼子の命乞いをする虎の獣人。ナイスな演技です。
「約束通り、無事よ。早くしなさい」
せっつかれた虎の獣人は、フード付のローブを被り四つのグループに別れて担当の馬車に向かう。
「第一騎士団の方々も、配置に向かって下さい。不慮の事態が起きた時、獣人を逃がさぬようにね」
鎧を外し、騎士服のみの姿になった騎士がスラムに走ります。
金属の鎧なんか来ていたら音で獣人にバレますからね。
「ユーリ様、第二騎士団がスラムの獣人を捕まえられなかったのって、鎧が原因では?」
「その可能性は高いわね。耳が良い獣人の摘発に行くのに、ガチャガチャ音がする金属鎧を着ていくなんて……」
セティーの鋭いツッコミ。鎧を脱いで行くよう言った時には、盛大に反対されました。あれで国で最精鋭の部隊だと言うのですから、笑う気すら起きません。
「ユーリ様、私達も行きましょう。でも、何で作戦開始を中途半端な時間にしたんですか?十二時丁度でも良いと思うのですが……」
「特に理由はないわ。さあ、行きましょう」
白虎君を抱いたミリーとセティーを従え、私もスラムに向かいます。
作戦開始を十二時八分にしたのは、本当に下らない理由からです。
今日が十二月八日じゃなかっので、時間をそうしただけ。この世界に新高山は無いから意味ないですけどね。
「おお、本当に来てくれた!」
「これで隠れ住む生活からおさらばだ!」
スラムの作戦予定地である広場に着くと、虎の獣人が操る馬車が集合し終えた所でした。数人の獣人さんが出迎えています。
四台の馬車が固まって移動すると目立つので、バラバラの場所から来させたので時間が掛かり、徒歩の私とほぼ同着になりました。
「おい、そいつらは?」
「馬車二台の馭者をしてくれる協力者だ。狼の双子以外の獣人が馭者じゃ怪しまれるだろう?」
虎の獣人に私の護衛騎士の二人を同行させておきました。その二人を怪しんだようです。
「マゼラン家の騎士服に似た服を着てもらったからな。怪しむ人間はいないだろうさ」
「これが用意したメイド服です。狼獣人の娘さんに、先に馬車の中で着替えて貰って下さい」
護衛騎士の一人が、用意したメイド服を大熊猫獣人の人に渡しました。
「そうだな。おい、早く呼んでくれ!」
大熊猫の獣人さんが呼ぶよりも早く、周囲に隠れていた獣人の人々が現れました。
女性や子供は、念のため隠れていたようです。
「先に女子供からそっちの馬車に乗り込んでくれ。男性は念のため俺達と周囲の警戒を頼む」
「オッケーだ。もうすぐ自由になれると思うと、気が逸るな」
興奮した様子のスナメリ獣人の男性が叫びました。
「おいおい、一応静かにしてくれよ。極秘で動いてるのだからな」
苦笑いしながら嗜める虎の獣人さん。でも、興奮しつ我を忘れたのはスナメリの獣人さんだけではありませんでした。
「おっ、お前たち!大人しくしろ!」
全員が馬車に乗るまで、姿を現さずに包囲する予定の騎士が一人飛び出しました。
残りの騎士も釣られたのか仕方なくなのか、次々と姿を現します。
「くっ、騎士団だと?鎧を着ていないから気付かなかった!」
ああ、やっぱりセティーの指摘通り金属鎧の音が原因だったんですね。
「相手は十人だ、人数はこっちが多い。やっちまおう!」
力が強そうな大熊猫獣人さんが交戦を主張します。
「悪いな、抵抗しないでくれるか?」
「抵抗すると、彼女らに危害が加えられる可能性があるからな」
騎士団に対峙していた獣人の男性達は、声に振り返ると驚愕で棒立ちになりました。
味方と思っていた虎獣人の人々が、剣を馬車に乗った子供に向けているのです。
「どうしたんだ、何故騎士団に味方する!」
「こうするしか……これが最善の方法なんだ。抵抗を止めて、拘束されてくれ」
虎の獣人が寝返った現在、戦力でもスラム側は不利となりました。
その上女子供を人質に取られています。
「分かった、抵抗はしない。好きにすればいい」
力なく項垂れた獣人さん達を、虎の獣人さんが馬車に用意していたロープで縛っていきます。
程なく全ての獣人さんが拘束され、作戦は誰一人傷付く事なく終了しました。
さあ、黒幕の登場で作戦の〆としましょう。大熊猫の獣人さん、どんなモフり心地かなぁ。




