第70話「選別」
五月。
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空気は軽くなっていた。
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季節だけは、迷いなく進む。
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だが彼らの人生は、
静かにふるいにかけられていた。
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マサルは職場で評価の差が明確になり始めていた。
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同じ部署の中でも、
任される仕事量に差が出る。
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それは能力というより、
“継続できるかどうか”の差だった。
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マサルはその中で残っていた。
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シンジは通院を続けながら、
生活の安定度で差が出ていた。
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同じ病状でも、
崩れる人と維持できる人がいる。
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その境目に自分がいることを理解していた。
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アキラは職場で中核に近づいていた。
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だが同時に、
責任から外れる人間も出てきていた。
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残るか、離れるか。
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静かな選別だった。
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ユウスケはトレーニング仲間の中でも分かれ始めていた。
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続ける者。
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やめる者。
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その違いは一瞬で決まるものではない。
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積み重ねの結果だった。
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ナオトはそれを見ている。
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誰も引き止めない。
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夜。
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喫茶店。
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いつもの席。
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少し人数が減った気がする。
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だが誰も言わない。
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マサルが言う。
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「残るやつと、離れるやつ、出てきたな」
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アキラが頷く。
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「自然やと思う」
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ユウスケが続ける。
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「無理して残るもんでもないしな」
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シンジは静かに言う。
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「続けたやつが残るだけや」
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その言葉に沈黙。
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否定はない。
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ナオトが言う。
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「選別っていうより」
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「結果が出てるだけやな」
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その言葉が重くも軽くもなく落ちる。
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外では初夏の風。
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夜はまだ涼しい。
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マサルは帰り道で考えない。
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シンジは薬を確認する。
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アキラは明日の業務を整理する。
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ユウスケはジムの予定を見直す。
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それぞれの“残り方”。
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違いはある。
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だが共通しているのは、
まだそこにいるということ。
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ナオトは最後に言う。
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「残るやつが正解ってわけでもない」
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「でも続いたやつは、それが現実や」
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その言葉で夜が締まる。
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そして物語は、
次の段階――“再構築”へ向かう。
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第71話「再構築」へ続く。




