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祝福を身に刻め

「……どぅわぁッ!?」


 本日何度目かも分からぬ悲鳴が漏れる。

 クソ、どうなってんだ。

 

「駄目だッ! うまく動かせねぇッ!」


「てめぇの身体だろ、しっかりしろ」


 ほっぴーの野次が耳に入る。


「んじゃあお前はうまく動けてんのかよ!?」


「あぁ? まぁ、案外やれる事が増えてビビってはいるけど、動く分には別にって感じだな」


「やれる事が増えたァ? ……俺は単純な身体能力強化だけなんだが」


「そりゃジョブの方向性的にゃそうなるだろうよ」


 それは分かってはいるんだが、こう、分かりやすい激強能力を期待してしまうのはゲーマーの性だろう。

 この速さもある種の分かりやすい強さではあるが……


「クソがッ!」


 バランスを崩し、派手にすっ転ぶ。


「要介護じゃん」


 ジークがへらへらと笑いながら横を通っていく。


「お前も普通に走れるのか」


「え? まぁ危うい場面はあるけど割と普通に。どっちかっつーとスキルが色々増えたのがでかいわ」


 なんで皆そんなにスキルが増えるんだ。

 俺は既に所持してたスキルの横の数値が上昇しただけだぞ。

 ずるい。許せねぇ。


「おい! ガッテン! お前はどうなんだよ!?」


「えっ急に俺?」


「お前だって身体能力強化だけだったろ」


「まぁ、そうだけど」


「だーっはっはっは! そら見たことか! だっせぇなぁオイ!」


「お前それどういう精神状態で言ってんの……?」


 ――ワォーーーン……――


 ガッテンの声に重なるようにして聞こえた遠吠え。

 咄嗟に短剣を構える。


 数秒の後に、遠吠えの主と思しき魔物が姿を現した。


「……ケルベロスか」


 燃えるような体色。こちらの身長を一周りは越しているであろう巨躯。獰猛そうな三つ首。

 魔狼系列のSR魔物だ。


「おい! 囲まれてるみたいだぞ!」


 ほっぴーの焦ったような声が聞こえる。

 見れば、かなりの数の魔狼が俺達を包囲していた。


「良い練習相手じゃねぇか」


 短剣を握り直す。

 へへ、犬っころども。ぶっ殺してやるぜ。

 俺は威勢よく飛び出し、派手に転倒しながら正面にいた魔狼を数匹なぎ倒した。

 なぎ倒した内の一匹を踏みつけトドメをさしつつ立ち上がる。


「逃げてんじゃねぇ!」


「キャウンッ」


 背を向けた魔狼の尻尾を掴みスイング。

 

「そらよッ!」


 そのままハンマー投げの要領で付近の一匹にぶち当てた。


 チラリと背後を見れば、あちこちで斬撃や魔法が飛び交っている。

 さて、と。


「かかってこいよ、三つ首わんこ」


「グルゥ……」


 ケルベロスが警戒した様子で下がっていく。

 代わりに数匹の魔狼と、一匹の赫狼が前に飛び出してくる。


「お前らじゃ相手になんねぇんだよなぁ」


 次は闇雲に突進したりはしない。

 今の力に慣れなければ。振り回すだけではいつまでたっても同じだろう。


 やってきた魔狼の一匹の顎を蹴りでカチ上げ、そのまま踵落としで沈める。

 右からきていた魔狼は短剣で、左からの魔狼は拳で迎撃した。


「おい、さっきの威勢はどうしたよ」


 ニタリと爽やかな笑顔をお届けしてやると、俺の爽やかオーラに押されたのか、魔狼どもが数歩下がった。

 良い判断だ。


 さて、そろそろ走れるようにならないとな。

 俺はぐっと身体を前傾姿勢にした。

 

「――しッ」


 運悪く俺の進行方向にいた赫狼が弾きとばされる。

 その衝撃で転倒しそうになるも、何とか立て直しつつ走る。

 

「三つ首ィイイイイイ! 死ねやァ!」


 ケルベロスを守るようにして前に出てきた魔狼を踏み台にして跳躍。

 ケルベロスに斬りかかる。


「ギャウァ!?」


 チッ、浅いか。

 右から跳びかかってきた魔狼の脳天に短剣を叩き込み、その死体を盾にしてケルベロスの噛みつきを防ぐ。


「ガァッ!」


 クソ。周囲の魔狼が多い。

 俺は死骸を雑に放り、後ろへ跳躍した。


「オイ! 先にボスやっちまいてぇんだが誰か範囲攻撃無いか!?」


「アロー・レイン!」


 ほっぴーから援護がとんできた。

 周囲の魔狼がはじけとび、ケルベロスも少なくない傷を負う。


「ガァアッ! ガルゥァ!」


 憤怒の表情をたたえたケルベロスがこちらに突進してくる。

 好都合だ。こちらから行く手間が省けた。


 突進してくるケルベロスに合わせて短剣を振る。

 三つ首の内、真ん中の顔の鼻先をかすめ、血が滴った。


「グルゥッ!」


「うおッ」


 そこで飛び退いてくれるだろうという俺の見立ては外れ、ケルベロスが俺に覆いかぶさるように突っ込んできた。

 咄嗟に首元をかききってやろうとしたが、腕が動かない。短剣の刃先が左の頭に噛みつかれ、ガッチリとロックされていた。

 ケルベロスの牙が迫る。


「うおおおおおおおおッ!?」


 必死に腕力で押さえる。

 涎がびちゃびちゃと顔に垂れる。サウナの熱気に近いような吐息が感じられる距離。


「ガァッ!」


 ガチン!

 牙が顔ギリギリのところで閉じる。

 あっぶねぇ!


「舐めんな犬っころがァ!」


 どてっ腹に蹴りをくらわす。

 ケルベロスが苦しげに呻くも、離れる様子はない。


 周囲から狼の声がする。魔狼どもが集まってきている。まずい。

 焦り、何度も蹴りを放つがいっこうに引き剥がせない。


「タカから離れろォ!」


「ガァ……ッ!」


 衝撃と共にケルベロスが吹っ飛ぶ。


「大丈夫か!?」


「ナイスだ、ガッテン」


 しかし派手に飛んだな。

 こいつの強化はかなりパワーの方に偏ったらしい。


「アオォーーーーン——」


「まだ仕留めきれてない、か」


「かぁーッ、やっぱボス級はしぶといな」


 ガッテンが大剣を背負い直す。


「俺がアイツの動きを止めるから、その隙に背中からバッサリいけ」


「お前をか?」


「ケルベロスに決まってんだろ!!!!!!」


 絶叫しつつ、ガッテンが前に出る。

 ちらほら集まってきた魔狼を適当に捌きつつ、それに追従する。


「ガァ!」


「くッ!」


 ガッテンにケルベロスが飛びつく。

 隙だらけだ。


「おらよ!」


「ギャオオァア!!」


 大剣で左の頭を潰しつつ、右脚に突き刺す。

 そして残り二つの首の内、真ん中の首に腕をがっつりと回し、右の首を肘で地面に押し付けた。

 だが真ん中の拘束が緩かったのか、ガッテンが肩に噛みつかれる。


「ぐ、おおおおおおおああああ!!! タカ、さっさとやれッ!」


「とっくに準備完了だ」


 大剣とガッテンによってその場に縫い付けられたケルベロスは、隙だらけだ。

 ガッテンの背後から、跳躍。


 そのままケルベロスの背中を滑るようにして、通り抜けた。


 ケルベロスの背中に綺麗な縦筋ができる。


「ギャ、ガ……ッ」


 ケルベロスがふらついた隙にガッテンが右脚に刺した大剣を回収。


「終わりだ」


 一閃。

 ケルベロスが、一瞬にして真っ二つとなった。



 ケルベロスの身が、崩れ落ちる。

 ちょうど中枢にあったのだろう、魔石がごろりと転がり落ちた。


「——」


 リーダー格の敗北を知った魔狼達がキャンキャンと吠えている。

 それを横目に、ガッテンの元へ近寄る。


「よう、お疲れ。俺の切り取り線のお陰だな」


「……もうちょっと言い方ないの?」


 無いね、俺はニタリと爽やかな笑顔をお届けした。









追記:ネット小説大賞受賞に伴い、書籍化が決まりました! これでカーリアちゃんのえっちな挿絵が見られるよ! やったね!

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