和解
「……とまあ、このように私は獣人の方が大好きなので危害を加える事は基本やりません。ご理解いただけたでしょうか?」
にっこりと笑みを浮かべ兵士の方々を見ると、一斉に視線を逸らされました。
「やべぇ……目がイッテたよ!」
「逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい……」
「あいつ、完全に魂が抜けてやがる。再起出来るのか?」
あら、氷の温度調整失敗しましたか?兵士の皆さん顔が真っ青で震えてらっしゃいます。
「寒いですか?それと、ご理解いただけていないのでしたら、体感を……」
「「「「身に染みて理解できました!それだけはお許し下さい!」」」」
チッ、パンダ獣人さんやベンガル虎獣人さんやマレーバク獣人さんをモフりまくるチャンスだったのに!
「では氷を溶かしますが、妙な真似はしないで下さいね。もししたら……先程の三割増しでモフります!」
氷を溶かすと、誰一人動こうとしませんでした。ワオキツネザルの獣人さんは倒れてピクピクと動いています。
「なあ、危害は加えないって言ったけど……」
「あれって立派に危害になるんじゃね?」
ちょっとそこの兵士さん達、人聞きの悪いことを言わないで。私は欲望のままに愛でただけです。
「彼をそちらに引き渡したいのですが、幾つか条件を呑んで欲しいのです」
「条件だと?どんな条件だ?」
この中で一番偉いらしい、ミツユビナマケモノの獣人さんが緊張した面持ちで聞いてきました。
「まず、この事は秘密にして欲しいのです。彼の帰還に、私は一切関わっていない事にして欲しいのです」
「それは構わないが、何故そんな事を?」
「あなた方の矢面に立って戦うマゼランの者が、獣人の味方をしているとバレたら最悪殺されます」
答えると、一様に納得したという感じで頷いています。獣人さんは皆脳筋なのでしょうか。
「次に、これから集めた獣人さんを連れてくるつもりなので、受け入れをお願いします」
「それは願ってもない事だ。喜んで受け入れよう」
条件は呑んでもらえました。まあ、あちらにとって不利益にならないどころか利益にしかならない条件でしたからね。
「では、この子を宜しくお願いします」
狐っ子の背を押して引き渡します。正直言えば、一緒に居たいです。
断腸の思いで見送ると、狐っ子が振り返りました。
「ユーリちゃん、また会える?」
「そうね、すぐには無理だけど、大きくなったらね」
そう答えはしましたが、まず再会することは無いと思います。
ゲームの通りの展開ならば、私は処刑されます。逸脱させようとすれば、ヒロインが妨害してくるでしょう。
こういう転生ものでゲームのストーリーから外れる場合、ヒロインはざまぁされるのがお約束です。
それを座して待つということはまず無いと思います。
「私とこの騎士二名、この獣人さんで保護する獣人さんを連れてきます。いきなり攻撃などしないようにお願いしますね」
「もちろんです。ああはなりたくありませんから」
指差した先には、ワオキツネザルの獣人さんが倒れています。
ただ撫でただけなのですが、何故ああなったのでしょう?不思議な事もあるものです。
「それじゃあ、森の屋敷に行きましょう」
「ユーリちゃん!」
馬車に乗ろうとしたら、狐っ子が飛び付いてきました。反射的に抱き止めます。
「大きくなったら迎えに行くから、お嫁さんになってね」
「……来てくれたら、ね」
頬に当たる狐耳に名残を感じつつ離します。
恐らく、この約束が守られる事は無いでしょう。でも、狐っ子美少年にプロポーズされたこの思い出は、一生の宝物になりそうです。
手を振る狐っ子に手を振り返し、国境を後にします。
「この後は森の屋敷に滞在し、四人には特訓を受けてもらいます」
「特訓、ですか?」
首を傾げる獣人さん。モフりたいのですが、この後の特訓に支障が出たらまずいので自制します。
「そう、これから十年間全ての人と国を欺くのよ。徹底的に鍛えてあげるわ」
震えて抱き合っていますが、私怯えるような事を言ったでしょうか?
特訓と言っても、自分では動くなとか瞬きをするなとかの無茶を言うつもりは無いのですがね。




