大胆な計画
昔々、拳聖を誇った大商人の邸宅跡。草木も眠る丑三つ時、廃墟と化した邸宅跡に集う怪しい影があった。
因みにその商人、拳一つでいかなる魔物でも葬ると言われた達人の兄であり、弟から手に入れた魔物の素材を売り捌き財をなした。
故に権勢を誇るのではなく、拳聖を誇っていた。
しかし仕入れを拳聖のみに頼っていた為、拳聖が闘えなくなれば仕入れを出来なくなる。
そして商人はあっけなく落ちぶれ、豪邸は廃墟と化した。
まあ、集まった者達にはそんな背景は知ったことではなく、ただ大人数が集まるのに都合が良いからここが選ばれたにすぎない。
「予定の者は全員集まったな?」
「ああ。これで同胞の解放がまた近付いた」
感無量といった面持ちで話す虎の獣人。その面前には、多種多様な獣人が集まっていた。
「では始めよう。注目してくれ」
言われるまでもなくその場の全員が注目していたが、様式美という奴だろう。
「もう知っていると思うが、我々は王都に残る獣人全員を逃がす為に来た。皆の知り合いで、ここに来ていない獣人は居ないだろうか?」
とは言ったものの、この場に獣人全員が来た訳ではない。家族連れの場合は家長のみが参加している。
暫し獣人達は周囲を見回し小声で声かけをしていたが、その声は次第に止んでいった。
「全員のようなので、話を進めよう。三日後の昼間、俺達は四台の馬車に分乗して門から王都を脱出する!」
門から堂々と、昼間に出るという話にざわめきが起きた。司会役の虎の獣人は両手で抑えるジェスチャーをしてざわめきを静めた。
「驚くのは無理もない。だが、十分過ぎる程に勝算がある。確か狼族に若い娘さんが居たな?」
「ああ、うちに双子の姉妹がいるが?」
大胆な脱出と狼双子がどう結びつくのかわからずに、聞かれるままに答える狼の獣人男性。
「その双子、馬車を操る事は出来るか?」
「簡単な馭者なら出来ると思うが、まさかうちの子に馭者をやらせるのか?」
獣人が馭者をする馬車など、門に行くどころか街中で騎士に止められるのがオチだろう。
話を聞いていた獣人の間に、不穏な空気が流れ始めた。
「言わんとすることはわかる。だがな、その双子にメイド服を着て馭者をしてもらえば成功する」
「はあ?メイド服を着るだけで、何で作戦が成功するんだよ?」
双子の親であるタスマニアオオカミの男性が思わず叫ぶ。
「気持ちは痛いほどわかるが、静かにしてくれ。この国の貴族で、マゼラン家を知っているか?」
「知らないはずないだろう?我ら獣人を狩る冷血姫。これまでに何十人もが犠牲になったって話だ」
集まった中には知り合いを捕らわれた者も居るのだろう。悔しそうに顔を歪めている。
「では、彼女がストレス解消用にと狼族の娘を二人側に置いているのも知っているな?」
「可哀想に、顔に青アザを付けて憔悴しているそうだ。彼女らも助けてやれないか?」
タスマニアオオカミの男性は、セティーとミリーも助けたいと言い出した。
真実を知ったら、一体どんな顔をするだろうか。
「それは無理だ。今回はスラムの全員で手一杯だからな。話を戻そう。狼の双子が馭者をしている馬車に、辺境伯家の家紋が付いていたら、騎士はどうするだろうな?」
「俺ら獣人がメイド服なんか着るはずない。だが、マゼラン家の狼族だけは例外だ……」
「そうか!マゼラン家の馬車を装って脱出するのか!」
大胆な計画に、獣人達は驚くやら感心するやらで収拾がつかない。
虎の獣人は、手を叩いて再び注目を集める。
「獣人に仇為すマゼラン家を利用して脱出する。痛快だろう?しかし、これは計画が漏れれば簡単に瓦解する綱渡りな計画でもある。人間にバレないよう十分に気を使って欲しい。今日は以上です」
説明を聞いた獣人達は、収まらぬ興奮に身を委ね家へと帰った。
その誰もが救い手は騎士団と通じているなどと思わず、
確実に訪れるだろう解放の日を夢に見ていた。




