お話(物理)
「まずは、この子をパナマまで送り届けるわ。王族に連なる子なのでしょう?」
「は、はい。でも、何故それを?」
狐っ子も狼獣人の二人も、そんな事はおくびにも出していませんでした。不審に思うのは当然でしょう。
「パナマでは、魔力の扱いに長けて知能が高い狐獣人が王族になり指導者となる。そうよね」
「その通りですが、よくご存知でしたね」
スエズ王国では、パナマ王国の内情など知られていません。なので、それを知っていた事に驚いたようです。
「仲良くするにも、敵対するにも相手の事を知るのは基本でしょう?」
本当はゲームの設定で知ったのですが、それは言えませんから。
大人四人の敬意が乗った視線が痛いです。本当は単なるゲームの知識なんです。
「私はこれからもスエズ国内から獣人を買い集めて、パナマ王国へと連れていくつもりです。狼獣人の二人にも、それを手伝って欲しいのです」
「私達に、ですか?」
「ええ。買い付けた獣人のケアを頼みたいわ。同じ獣人のあなた達の方が良いと思うの」
いくら私が獣人を気遣っても、人間の私は信用されないでしょう。
私と行動する彼女らも警戒される恐れはあるけれど、私よりはマシだと思います。
「貴女は、何の得があってそんな事を?バレたら辺境伯令嬢の地位を失うのでは?」
「それどころか、命も失うでしょうね。でもね、あなた達獣人をモフれるのなら、全てを賭ける事を厭わないわ」
そう断言すると、この数日のモフりを思い出したのでしょう。納得してくれました。
「わかりました、一度忠誠を誓ったのです。お手伝いさせて下さい」
「私もお手伝い致します。どうか、同胞をお助け下さい」
狼獣人の二人は手伝ってくれる事になりました。
これであの狼耳と尻尾をモフり放題です!
「ありがとう、頼むわね。外向けに辛く当たる事も多いと思うけど許してね」
この狼耳をモフれる。それだけであと十年は戦えます。
「それなら僕も一緒に!」
蚊帳の外になっていた狐っ子が、力強い目で私を見ています。
彼もモフれるのは大歓迎ですが、ここは心を鬼にします。
「それはダメ、あなたはパナマに帰らないと。魔力を操れる狐獣人は貴重なのでしょう?」
「はい、ポーションを作れる狐獣人の数は少ないのです。なので私達は命に代えてもこの方をパナマまで送らなければならないなのです。本当によくご存知ですね」
その知識も、ゲームの公式設定と小説からです。
ポーションの差で傷付いた騎士の復帰に差が出てパナマはスエズに負けている。
だから、彼にはパナマの為に帰国して欲しい。
「さあ、馬車に乗って。パナマに行きましょう」
森を通る道を一時間も走ればパナマの国境に着きます。関所のような物はありませんが、パナマの兵士が定期的に巡回をしています。
馬車を止め、最後に狐っ子をモフり倒していると巡回の兵士が来ました。
「お前達、スエズの者か!」
「その家紋は、マゼランの……出合え、者共出合え!」
はい、あっという間に囲まれました。うちは獣人の天敵と言える家柄ですから。
戦うつもりはないので、馬車から降りて説明をしましょう。
「戦うつもりは無いので、剣を納めてもらえませんか?」
「ぬっ、騎士二人と少女だと?我らスエズを舐めるな!」
「だから、話を聞きなさいって!」
一斉に襲いかかって来たので、馬車以外に広範囲凍結魔法を放ちました。
私と馬車以外は首から下が氷漬けとなりました。
「お嬢様、酷いです!」
「あっ、ごめんなさい。咄嗟で加減出来なかったのよ」
うちの騎士まで氷の中に閉じ込めてしまいました。そこだけ氷を溶かします。
「動けない!」
「くっ、殺せ!」
ワオキツネザルの獣人兵士さんから、くっころ頂きました。男性ですが、シマシマの尻尾をピンと立たせた姿がラブリーです。
「間柄を考えたら無理はないけど、ちょっと頭を冷やしてもらいましょうか。降りてきても大丈夫よ」
馬車に残った三人に降りるよう促します。狐っ子を見た兵士の皆さんは、一様に驚愕を隠しませんでした。
「王都で捕まりそうになっていたので、連れてきたのです。私が敵ではないとご理解頂けましたか?」
「マゼランの者を信じろと?悪い冗談だな」
我が家との確執を思えば当然の反応ですが、それでは困るのです。
「私は、やろうと思えばすぐにでもあなた方を殺せます。それをしないのが証明よ」
「こんな辱しめを受けるなら、殺された方がマシだ!」
くっころさん、強情ですね。ならば、見せしめとなって貰いましょう。
「手荒な事はしたくなかったのですが、仕方ありませんね。仕方なく、仕方なくやるのですからね?」
「おい、何をする!止めろ、やめ……アーーーッ!」
森に悲鳴が轟き、くっころさんは気絶しました。




