心を知る者は
前線はモータルと紅羽。補佐としてガー。
この三人で相手取れば耐えられる。
残る人員は俺、ジーク、アルザ。
まぁアルザには中衛やらせるとして、問題は俺とジーク。
火力と耐久が不足しているどうしようもない二人だ。
小技でちょろまかすしかないな。
となれば、やることは決まった。
「スキルリセット、スキルセット呼び出し。“弾幕特化”」
これだな。
小粒の攻撃で嫌がらせをしつつ扉へ近付く。
どこまでがセーフラインか分からないが、推定安全圏から撃ちまくってやる。
さて、扉の奥だが……なるほど、階段になっているのか。
「ジーク。この階段の奥だ、分かるよな?」
「あいよ」
ジークにも一応銃がある。
あるが、威力と連射性を考えると奥の探索人員にした方がいくらかマシだ。
「支部長はああ言ってたが……気をつけろよ」
「おう。ま、探索用のツールは大量に持ってきたからな。余裕だ」
支部長とやらを信用しているわけではない。
ただ、このメンバーでいけると判断した教皇の采配を信じている、といったところだ。
ここまでの道のりはキツかったが、俺達だけで十分やってこれた。
この扉の先も、手に負えないような物はないはず。
さて。戦況の方はかなり拮抗している。
俺の弾幕は効いてるか微妙なところだが、やり得だからな。継続しておこう。
平然とフレンドリーファイアかます紅羽なら話は別だったが。
「あ、やべ」
考え事でエイムが。
「おい! カスったぞッ!」
即座に紅羽から火球が飛んでくる。
熱ッッッ!!?
「ふっざけんなバカ! やめろッ!」
「わははははははッ!」
おい、笑ってる場合かよ。
遠目に見ているだけでも、支部長の剣技は凄まじい。
剣の分離と合体を繰り返しながら、舞うように立ち回っている。
「さて」
一度冷静になれ。しっかりと詰めていこう。
こっちは倒す必要すらない。
押し込めりゃいいんだ。
紅羽がブレスを吐く。
支部長がやや上向きに放たれたそれをしゃがみながら回避する。
そこにガーが刃を構えながら這うように迫る。
「いいじゃん」
刃を持つ手に対し、蹴り1つ。
それだけでガーが吹っ飛ばされる。
うーん、イカれた膂力だ。
「——」
吹き飛ばされたガーが何かを唱える。
すると先ほどガーを蹴った支部長の脚が不自然に浮いた。
「は? うっざ!」
モータルがその脚目掛けて剣を振るう。
寸前で支部長が剣の腹でそれを防ぐ。
「熱々の掌底を召し上がれ……っと!」
衝撃。
付近が歪むほどの熱気を帯びた掌が支部長の腹に突き刺さる。
「ぐ、おぇ」
「吹っ飛べッ!」
扉の方向に飛んだ。
今だな。
「スキルリセット。スキルセット呼び出し。“バインド特化”……キャッチャーズスレッド」
蜘蛛糸を射出するスキルを使用する。
そして俺はジークがゴール地点の奥まで繋ぎにいったジップラインと、支部長を接続する。
「あれ、え!?」
「じゃあな。先に部屋見てこいよ」
掌底の勢いそのまま、俺の横を通り過ぎて部屋に吸い込まれていく。
ジークがうまいこと避難できりゃいいが。
「うっそでしょーーーーーーッ!?」
どことなく間の抜けた悲鳴と共に支部長が見えなくなる。
上手くいきすぎて怖いぐらいだ。
「あいつ意外と弱かったんじゃねぇのか」
「それは無いよ。多分手抜いてただけ」
気付けば隣にモータルが立っていた。
というか他の面々も俺の、というより扉の近くに集まってきている。
「確かに、私の術を通したのは流石に迂闊すぎるように感じました」
ガーがそう言いながらバキバキにへし折れた手をさすっている。
紅羽が不満そうな声音で続けた。
「あの剣の扱いの上手さにしちゃ詰めが雑っつーか……」
「何でもいいからジークを助けにいかないかい? もし酷い目にあっていようものなら、君たちに僕抜きで再度あのパズルを解かせたくなっちゃうかも」
それは勘弁して欲しいな。
そう会話しつつ扉の奥を睨んでいると、階段を上る音が聞こえてきた。
「……おいおい」
上がってきたのは見慣れた赤髪の女。
そして、何か瓶をかかえたジーク。
「あーあ、まいったまいった。私の負け。魔王の用意した超すっごい罠のせいで力出ないわ」
「らしいっす」
嘘すぎるだろ。
先ほどの遜色ない圧を持った支部長がゆったりと階段を上ってくる。
困ったな。こいつは何がしたいんだ?
「まぁこの部屋に入るとヤバいよーとか言ったらそりゃ叩き込みにいくか。感心、感心。その考えが浮かんで、ノータイムで実行ってのはなかなかできないよ」
そして近場の段で立ち止まり、腰掛ける。
ジークが気まずそうにその横を通過して俺たちに合流した。
「お前、何のつもりだよ。あのバカみてぇなダンジョン珍道中で情を湧かせてくれたのか?」
支部長がくつくつと笑いを抑えるような声を出す。
「は、は……掌底のせいでお腹痛いのに笑わせないでよ。あれは確かに楽しかったけど、それで手を緩めるほど甘くない」
でも、実際に手を緩めてただろう。
こちらの誰もが納得していないのを感じ取ったのか、支部長がため息をつきながら答えた。
「理由は2つ。まず、私は統合派じゃない」
統合派。
異世界管理局の中で、分裂しまくった世界を1つにしてしまおう、という考えを持った派閥……だったか。
この世界はそいつらの実験場になっている。らしい。
「もう1つ。あんなになっても、度を超えた諦観をしてようと……まぁ、友達なんだよね。シュウトとは」
シュウト。
タカ曰く、拾い食いした原初の炎の元。
最後に命を賭して力を貸してくれたらしい、異世界管理局の男。
「あいつは、よく分からない奴だった」
最初は確か、オークに囚われていて。
次はなんやかんやあって魔女に囚われていた。
ろくな目にあってねぇなアイツ。
「ああ。ま、アイツは……わけわかんない数いる存在だけど、元がある程度同じだから皆共通して最低だし、クズだし……何もかも諦め切ってるし……」
良いとこねぇな。
「でもここに来てたアイツは……ちょっと違ったみたい。ギリギリまで私が派遣されなかったのもアイツがやってた隠蔽工作のせいだし。なんかわざわざ戦場に顔出して死んだっぽいし。そうなったらさ、少し知りたくなって。何が友達の心を動かしたのかなって」
随分とふわっとした理由だ。
大半を推論が占めているし、シュウトが何故俺たちの世界を贔屓する気になったのかも不明のままだ。
「世界を殻で覆えば、お前らの管理下から外れるんだろ? それはまずいんじゃないのか」
支部長が薄く笑みを浮かべた。
「別に。そもそも理論的に、外殻ができた時点でそれ以上の分裂はないから業務上は問題ないはずなんだよね。初のケースだから経過を見ようなんて言ってる人もいるくらい」
……そうなのか。
「わざわざ俺たちに会って、この場で戦った理由は?」
「友達の友達を知ろうと思った。そんだけ」
別に友達じゃねぇけど。
いまいち距離感を測りかねるな。
俺が次の言葉に悩んでいると、モータルがぽつりと呟いた。
「ねぇ。せめてタカに会わせるべきじゃない?」
なんでだよ。
お前それどういう意味か分かって言ってるか?
「誰それ」
「多分シュウトと1番喋ってた人。魔女の次に、かもしれないけど」
「ふーん」
支部長が立ち上がる。
おいおい。
嘘だよな?
「そいつどこにいるわけ?」
「砂漠」
「おっけ。案内して」
ほらこうなった。
今から異世界管理局を出し抜くために殻で覆う魔法をやろうって時だぞ。
なんでその異世界管理局の支部長を砂漠に招致しなきゃならねぇんだよ。
「ちなみに断ったら次こそ本気で大暴れしちゃうかも」
クソッ……最悪だ。




