特典SS「終わる前のある日、または始まる前のある日」
・こちらは書籍版「過疎ゲーが現実化して萎えてます。」の一巻早期購入特典として執筆したSSを、双葉社様から許可をいただき公開しています。
・内容は縦書きから横書きにするにあたって最低限整理していますが、基本原稿そのままの掲載になります。
「じゃあ皆、気を付けて帰れよー」
教師の言葉を皮切りに、がやがやと教室に喧騒が満ちる。俺も普段ならその喧騒の一部となるところなのだが。
「用事あるから早めに帰るわ」
「りょー」
雑な返答を背に受けつつ急ぎ足で帰宅する。
今日はここ最近ハマっている「聖樹の国の魔物使い」で新しい魔物が実装される日だ。
さて何個まで石を吐こうか。悩みどころだ。
そんな事を考えている内に家に着く。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
親との会話を手洗いうがいをやるついでにこなし、さっさと自室へ向かう。
「よーし、やるか」
聖樹の国の魔物使いを起動。お知らせ欄から新規の魔物の性能を軽くチェックする。
ふむ。これは、何というか。
「砂漠の女王なぁ」
バフとデバフ兼用の範囲魔法……。強いっちゃ強いんだがデバフ部分を生かす為には敵に接近しなきゃならんのが何とも言い難い。サポーターは前線に出したくないだろ。
ほっぴー:今回のガチャ引くやつおるー?
全体チャットでほっぴーが何やら喋っている。うーん。皆の意見もきいてみるか。
タカ:正直微妙じゃない?
ほっぴー:あー、やっぱそう思う?
ジーク:キャラデザは良き
ガッテン:わかるなー
紅羽:スキルの運用ややこしくて無理
鳩貴族:ややこしくは無いのでは? ただ立ち回りに技術が要求されるだけで
紅羽:それが無理。もっと火力ドーンみたいなのがいい
タカ:短剣とかオススメっすよ
ジーク:だいばくはつしそう
ほっぴー:間違いなく最大火力だよなぁ
鳩貴族:※ただしダメージは味方に飛ぶ
紅羽:あたしは未だにそれ許してねぇからな
タカ:いやごめんて
ガッテン:まぁちゃんとヘイト受け持てなかった俺も悪いから……
タカ:そうだぞ、反省しろ
ガッテン:あのさぁ
ジーク:草
ほっぴー:水あげた瞬間青々とするのやめろ
「誰も引かないのかぁ」
こうなるとちょっと不安だ。何せこのゲームの人口は現在たったの十人。俺らの課金はモロ運営の収入に繋がっている。現段階ですらサービスが継続されているのが不思議な状態なのだ。このままではマッハでサービス終了してしまう。
そんな危機感を抱いていると、いつの間にか全体チャットが賑わっていた。なんだなんだ。
お代官:さて、手持ちの石で足りるだろうか
お代官さんだ。十傑の中でも随一の財力を持つプレイヤーであり、その後のチャットの流れを見る限り、砂漠の女王のキャラデザがかなり刺さったらしい。
タカ:お代官さんが参戦するなら安心だ
お代官:うむ。そういえばスペルマン君はいないのかね? 私の勘では、彼もこういったキャラは気に入るはずなのだが
ジーク:締め切り前で死んでなかったっけ
お代官:ああ……
スペルマン:一応ログインはしてる
ジーク:仕事して
スペルマン:はい
お代官:それは早抜けしてきた私にも刺さるからやめたまえ
七色の悪魔:フハハハハ! 労働の何たるかを理解しておらんようでは奴隷以下よな! 労働とは対価ありき! 労働ではなく対価先行なのは当然だろう!!
お代官:よく分からないがフォローしてくれてる事は分かる
タカ:遊ぶために仕事してんだからたまに遊びのためにサボったって良いじゃないって言ってんじゃないの
お代官:それは、まぁ、うむ。そうだな。ありがとう
七色の悪魔:私も早抜けした身なので
ほっぴー:ろくでもねぇ
タカ:こんなゲームするだけある
ジーク:こ ん な ゲ ー ム
紅羽:正直言い返せなくね?
そんな馬鹿なやり取りをやっているうちに、ふと思った事を書き込んでみる。
タカ:そういやお代官さんガチャまだー?
お代官:既に五十回は回したが?
ほっぴー:えっ
ガッテン:ヒエ……
ジーク:きゅうにこわいことしないで
七色の悪魔:あの、大丈夫ですか?
お代官:急に素にならないでくれ
鳩貴族:素にもなるでしょうよ
お代官:まぁまぁ。この程度でくじけては運営の思うツボ。次こそ出す
ジーク:それこそ運営の思うツボだと思うんですけど
スペルマン:実は俺も十連サイレント爆死してたんだけどそれすら慰めにならないレベル
ジーク:ほら先生、原稿に戻って
スペルマン:泣く
ガッテン:なんでジークが担当編集みたいになってんの?
ジーク:サボってたら注意してってスペルマン本人に頼まれたから
ガッテン:なるほどなぁ
Mortal:俺もサボって遊んでたらキルしてって頼まれたよ
スペルマン:癖になってんだ、モータルに怯えながらゲームするの
ほっぴー:草
ジーク:そんなもん癖にならないで
ほっぴー:大丈夫? より気合いを入れてサボる感じになってない?
スペルマン:だって背徳って最高の調味料だし……
ガッテン:駄目だこいつ……はやく何とかしないと……
Mortal:でも俺もキルするの楽しいよ
スペルマン:それはよく分からないので同列にするのやめてください
ジーク:草
タカ:てかお代官さんは? ガチャもう引くのやめたの?
七色の悪魔:やめていて欲しいところですが……
お代官:皆さんが静かになるまでに、百二十連分かかりました
ほっぴー:あー……
タカ:こっちの精神までえぐられる
ジーク:お代官さんの爆死だけは本当に笑えない。苦しい
七色の悪魔:もうやめておいた方が……
お代官:何故かね
七色の悪魔:次回のピックアップまで待ちましょう。今回はもう無理ですよ
お代官:次のピックアップまでコレがサービスを継続しているわけがあるか!!!!!!
ジーク:草
ほっぴー:笑う
ガッテン:ストレートが過ぎる
タカ:そこまで見えてて金突っ込めるのやっぱどうかしてるでしょ
スペルマン:お代官さんの常識人枠引退も近い
お代官:いや、待て。分かった。確かに社会人にあるまじき言動だった。
お代官:良いだろう。あと十連一回だ。それだけ引いたら私はもう諦める。
タカ:お
ガッテン:良かった
お代官さんの最後のトライ。皆が固唾を呑んでチャットを見つめていると――。
お代官:よっしゃああああああああああああああ!!!!!!
タカ:え!? マジで!?
ほっぴー:すげぇ
お代官:はーっはっはぁ! さて早速ボイスのチェックだな!
お代官:良い声ではないか! 素晴らしい! セリフの内容も……ん? あー……ふむ
タカ:えっ、なに
お代官:なんかセリフ一つ一つが重いというか……え? 運命だの監視だの……
ジーク:あっ……
スペルマン:ヤンデレっ娘かぁ
お代官:ヤンデレというのかね? まぁゲームだし表現は多少オーバーな方が良い、のか?
七色の悪魔:そりゃまぁ現実になったら恐ろしいですけど、ゲームですから
お代官:まぁそうだな! さっそく育成をやりたいから、誰か手伝ってくれないかね?
タカ:おっけー
ほっぴー:俺も暇だし行くわ
ヤンデレっ娘かぁ。まぁ現実で出会うのは勘弁だが、こういったゲーム上でなら適度なスパイスになるだろう。そんな事を考えながら、自分のキャラクターを街へと向かわせた。




