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ただの召喚士(本人自称)  作者: 進夢 ロキ
第2章 ナルーガ王国の異変
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二十九話 黄昏た空は祝福の光

  目を開けた。空には先ほどのような黒い雲は一つも無く、橙色に輝いた夕暮れが広がっていた。黒い鳥が二羽、追いかけっこしているかのように、沈む太陽に飛んでいくのが見えるのだが……視界が狭い。できることならこの美しい景色を両目(、、)で眺めたかった。まぁ、仕方がない。

  ちょっと先には、小さなドラゴンが大の字に寝転がって、いびきをかいている。後ろには、岩に寄りかかった二人が、すやすや眠っている。


  平和な景色だ。

  闘いは終わった。

 

  膝をついて、大きな溜息を吐く。何も起こらないこの静止したような時間に、少し微笑んで平和を噛み締める。

「なんだろ、なんていうか、ものすごい達成感だなぁ。……何年ぶりだろ、このすがすがしい気分は」

  久しぶりの気分に、苦笑いして立ち上がり、目をつむって深呼吸をする。

「悪くない」

  気分は快晴だ。


 ☆☆☆


  色とりどりの服を着た踊り子たちが、くるくるくるくる踊り、それに兵士達は、酒を飲みながら見惚れる。

「あぁ、幸せナビぃ〜……ヒック」

  ナビどらごんもそれに同じで、兵士の頭に張り付いて赤い顔で踊り子達を見ている。

「全く。お前は相変わらずだな、身体は大丈夫なのか?」

  スバルが水が入ったコップを片手に苦笑いしながらナビどらごんを見る。

「ん? なんのことナビ?」

「……いや、なんでもない、じき分かるさ。ほれ」

  言ってスバルはナビどらごんに水を差し出す。ナビどらごんはそれを両手で受け取り、ぐーっと飲み干してゲップをする。

  スバルは苦笑いしながら空のコップを受け取って、反対方向の、サクラがいる方へと歩き出す。


  ここはナルーガ王国演舞会会場、及び舞踏会会場である。しかし、今は悪しき竜を倒した、勇者サクラの祝福会として、宴を開いている最中だ。

  王国中の定食店から、選りすぐりの料理人を招き、料理を作らせ、酒場の踊り子を五人ほど招き、踊りを披露してもらっている。

  宴は賑やかで、乾杯を交わす音や、兵士の笑う声など、少しうるさいくらいに聞こえてくる。

「ドラ! 薪木に火を吹け!」

「ピー!」

  料理人の威勢のいい声で、鍋の下に火が灯る。肉や野菜が炒められる音が辺りに響き、美味しそうな匂いが、厨房を包み込む。この音は、とてもいい音だ。

  他にも、何かを煮込む音や、揚げる音などが聞こえてくる。

  それらの音や、料理人のクッキングの様子を見て、サクラは興味津々に目を輝かせていた。

「サクラってそんなに食いしん坊だったっけ? 料理あんのになんでそこばっかり見てんだ? 出来立てがいいのか?」

「ん? うん、まぁそれもあるけど……このお姉さんすごいよ。ほら見て、この手際の良さ」

「ん? どれどれ」

  言われてスバルは厨房をを覗く。

「うおっ、確かにスゲェな」

  若い女性は、三つの薪木に火を灯し、右で肉を焼き、真ん中で鶏肉を揚げ、左でスープを温めている。調理で余る時間を使って、他の料理を作ったり材料を切ったり、塩をふったりと、忙しそうにも淡々と料理を作っている。

「ふふ、勇者様もやってみる?」

  それだけでなく、優しく微笑んで会話までしている。まさに真の料理人だ。

「え? あ、ぜ、ぜひ!」

「分かったわ。じゃあね、まずはこの野菜を……」

  サクラは若い女性のお料理指導に入った。

「はは、サクラの副職業(サブ)は料理人かな」

  スバルは苦笑いをして、踵を返す。

「さてと、これからどうするかな」

  言いながら顎に手を当てる。

  サクラという、冒険者の駆け出しが加わった事で、旅のスピードはいつもよりは少しばかり落ちると思われていたが、今回の一件で、サクラは格段に成長したため、最低でも剣の扱い方には慣れた事だろう。あとは、冒険者としての知識を教え込まなくてはならない。

  例えば、冒険者ランクだとか、裏姿(コードネーム)だとか、とにかくいろいろあるだろう。

  本当は自分の|力で(サポーターの力も少しは借りて)基礎の知識を学んで、冒険者人生を乗り越えていくのだが、サクラはまだ子供だ。少しでも大人の知識が必要だろう。

「あれ? スバルさん。難しい顔して、どうしたんですか?」

「ん? おお、ナルーガ」

「どうも」

  ナルーガは赤ワインが入ったグラスを右手に、左手をあげて挨拶をする。

  考えるのを辞め、近くの椅子に腰を下ろす。ナルーガは向かいに座り、ワインを丸テーブルの上に置く。

「お前、ワイン飲めんのか、すげぇな」

「はい、なんか飲めました」

「なんだそれ」

「あはは。スバルさんも、見たところ十八歳超えてそうですし、飲めるんじゃないですか?」

  ちなみにこの世界では、十八歳でもう大人で、この年齢からはお酒を飲んでも良いことになっている。

「今年で二十だけど、酒全般無理だ。酔いやすい体質みたいでな」

「確かに、そう見えなくもないです」

  言ってナルーガはワインを口に流して、溜息をつく。

「本当は、竜を倒したのは僕なんですけどね」

「ん? じゃあそう言えばいいじゃねぇか、僕が竜倒したんですよ! えっへん! ってな」

「それ、僕のマネですか? やめてください、全然似てませんって」

  ナルーガは苦笑いして、「なんかつまみくださーい!」と、体を傾け右手をあげて厨房に叫んだ。

「いや。でもいいんですよ。サクラさんで。サクラさんがいないと、あの竜は倒せなかっただろうし」

「でも、こうやってサクラの宴を開いたのも、サクラが寝ちまった時、バクーンを相手に時間を稼いで、サクラを守ったからこうしてあるもんなんだし、ちょっとくらいは目立ってもいいんじゃないのか?」

「いや、いいんですよこれで。……それに、サクラさんに何か、守ってもらった恩返しがしたくて」

「ふーん。……あ、もしかしてさぁ」

  スバルは頬杖をつく。

「お前サクラのこと、好きだろ」

「………………いやぁ〜〜〜〜、スバルさん鋭いですね」

  ナルーガは頭に手を置き、照れたような表情を見せる。そしてまた、ワインを口に流し込み、飲み干す。

「だろ? いやいくら頑張っても俺の目は誤魔化せないぞ」

  だが、この男、自分の恋に対してはとんでもなく鈍感である。その証拠は、次の会話を見れば分かるだろう。

「で、どうなんだ? 告んのか?」

「…………いやいや、そんなっ、告れませんよ流石に」

「いいじゃん、思い切って告っちまえよ。お前まだ若いし、意外といけんじゃない?」

「いや、無理です無理です。……スバルさんはどうなんですか?」

「ん? 何が?」

「サクラさんとスバルさん」

「が、どうしたの?」

「つり合うんじゃないですか?」

「何が?」

「………………………」

「………………………」

 

  この有り様である。


「ちょ、ちょっとワイン貰ってきますね」

「ん、おう」

  ナルーガはグラス片手に立ち上がり、人ごみに消えていく。

  それを首を巡らせて見終えたスバルは、懐からある小さな黒い球体を二つ取り出す。

  この球体は、バクーンを倒した際に、死体と血の代わりにあった、謎の球体だ。その球体は、中心部にいくにつれ、赤黒くなっており、吸い込まれそうな光を放っている。

「なんなんだろ、これ」

  スバルは七年間旅をしてきたのだが、今までこのような球体は見たことがない。ギルドに提出したら、この球体の正体が、分かるのではないだろうか。

「道具屋に売ってもいいんだよな。高く売れそうだし。……じゅるり。……よし、一つは売って、一つは提出しよう」

  言って懐に戻す。すると、束の間に料理が運ばれてきた。見る限り、野菜炒めのようなものだが……。

「お、来た来た、美味しそうですね」

  ちょうど、ナルーガがワイングラスと何かの木の実のジュースらしきものを持って帰ってきた。帰ってくるなり、ヨダレを垂らしてフォークを取り、目を輝かせる。

「食いしん坊だなお前も」

「育ち盛りですから」

「お前、十八かそれ以上だろ、それは育ち盛りじゃねぇよ」

「いただきまーす」

  スバルの声も耳に入れず、ナルーガは肉へと手を伸ばす。

「そういや、お前って、500年前にこの国を築いた英雄と同じ名前だよな」

  スバルは話して受け取ったジュースを口に含む。

「ええ、だってそれ僕ですし」

「……ッブーーーッ!」

「あーっ! 野菜炒めがぁぁっ!」

  野菜炒めは木の実ジュース味になってしまった。

「ゲホッ、ゲホッ、す、すまん」

「…………まぁ、仕方ないか」

  構わず野菜やら肉やらを口に運ぶナルーガ。

「……お前、どんだけ食いしん坊なんだよ。……っていうか、それ僕ってどういう事だよ!」

「あ、”一応”つけ忘れました。……実は、僕ってもともと、貴族でも兵士でもなんでもない平凡な少年だったんです。しかし、あの洞窟に入って、好奇心で箱を開けてしまって、妖刀に触れたら、身体を乗っ取られてしまって、代わりに今回みたいな竜になってしまったんですよね。それで、その僕の身体を奪った奴が、妖刀で僕を退治して、退治された挙句、500年間もの間封印されていたんです。で、その身体をのっとったやつが、竜を討ち取った英雄として、村を王国にして、ここまで発展させたんです」

「へ、そう、なのか」

「だから、僕があの箱を、開けなかったら、ナルーガ王国も無かっただろうし、こうしてスバルさんとお会いすることもなかったと思うんですよ。……だから、封印されて、なんか嬉しいような、悲しいような、複雑な気持ちです」

  本来ならば、ナルーガも、500年前の世代で、結婚して、子供にも恵まれ、幸せな生活を送っていただろうが、こうして封印されてしまい、この世代で生きることとなってしまった。

「な、なんか、大変だったんだな。……そういや、あの妖刀どうした?」

「憎悪がまた膨らまないうちに、洞窟に封印してきました。身体を僕に奪われた人には悪いんですけどね」

「大丈夫だよ。封印解いたやつ、王を殺した凶悪犯だから」

「そういやそうでしたね。…………あれ? っていうことは、僕やばくないですか?」

「……ん? ……あぁ、確かにやばいな」

  スバルが顎に手を当てた数秒後、会場入り口から初老の男を先頭に兵達がゾロゾロと、こちらに向かってくる。

  そして、ナルーガを取り囲むと、一斉に剣の矛先を首元に向ける。

「聞き込み調査したところ、お前が王様を殺害した犯人だと分かった! おとなしくしろ!」

  言われてナルーガは両手を挙げる。すると、初老の男が言う。

「この度明日、このものの公開処刑をする!」

「おい! 待て! 何かの間違いだ! そいつは悪くない!」

「何? わし等に刃向かう気か! 王を殺した男など死刑同然だろう! ……はっ、もしやお主、この男の仲間か?」

「あぁそうだよ! だからこいつを殺さないでく……」

「捕らえなさい!」

  初老の男が声をあげると、また別の兵士が入り口から出てきて、スバルの首に刃を向ける。

 ーーまずい! やっちまった

  スバルは歯を食いしばって、仕方なく両手を挙げる。

「おいおい! もったいぶってねぇで今すぐ殺せよ!」

「そうだそうだ!」

  突然、酔っ払った兵士の声が会場に響き、ナルーガとスバルは顔が真っ青になる。辺りは殺せコールの嵐になる。

  中には、スバルと同班になった兵士もいたのでで、反対するものもあったが、汗をかき、場の空気に逆らえない様子を見せている。

「おら座れぇぇ!」

  それに応えようとした兵士は、ナルーガの手を拘束し、斬首刑の態勢にさせた。右にスバルも同じだ。……いや、斬首刑の態勢にさせようとした。

「やめなさい!」

  突然、辺りに声が響いた。透き通っていたので、その場にいる全員が聞き取ることができた。当然、皆の動きが一斉に止まった。

  すると、少し間をおいて、会場の入り口からタンタンと、ヒールの歩く音が

 聞こえてくる。

  その音の持ち主は……。

  体に、ピンク色の舞踏会ドレスを纏い、髪の毛を束ねて短くした、色白の肌に可愛らしくも強そうな美貌を持つ、ナルーガ王国王女、その名もリーシア。

  その姿を横目で見たナルーガは、あまりの美しさに唾を飲んだ。

「この王国を救った者に対して非常に無礼です。その手をどけなさい!」

「し、しかし王女様、この者はお父様を殺めたのですよ!」

  反論にも、王女は王女らしい姿勢を崩さず、勇ましい顔で話す。

「お父様を殺めた者は別の者です。……それより聞きなさい! この者は、五百年前にこの国をお造りしなさった、英雄ナルーガ様です!」

  その言葉に、会場内はどよめきでいっぱいになる。「ナルーガ様だと?」と、半信半疑ながらも動揺する人や、「そんな、ナルーガ様が五百年も生きている筈がない!」と、存在を否定するものや、慌てふためいて頭を下げる者もいた。

  リーシアがゆっくり拘束された二人に向かって歩いてくる。そしてナルーガの耳元に囁くように何かを言った。

  そして、リーシアはナルーガを拘束から解き、手を取った。

「頭が高い!」

  リーシアの声と共に、その場にいる全員が土下座をした。

 

 ☆☆☆


  それからのこと、リーシアが囁いた一言で、ナルーガが王に昇級された。

  王国は騒然としたが、それも少しだけですぐに収まった。

  新しく王、王妃となったナルーガ王とリーシア姫は、もうスバル達の手の届かないところにあった。

  翌日、結婚式が行われ、王国中が大きな賑わいを見せ、新王、新王妃を心から祝福した。


『あなたが好き』

二章完結! お疲れ様でした!

次はキャラ紹介&ショートストーリーやります!

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