編成
まず最初に目に入ったのは、こちらを覗き込むエリーさんの顔。
次に、少し離れたところで椅子に座っているモータル。
「……顔が近いです」
「身体に異常はありませんか?」
俺の言葉を奇跡的に聞き逃したのか、顔の距離はそのままにエリーさんがべたべたと俺の身体に触れてくる。
難聴系ヒロインかぁ。
「どのくらい気絶してたんだ……」
エリーさんの手をそっとどけ、立ち上がる。
不気味なくらい白い部屋だ。
家具も椅子二つとベッド一つ。
「何の部屋だこれ」
「処分室だってさ」
なんで? イカれてんの?
「つーかこんな白い部屋で殺せんのか? 血が目立つし掃除がだるいだろ」
「白くて何も無いのは、舞台を貼り付けやすいからですよ。それにしてもその着眼点……」
わずかに開いた扉から、見慣れたメイドが顔を覗かせている。
「同業者だったりします?」
「正義の味方だが」
「ひーーーー嘘くさ」
殺すぞ。
「あ、あと夕飯の仕度できたので。食べますよね?」
ろくでもねぇ人殺しメイドに連れられるまま、三人で食事場らしい部屋に移動する。
木造の扉を開けると、長方形の木製長机がまず目に入る。
ここまでは木材のオンパレードだが、他は石材を使用しているように見える。
照明は電球っぽいが……魔力絡みだろう。
正面にレオノラ、横の長辺の方に捨て子たち、ブーザー、ムカデ女。
あともう一人。
「随分と早い目覚めだな」
「ナイスガッツだったぜ」
レオノラと拳聖から声をかけられる。
「なんで居るんだよ」
「同じく魔女殺害を志す者だ。共に食卓を囲むのは当然だろう」
まぁ確かに居た方がいいか。
モータルとエリーさんに挟まれつつ、席に座る。
「……料理は勝手に取ればいいのか?」
「ああ。好きに食え。無くなればそこの従者が補充する」
俺はひとまず正面の謎スープをよそって啜った。
ふむ。コンソメスープか何かだな。
「これって誰が作ってんだ?」
「シェフ用の救世の兵がいる」
エリーさんがよそってきた肉団子を頬張りながら、サラダらしきものに手を出す。
うん、うん……味がしっかりしてる。
美味いな。
「メシマズだったらキツいからな。助かったぜ」
しばらくここで飯を食うことになるだろうからな。
「タカさん、口を開けてもらっても?」
「素直にあーんって言っていいですよ」
言い回しがさぁ。
というか、あーんって冷静に考えたらほぼ相手に生殺与奪の権握らせてるよな。
怖くなってきた。
「タカさん」
ねじ込まれた食材を咀嚼しながら、次の食事には銀弾のおっさんを招こうとひそかに決意した。
皆が食事にあらかた満足した頃。
レオノラが口を開いた。
「銀弾から一つ、魔女の作品の場所について情報が届いた」
は? 仕事早すぎだろ。
「元々目をつけていた獲物だそうだ。そして勝手ながら討伐チームはこちらで決めさせてもらった」
レオノラが紙を取り出す。
紙には、その魔女の作品のスケッチらしいものが描かれていた。
妙にカラフルで……甲殻っぽいものに覆われている。
また虫モデルの作品か?
「メンバーだが、モータル、レトゥ、スルーグ、ブーザー。この四人で頼む」
俺はいないのか。
それに妙なメンバー……何か意味があるのか?
「ブーザー、お前はどうせ魔道具を駆使すれば水中戦は可能だろう」
「あぁ? できるけどよぉ」
「よし。レトゥとスルーグは聞くまでもないな?」
レオノラの言葉に、二人が頷く。
スライムであるスルーグさんはともかく、修道女にしか見えないレトゥさんが水中戦?
見た目が大した意味を持たないのは知っているが……エリーさんみたいに変身するんだろうか。
「残りはモータル。戦えるだろ?」
雑じゃない?
確かにどこでも敵をぶっ殺せそうな安心感はあるけども。
「何とかなるよ」
「当たり前だろうがよぉ! 俺の修練についてこれた、数少ねぇ優秀な戦士だぜ!」
拳聖がモータルを差し置いて偉そうに語る。
「あれ、モータルも同じメニューの訓練を?」
「うん。結構キツかったけど、三回は攻撃が通ったよ」
普通に戦ってるの何?
俺は知恵絞って、何とか一発かましただけなんだけど?
しかもその一発も威力めちゃくちゃに誤魔化した一発なんだけど?
「はははははは! タカぁ! 落ち込む事はねぇ、俺の最強さに比べりゃ誤差だからよ!」
うるせぇよ。
拳聖の下手くそな擁護を聞き流し、モータルの方に向き直る。
「いくら強いつっても人間だぞ。モータルは流石に編成から外した方が良いんじゃねぇのか?」
人狼と人間の混じり物……ほぼ人間だ。
水中活動用の機能は何も搭載してないはず。
「ふむ……しかしだな、今回の作品も嘆きの母のように甲殻を持っている。以前その硬さを素で突破した実績があるモータルは編成しておきたいのだよ」
確かに、それは……いや、にしても陸上と水上では勝手がまるで違う。
反論しようと口を開いたところで、モータルが先に声を発した。
「大丈夫だよ。魔力伝導もわかってきたし」
「それでも流石に呼吸できるようにはならねぇだろ」
「だから、息継ぎする前に破壊する」
かっこよすぎだろ、ふざけんな。
俺も言ってみてぇよ。次の息を吸う前に殺すって。
「……納得したかね? 私は短期決戦を想定しているのだよ」
「ああ、わかったよ。スルーグさんは失敗時の離脱要員か?」
「ブーザーもな。メインの火力はレトゥとモータル。その2人だ」
一応理解した。
納得し切れたとは言い難いが……まぁ、置いておくか。
「ムカデ女は? 現地にいなくていいのか?」
「回収すべき部位は把握済みだ。持ち帰って吸収させる」
なるほど。
そこで俺はもう一つの疑問を口にした。
「残りのメンツはどうすんだ? 遊ばせとくのか?」
レオノラの口角が上がる。
「いやぁ? 別の作品を狩るのさ……しかしタカ、お前は違う」
嫌な予感がする。
「みっちり修行をしてもらえ。お前は速いが……少々、基礎火力が足りない」
自分の顔が苦渋に歪むのがわかる。
離れた席の拳聖がぐっと拳を握って俺に笑いかけてきた。




