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酔っ払いと偽装作戦

「つまりだ。お前の魔道具があれば数日ぐらいは余裕を作れるって事だな?」


「おうよ。ただ申請がめんどくせぇけどなぁ」


 場所はレオノラの研究棟。

 掲示板での報告も終えた俺は、作戦の細かい部分を詰めるため、ブーザーと話し合っていた。


「いいかァ。徒歩なら、普通は途中にいくつかある街の何個かに寄る羽目になる。寄った記録がなきゃ転移魔法の使用を疑われる。馬車に乗るつって馬車に乗った記録が残ってない場合も同じだ。だがぁ……俺が送迎したとなりゃまた話は違ってくる」


「途中で街に寄ってなくてもそこまで怪しまれない上に、馬車みたいに記録も無いってか?」


「記録つけんのはなァ、俺だよ。いくらでも偽装できんだよぉ」


 そう言ってニタリと笑う。


「……思ったより緩いんだな」


「小規模かつ個人の使用、ってのに関しちゃ黙認してる部分も無くはねぇからなぁ。そこまで取り締まってちゃ人手がいくつあっても足りやしねぇ」


「とにかく、だ。俺の魔道具で行った事にして、実際移動した場合にかかる日数の間にお前の故郷に転移して、用事済まして……ってな感じだ。戻る時ぁ、聖樹の国まで一日ちょい、ぐらいの場所に転移してもらえば余裕よ」


「轍が一切残ってないのは怪しまれないか?」


「んな事チェックできるほど暇じゃないっての。平気だ、平気。バレやしねぇよ」


 フラグを立てるな。


「……まぁ、一回は帰っときたいよなぁ」


「おぉ、俺と同じ気持ちだなぁ?」


「てめぇの帰りたいって気持ちはまた違ってくるだろ。俺のは単なるホームシックだけどよ。お前のは……なんつーかな……」


 そんな会話をしていると誰かの足音が耳に入る。

 

「レオノラか?」


「おっと。会話の邪魔をしてしまったかな?」


「いや別に」


 レオノラがテーブルの上に何かを置いた。

 ……マグカップ?


「コーヒーだ。何、気にするな。お前達の倉庫から拝借した物だ」


「ぶっ殺すぞ」


「ははははは!」


 レオノラが豪快に笑いながらもう一つ用意していたらしいコーヒーをぐいと呷る。


「んだよ。酒じゃねぇのか」


 勝手に俺の前に出されていたコーヒーを飲んだブーザーが舌打ちをする。

 いや別に、俺コーヒー好きじゃないしいいけど……。


「ふむ。酒なら酒で用意があるが、どうする?」


「おぉ、分かってんじゃねぇか。一杯やろうぜ、聖女サマよぉ」


「ふははは、一杯ならず何杯でも付き合ってやろう。そのぐらいやらねば……酔えんだろう?」


 うわぁ。


 酒飲みどもに付き合っていられなくなった俺は、そっとレオノラの研究棟を後にした。


 夕方の冷涼な空気が心地良い。

 騒がしさの質が変わり始めた街を目的もなく歩く。


「……もっとまともに冒険ってやつをやってみたいけどなぁ」


「その願望は把握しています。魔女の作品を探し撃破する事はまともな冒険と認識していましたが――」


「何でついてきてんだお前」


 外套で身を隠し、パッと見だけは人間に見える――ムカデ女がこてんと首を傾げた。


「私は貴方ありきの存在です。離れる理由が無いのであれば、離れる事はありません」


「そうか。帰れ。理由は俺が帰って欲しいから」


「貴方の記憶を参照すると、このように一人で街を散策した場合、高確率で事件に巻き込まれています」


「……」


 否定できないのが悔しい。

 もうマジで俺の運なんなの?

 厄介事確定ガチャなんだけど。


「納得されたようですね」


「クソが」


「肯定と同義ととらえました」


 クソが。


「……はぁ。お前って飯食うの?」


「可能です」


「じゃあ食いに行くぞ」


「はい」


 ムカデ女を連れ、飲み屋街をふらつく。


「そこの女連れの兄ちゃん! どうよ、うちなら割引きくよー!」


 客引きを無視して奥へと進む。

 うーむ。


 もうちょっとお高い場所に行ってもいいが、如何せんムカデ女の服装がよろしくない。


「……どうすっかな」


「服装が気になるのであれば外殻をそれらしく展開する事が可能ですが」


「あのドぎつい赤じゃ厳しいだろ。もういいや。さっきの割引がきくらしいとこ入るぞ」


「分かりました」


 客引きに案内されるまま店内に入る。

 メニュー表を渡されつつ、テーブル席に案内された。


「御用があれば申しつけ下さい」


 そう言って店員が下がっていった。

 どうすっかな。


「お前さぁ、食の好みは?」


「魔女の作品は大変美味でした」


「了解。なるべくゲテモノ頼むわ」


「肉が好きです」


「なら最初からそう言え」


 俺と一緒でいいか。

 店員を呼び止め、肉炒めの定食を注文する。


 そこまでやってから、店内の客層に気付く。


「……居心地悪ぃな」


 全員がそうではないが、カップルが多いように見える。

 カップルでなくても、父と娘らしい組などで、男女が1セットで座っていない席の方が珍しい。


 他の近隣の店と比べ雰囲気は落ち着いているが……二度目の来店は無いかもなぁ。


「割安かつ民度が高いとなれば、かなり有用なように思えます」


「そりゃそうなんだけど……あと俺の思考を勝手に読むの気持ち悪いからやめて」


「善処します」


 しなそう。


 そんな会話をしていると、店の扉から、また新しい客が入ってくるのが見えた。

 男女ペアだ。

 居心地の悪さが加速するなぁ。


 そんな事を思いながら、よく顔を見ると。


「おっ」


 魔女の捨て子五人衆の一人であるエリーさんだった。

 後ろを見れば、これまた捨て子のスルーグさん。相変わらず無表情だ。


「声をかける事は推奨しません」


「は?」


 反射で声をかけようとして、ムカデ女に止められる。

 咄嗟に反論しようとし……やめる。


「……確かに今は色々ややこしいな」


 俺が連れているのは魔女そっくりの女。

 しかもこんな店で。


 修羅場不可避である。


「外套余分に持ってたりしない?」


「声を抑えてやり過ごし、早々に退店するのが最善と判断します」


「そうだな」


「お待たせ致しました! こちら注文の――」


 不意に品物を運んできた店員に、ビクリと身体を震わせてしまう。

 机に並べられる定食を眺める途中で、慌ててエリーさん達の方を確認する。


 目が合う。

 エリーさんが笑顔で会釈したので、俺も会釈を返す。


「……顔隠せ、ムカデ女」


「分かりました」


 手遅れな気がするが、いや、まだいける。

 まだ隠せる。多分。


 ダメだったときはめっちゃ言い訳しよう。うん。


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― 新着の感想 ―
[一言] タカ……良い奴だっt……良い奴だったか?彼を疑うなんてとんでもない
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