五話 冒険の始まり
ここは、イリシアネの街から少し離れた村。カリアス村だ。
ここで私は、3日ほど、スバルと村の宿屋に滞在していた。
自分の家は、イリシアネが炎上した時に、森に燃え移って、おそらく、今は私の家も燃えているだろう。
よく晴れていた日。突如現れた雲と、バクーンは、私から全てを奪った。
家、お父さん、思い出、全てを奪った。
ので、今こうして、宿屋にひきこもっていた。
ベッドに座り、脚を伸ばして、曇り空で雨が降っている外を映し出す窓を、首だけを傾けて眺めていた。
もう、涙は出尽くした。
ドアの方から、ノックする音が聞こえた。おそらくスバルだろう。
「おい、サクラ。入るぞ。」
「…いいよ。」
私は無愛想に言った。
スバルがゆっくりとドアを開けて入ってくる。
「なぁ。」
スバルがドアを閉めると、話しかけてきた。
しかし、私は大きな窓から見える景色を眺めているだけで、返事すらしなかった。
「お前、これからどうするつもりだ?」
スバルが言った質問に、体をビクッと震わせる。
現在は、スバルに宿屋の料金をいただいて、泊めさせてもらっている。(勿論一人一部屋)
ただし、スバルに迷惑をかけるだけなので、いつまでもこんな生活をしていてはいけない。
そして、これからのことについては手段は3つ。
一つめは自害だ。
暮らす場所も無いし、お金もない。
だから自殺してあの世でお父さんと一緒に暮らす。
二つめは奴隷になることだ。
奴隷商に自分を売り、私を引き取ってくれる人を探す。
奴隷を雇う人が、優しい人ではない可能性が高いので、死ぬより苦しい決断になるだろう。
三つめは…スバルについて行くことだ。
スバルについていくには、私も冒険者になる必要がある。スバルと共に魔王討伐をするためだ。
というか、それ以前に、仲間にしてくれる可能性が低いのだ。
前にもついてくるのはだめだと言っていた。
でも、お願いしてみる価値はある。
もしかしたら仲間にしてくれるかもしれない。
仲間にされなかったら、自害と奴隷の二つの手段から選ぶことになるだろう。
「今日は外に出てみるよ。お父さんのお墓に行きたい。」
私は返事をする。
ラクデーンの墓は、この村の北にある泉の近くだ。以外と距離は遠くない。
「分かった。道中、魔物が出るだろうから、俺も一緒に行くよ。」
と、スバルは言う。
確かに魔物は出てくるけど、あまり害を及ぼさない、おとなしい魔物ばかりなので、おそらく大丈夫だろう。
それでもスバルには付いて行ってほしい。
何故ついて行ってほしいかは、別の理由にあるからだ。
「うん…お願いね。」
私はある決断をし、ベッドから立ち上がった。
☆☆☆
部屋を出て、食堂に行き、軽い食事を済ませてから、宿屋をあとにした。
ローブで頭から脚までを覆い、革のブーツ履いて、墓に向かって歩いている。
雨がザーザーと降りつけ、ローブに染み込み、服が少し濡れて気持ち悪い。
「大丈夫か?寒くないか?」
スバルが私の体調を心配してくれる。
私は、雨で気持ち悪いだけで、寒気かはしない。全然平気だ。
心配してくれると、うれしい。
「いや、全然平気。」
「そうか。」
私はフードの中から微笑んで見せると、スバルはそれから歩みへと集中した。
数分歩いて、やっとお父さんのお墓にたどり着いた。
ここまで来るのに服が完全にビショビショになった。あとで水浴びしよう。
などと考えながら、私は墓石の前でしゃがむ。
こんな変わり果てた姿になってしまったお父さんを見ると、涙がこぼれてしまう。
なんであんな死に方をしてしまったんだ。
あのとき、私がかわりにバクーンの一撃を受けていればよかったのだ。
せめてもの恩返しができたのに、私は最後までお父さんに守られた。
「……………」
私もスバルも無言で手を合わせる。
(お父さん、私は、私は、)
頭の中で、ある思いをお父さんに伝え、立ち上がった。
「墓参りも終わったけど、サクラ、本当にどうするんだ?」
ああ、それだ。私は言う。
「あなたの、仲間にしてください!」
スバルは驚いたように目を開いた。
私はぬかるんだ土の地面に膝をつく。
「私、お金も持ってないし、武器も今は使えない。迷惑ばかりかけるかもしれない。でも!……私はあなたに、ついていきたいです!」
私は地面に手をついて、下に水溜りができているにも関わらず、頭を下げ、
「お願いします!私を連れて行ってください!」
と言った。
スバルは、私の言葉に圧倒されたのか、口をポカーンと開いている。
しかし構わず頭を地面につける。
雨が、大降りから小雨になってくるのを、体で感じた。
「サクラ、顔を上げろ。」
言われた通り、私はゆっくりと顔を上げた。
そして、スバルは私に、少し怖い顔で近づく。しゃがむ。
「辛い道になるぞ。」
「構いません。」
「死ぬかもしれないんだぞ。」
「生き地獄を味わうよりはよっぽどマシです。」
「何もかも……う、失うかもしれないんだぞ!」
「私にっ!失うものなんてありません!」
「っ!………」
私の言葉に再度圧倒されて、スバルは少し後退した。
私は、私の目はしっかりとスバルの目をみていた。
スバルが立ち上がって、溜息をつく。
いつの間にか、雨は止んでいた。
「…分かった。連れてってやる。」
「本当!?やっ…」
私は手を上げて喜ぼうとしたが、
「ただし!宿屋代と食事代分はきっちり働いてもらうぞ!」
「承知しました!じゃあ!じゃあ!連れてってくれるの?」
分かっているが、喜びをもう一度味わいたくて、再度聞いた。すると、やはり、
「おうおう。連れてってやる。」
スバルはこう言った。
「やったーーー!!」
私はスバルに、思わず抱きついた。
「ちょ!止めろ!」
「おんやぁ〜?スバルはロリコンなのかナビ?」
いつの間にか、ナビどらごんが出てきていた。
「るせぇっ!違うわっ!」
「あれれ〜?スバル、顔が赤いナビ。」
「だからチゲッ、おい!離せよ!」
スバルがそういうが、私は手を離そうとしなかった。
「強く…生きろよ。」
死んだはずのお父さんの声が、聞こえたような気がした。
〜第一章 完〜
はい、一章完結です。次回は、一章に出てきた登場人物の解説をやります。
それで、二章ですが………や、やべぇ、全く考えてねぇ…
ま、まぁ、ぼちぼち考えていきます。
というわけで、二章からもよろしくお願いします!




