表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/3

1章-1 ③


酒場を出ると、商店でマンゴーを買った。


私はそれほどでもないけれど、お母さんはこの果物が好きなのだ。

私とお母さんの住む家は、町外れの丘を越えた、その先の森の中にある。

道と街灯のほかには何もない一本道を、ひたすら抜けていった先だ。


丘を登りきるころには、日はとっくに落ちていた。

暗がりの底に、町の明かりがぽつぽつと浮かんでいる。


丘の上には街灯が一本だけ立っていて、すでに明かりがともっていた。

その柱にそっと手を触れると、明かりはちらちらと頼りなく揺れる。

この街灯の光は、魔素によって生み出されている。


街灯だけではない。

この世界は、魔素に満ちている。

空間にも、物質にも、生き物の体の中にも、魔素は流れている。

それはあらゆるものへと姿を変える——明かりに、熱に、動力に。


人々はその性質を操って魔法を使い、火を、水を、風を、土を、いや、ありとあらゆるものを生み出すのだ。

私は買い物袋を街灯のわきに置いた。


手のひらで輪をつくり、体の奥を流れるエネルギーの感覚を、指先へと集めていく。

すると青白い光がぱちぱちと弾け、それに連動して、街灯の明かりがぐらりと揺らいだ。


私の生み出す光は、魔素の光とは少し違う。

不安定で、力を一点に凝縮したような、ぱちぱちと弾ける光。

このエネルギーは、魔素の変容そのものに干渉してしまう。

だから厄介なことに、少しでも漏れ出せば、まわりの機械をたやすく壊してしまうのだ。


この力のせいで、いったい何度怒られたことか。

子どもの頃なんて、ほんの少し興奮しただけで、まわりの機械をことごとく沈黙させていた。

ナチュラルボーン破壊神だった。


——でも、この力は、悪いことばかりじゃない。

私は街灯を離れ、暗がりのただなかへと、二、三歩、足を踏み出した。

町の明かりは丘のふもとに沈み、頭上には、砕いた硝子のような星が散らばっている。

風はなく、夜気には濡れた草の匂いだけが満ちていた。


もう一度、指先に意識を集める。

ぱち、と。青白い火花が、指の先にともった。

パチ、パチ、パチ——。雨だれにも、薪のはぜる音にも似て、そのどちらでもない、私だけの音。


手首をひるがえすと、光は手のひらを離れ、宙にふわりと留まった。

青白い輝きが闇を押しのけ、足もとの草の葉先を、つかのま銀色に縁取っていく。

「はぁ……やっぱり、きれい」

私は、自分にしか生み出せないこの光が、とても好きだ。


毎日こうして練習を重ねるうちに、制御はずいぶん上手くなった。

もう少し腕を上げたら、お母さんにも見せてあげたい。

——もっとも、あまりいい顔はされないかもしれないけれど。


そろそろ、帰ろう。

私は買い物袋を抱え直し、家に向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ