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寝たふり姫

王子の唇が触れた瞬間……タリアナの意識は深い眠りから浮上した。


ああ……頭が重い。


百年の眠りから引きずり上げられる感覚は、何度経験しても慣れっこない。


それに……


相変わらず、信じらんない!

普通は、初対面の少女に、こんな濃厚なキスしないよね!?


唇が離れると、耳元で熱っぽい声が聞こえてきた。


「なんと美しいんだ……。薔薇に覆われていた古城が開かれ、百年の眠りについていた姫が息を吹き返す……そんな伝説、信じていなかったが……来てみて正解だったよ。さあ、目を覚ましてくれ」


やだ、起きたくない。


今、目を開けたらどうなるか知っているし!


「タリアナ姫、君は俺の運命の女性だ」


頬を撫でる手付きに、鳥肌が立つ。


こいつは、リシャール・ヴァロワ。

この国の、第一王子である。


そして、最低浮気男。

既婚者である。


1回目は、ここで目を開いた。

そして、不覚にも……目の前にいた男に一目惚れした。


リシャールは顔がいい。

本当に、顔だけはいいんだ。


それに、タリアナには、曖昧だが前世の記憶がある。


この世界は、前世で有名だった童話の内容によく似ていた。


薔薇に覆われた古城。

百年の眠りについた姫。

そして、姫を迎えに来る素敵な王子様。


だからこそ、信じてしまったのだ。


童話の展開通り、王子様が、眠り姫を迎えに来てくれた。やったね! ハッピーエンド!


そう思ってしまった、あの時のタリアナに教えてやりたい。

現実は、そんな甘いもんじゃない!


ああ、あの時騙されなければ。

……そう思いながら眠りについた夜、

時間が巻き戻った。


キスで目覚めたこの瞬間に。


2回目も。

3回目も。

4回目も。


気がついたら、ここに戻っていた。


そして今。

5回目のやり直しが始まった。


……今回は、絶対にうまくやってみせるわ!


リシャールに目を開けたところを見られたら、プロポーズを断ろうが、逃げ出そうが、必ず強引に連れていかれる。


寝たふりをしてやり過ごせないことも既にわかってる。


確信したのは、前回の目覚めの時だ。

前世で有名だった童話には、確か古い原作があった。


内容は、うろ覚えではあるけど……

原作の王子が、眠ったままの姫を妊娠させた衝撃的な最低男だったことは覚えている。


リシャールは、明らかにそれ。

あいつは、もうすぐ、わたしを襲おうとする。


ーーとにかく、逃げ出すタイミングが重要だ。


リシャールは、数秒間だけベッドから離れる。


従者に声をかけるために、部屋の反対側の扉へ向かった時。

こっそり逃げ出せるタイミングは、そこだけだ。


あと少し……


今だ!


タリアナはベッドから飛び起きると、目覚めたばかりとは思えない素早い動きで窓枠を飛び越え、庭へ逃げ出した。


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