1章-1 ③
酒場を出ると、商店でマンゴーを買った。
私はそれほどでもないけれど、お母さんはこの果物が好きなのだ。
私とお母さんの住む家は、町外れの丘を越えた、その先の森の中にある。
道と街灯のほかには何もない一本道を、ひたすら抜けていった先だ。
丘を登りきるころには、日はとっくに落ちていた。
暗がりの底に、町の明かりがぽつぽつと浮かんでいる。
丘の上には街灯が一本だけ立っていて、すでに明かりがともっていた。
その柱にそっと手を触れると、明かりはちらちらと頼りなく揺れる。
この街灯の光は、魔素によって生み出されている。
街灯だけではない。
この世界は、魔素に満ちている。
空間にも、物質にも、生き物の体の中にも、魔素は流れている。
それはあらゆるものへと姿を変える——明かりに、熱に、動力に。
人々はその性質を操って魔法を使い、火を、水を、風を、土を、いや、ありとあらゆるものを生み出すのだ。
私は買い物袋を街灯のわきに置いた。
手のひらで輪をつくり、体の奥を流れるエネルギーの感覚を、指先へと集めていく。
すると青白い光がぱちぱちと弾け、それに連動して、街灯の明かりがぐらりと揺らいだ。
私の生み出す光は、魔素の光とは少し違う。
不安定で、力を一点に凝縮したような、ぱちぱちと弾ける光。
このエネルギーは、魔素の変容そのものに干渉してしまう。
だから厄介なことに、少しでも漏れ出せば、まわりの機械をたやすく壊してしまうのだ。
この力のせいで、いったい何度怒られたことか。
子どもの頃なんて、ほんの少し興奮しただけで、まわりの機械をことごとく沈黙させていた。
ナチュラルボーン破壊神だった。
——でも、この力は、悪いことばかりじゃない。
私は街灯を離れ、暗がりのただなかへと、二、三歩、足を踏み出した。
町の明かりは丘のふもとに沈み、頭上には、砕いた硝子のような星が散らばっている。
風はなく、夜気には濡れた草の匂いだけが満ちていた。
もう一度、指先に意識を集める。
ぱち、と。青白い火花が、指の先にともった。
パチ、パチ、パチ——。雨だれにも、薪のはぜる音にも似て、そのどちらでもない、私だけの音。
手首をひるがえすと、光は手のひらを離れ、宙にふわりと留まった。
青白い輝きが闇を押しのけ、足もとの草の葉先を、つかのま銀色に縁取っていく。
「はぁ……やっぱり、きれい」
私は、自分にしか生み出せないこの光が、とても好きだ。
毎日こうして練習を重ねるうちに、制御はずいぶん上手くなった。
もう少し腕を上げたら、お母さんにも見せてあげたい。
——もっとも、あまりいい顔はされないかもしれないけれど。
そろそろ、帰ろう。
私は買い物袋を抱え直し、家に向かって歩き出した。




