優しさが仇になるとき
私には最悪な優太も他の人には優しい。男の子からも女の子からも好かれていて、私とは正反対だ。だがしかし、時にそれが楓をイライラさせる要因になることも多々ある。
「誰か授業で使う教材、運んでくれないか?」
「先生、私が」
担当教師が授業で使う重い教材を準備した時、クラスメートの女の子が手伝うと言って運ぼうとするとたまたまそれを見た優太が女の子を助けた。
「大丈夫か? 一緒に持つよ」
「雨宮くんありがとう」
「なんのこれしき」
「力持ちだね。あ……」
「ごめん!」
「別にいいよ? 手あったかいね」
教室まで一緒に機材を運んでいる途中、優太と女の子の手が触れ合ったのをトイレから出てきた楓が見てしまい、不機嫌になって自分の席へ。
「優太、なんであんたが手伝うの?」
「一人で大変だからだろ」
「だからってあんたが手伝うことないじゃん」
「ま、それは百歩譲ってしかたないとしても、何あれ? 女の子と手なんか握って」
「たまたまだって」
「ずいぶん嬉しそうだったけど」
しかたないとはいえ、これは嫉妬して当然。彼は必死に謝りアイスを奢る条件で許してもらえたようだ。そしてまたある時はグラウンドで体育の際、グラウンドへ向かうのに長い階段を降りなければならないのだが、別の女の子が急ぐあまりバランスを崩して倒れそうになったときのこと……
「キャ~」
「危ない」
咄嗟に優太が女の子の身体を支えて無事だったのだが、それを見た楓の表情がみるみる曇っていき優太が話しかけても無視。
「体育疲れたな」
「知らない!」
「なぁ、楓」
「ふん!」
「あれはしかたないって! 怪我でもしたら大変だろ」
「優太さ、私以外の女の子に優しくしすぎなのよ」
「無視できないだろ」
他にも女の子が課題で困っていたら教えたり忘れ物をした女の子に自分の物を貸すなどしており、その度に楓が怒って喧嘩になるなどが増えていった。ヤキモチ妬きな楓は優太が他の女の子と話すだけでも拗ねてしばらく無視するなどだった。
「今日、優太とコンビニ行ったらかわいい店員と喋ってた。お釣りもらう時少し手触れてたし。ムカつく〜!」
「いやいや、それって普通じゃない? 仮に優太が他の女の子や店員にも私と同じ扱いなら逆に嫌でしょ?」
「それはそうだけど、あまり嬉しそうだったり関わりすぎるのも嫌」
「そんなんじゃ、生活できないじゃん。せめて女の子と普通に関わるのだけは許してあげたら? 鼻の下伸ばしてたらしばいていいから」
優太となにかある度に相談に乗っていた私だが、そんな楓がかわいすぎて何時間でも聞いていられた。ちなみに優太の忘れっぽさが原因でこんな事件も……
「なぁ優太、今日みんなでザイゼ行かね?」
「お! いいね〜」
ザイゼとは安くて美味い大人気のファミレス“ザイゼリア”の略であり、食事中にあることを思い出したようだ。
「やっぱりミラノ風は最高だよな」
「俺は半熟卵乗せが神」
「俺はチーズだな」
「あ! しまった。今日って2月13日だよな?」
「確かに13日だけど、どした? 優太」
「今日、楓の誕生日で一緒に映画行く約束してたの忘れちまってた」
「バカ! 早くいけって! アイツ怒らせたら」
焦ったように帰り支度をする彼を見て周りの空気が凍りついた。自分のお金を渡したあと走って店を飛び出したがその道中、道に迷っているらしき若い女の子に声をかけられる。
「すみません」
「はい」
「“スターライトシネマ”まで行きたいんですけど」
「その映画館なら僕も行くので途中まで案内しましょうか?」
「ありがとうございます」
急いでいるはずなのにほっとけない優太は最後まで一緒に行くのだけはまずいと思い、途中まで案内することに。しかし、一緒に歩いているところを不運にも楓に見つかってしまう。
「優太、何やってんの?」
「楓、違うんだ! これは」
「その女の子誰よ? あんたよくも、人の彼氏に」
完全に勘違いした楓は2人にビンタをくらわせた。
「痛っ! 誤解だ。俺たちの映画館と行き先同じだったから、道案内してただけだって」
「言い訳なんか聞きたくない! だいたい今日の約束忘れて何やってたの?」
「友達とザイゼで飯食ってて思い出した」
「マジ最悪……普通に浮気じゃん」
楓のビンタを食らい、痛がりながら事実を語る彼だが楓は全く聞く耳を持たず帰ろうとした時、戸惑いながら一部始終を見ていた女の子が口を開いた。
「あ……あの! 彼の言ってることは本当です。スターライトシネマに行きたかったんですけどわからなくて途中まで案内していただいただけです」
「優太さんでしたっけ? ありがとうございました。私、坂下なるみです。19歳です」
「雨宮優太。15歳」
「彼女さん? 本当に彼とは何もないのでご心配なく。あなたの勘違いで受けたこの痛みとあなたの顔忘れませんから」
「他の女の子といたことが許せないの」
「親切心を理解できないなんて、小さい彼女さんだこと」
「なんですって!」
それだけ言い残すとなるみは去っていった。納得いかないのか楓は不機嫌だったが優太が必死に謝りなんとか許してもらえたようだ。
「お前、私いる。理解してる?」
「もちろんだよ」
「いつも言ってるけど女の子に優しくしすぎじゃない?」
「普通だって! 逆に冷たすぎてもダメだろ?」
「そりゃあまりにも冷たすぎたら引くけど」
そんな押し問答を繰り返しながらデートに行った2人。帰ってきてから散々優太の愚痴を聞かされたが、私はただ黙って聞いていた。私以外に見せる優しさが仇になるとき……優太の女好きは直りそうにないであろう。




