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ただの見栄だ

リリーの言葉に微妙に俺が落ち込んでいると。


「ディーン、今に始まった事じゃないだろう。それにお前は無自覚女たらしの、超ヘタレだ!考えようによってはそっちの方が最悪だが……

――俺的にはギリでセーフだ」


後ろから親友(クライ)の熱い言葉が返ってきた。慰めているのか、ディスっているのかすら良く分からん。


うん、お前とも後でじっくりと話し合う必要がありそうだな。


「ラズロット、お前にも多少の同情の余地はあるが…… 先に確認しとくよ。

教会の人族至上主義は、もともとお前の教えなのか? それとも。

――歴史のねつ造なのか?」


ナイフの爆発が治まり、しっかりと実像をあらわしたラズロットは俺をにらみつけた。


「この期に及んで、随分とつまらないことを聞くんだね。

そもそも下等な獣族や悪しき魔族と共存する事なんて、不可能なんだよ。

畑の野菜や家畜と同じで……

あるとしたら、やつらをどう利用するかだけ。

種の違いとは、そう言うものだ」


ナイフが刺さっていた腕には、大きな火傷キズのようなものがあったが。

無詠唱で軽く腕を振るだけで、そのキズも直してしまう。


「お前の封印箱は、リリーが封印されていた教会と同じような構造になってたが……

あちこちで封印した魔物や妖魔は、リリーと同じように。

――生きたまま、苦しみながら…… お前のエネルギーに変えられていたのか?」


「それがなにか問題なのかい?

人々を苦しめる魔物や妖魔を閉じ込め、その力を利用して、さらに大きな問題を解決する。とても便利で、理想的な動きじゃないか」


『アームルファムの書』の冒頭文が、頭をよぎる。


  善行を成したものが天国へ導かれるのなら。

  悪行を犯した者こそが天国へ行き、救われなくてはいけない。


  なぜなら神は、愚かなる者を救うのが術であり。

  教えとは、悪行の闇に苦しむ者を導くのが業であるからだ。


彼は、ラズロットの考えを知っていたんだろう。



「いったいどれだけの数の魔物や妖魔が……」

歴史書が確かなら、ラズロットが『悪』として封印したのは。

人語を理解する多くの魔物や妖魔…… そして魔族や獣族、人族も少なからず含まれていたはず。


「なにを勘違いしているんだ、ディーン。

キミだって、今まで食べて来た野菜や肉の数を知らないだろう?

種とはそう言うものだし。そもそも生とは、その上に成り立つものだ」


そう言って笑った、宗教画(イコン)に描かれた姿と同じ、銀髪を肩まで流した純白の聖衣をまとう美少年に。


「考えが古臭いな」

俺はクールにそう呟いて。


辛そうに拳を握りしめるリリーの肩をそっと叩き。

砂浜にできた穴から、照らし出される微かな光の動きを確認した。


どうやらクライはリリーが発射したブレスに、幾つかの魔法石を乗せていたようだ。

それはラズロットを具現化させるための『解呪』魔法陣のためだけではなく。数種類の攻撃魔法のための、魔法陣形を組み合わせる準備でもある。


トン、トン、トーン。


また、後ろから足音が聞こえてきた。


「異世界文化の名前で古代遺跡から発見されたのは、技術だけじゃない。

民主主義や資本主義と呼ばれる政治や経済。

――そして、人権と呼ばれる思想まで。

お前が半透明でうつうつ寝コケている間に、時代が変わったんだよ。

そう言う考えは、差別主義者って言われて……

今どき女ひとり口説けやしない」


点滅する砂浜の穴のいくつかの光が強くなり始める。

この陣系は『拘束魔法陣』だ。


なら次は、ラズロットの動きを止めながらリリーのブレスで長距離攻撃。そして、やつの対応を見極めて俺がアタックする。


「知ってるよ…… その程度の事は。

魔族も古代文明を真似て、合衆国だっけ? なにか始めたようだけど。

しょせんそんなものは、ただの理想論だ」


ラズロットが俺とリリーに聖力(ホーリー)を溜めた腕を向けた。

リリーの肩に乗せていた手に力を入れると。


「お、女の口説き方の議論をしておったのか?」

リリーが不思議そうに俺を見上げてそう聞いてきた。


ああ、やっぱり姿形がポンキューポンの美女に変わっても、こいつはアホの子だと。

俺が今までの事を再度説明しようとしたら。


「安心しろ、ディーンに女を口説く甲斐性なんてない。

――超ヘタレだからな、あれはただの見栄だ!」

後ろからクライの叫び声が聞こえ。


リリーがその言葉にハッとなって、深く頷く。



俺はこの連携攻撃に、微妙な不安を覚えて……

――深くため息をついた。



++ ++ ++ ++ ++



クライが仕掛けた拘束魔術の魔法陣が輝くと、ラズロットの動きが一瞬止まる。

それに合わせるようにリリーのブレスがさく裂した。


距離が近付いたため、直撃まではいかなかったが以前のように大きく外れることもなく、ダメージを与えることが出来る。


そのスキに、後ろから12連式のナイフ・ホルスターが投げられてきた。

見ると、高価な魔法石がふんだんに埋め込まれたオリハルコンのナイフがぎっしり装てんされている。


「ディーン、安心しろ。そいつは帝国の軍備倉庫からかすめ取った装備を、俺が作り直したものだ。この件が上手く行けば大手柄だから、きっと経費で落ちる!」


そーか…… そこで金の事を気にするなんて。

間違いなくお前は本物のクライだから、安心して使わせてもらうよ。


「下僕よ。して、ラズロットをどうするつもりじゃ!」

リリーがブレスの連射の合間に、不安そうな表情で聞いてくる。


「安心しろ、一度死んだ人間をまた殺す気なんてない。

俺の考えが正しければ…… このタイムマシーンを応用して造られた『帝都城』

いや、アームルファムの秘宝は。

――神殺しの秘術ではなくて、違うものだ。

その仕組みに賭けてみる」


リリーが下がると同時に、俺はホルスターを肩に掛け。

ブレスの傷を回復魔法で再生しているラズロットに向かって飛び込んだ。


「キミたちじゃ、何度やっても同じだよ。

僕の体にキズを付けることは可能かもしれないが、致命傷を与えることは無理だからね」


「お前のエネルギー源が、この大陸の龍力だって分かった以上。

……手はあるんだよ」


三連投でナイフを投げ、距離をさらに詰める。


空間のゆがみのせいで多少変化したとはいえ、本気の3発を避けられたのは……

人生で3度目。セーテン老師とアイリーン以来だ。


魔術や聖術の知識だけじゃなく、体術も化け物クラスだ。

――さすが伝説の聖人、戦闘の場数も半端ないんだろう。


ホルスターから2本のナイフを抜いて、体当たり気味にアタックすると。

ガラスが砕けるような「ガシャン」という音がして、両手のナイフが木っ端みじんに砕け、身体ごと棒術の足払いのような投げ技で飛ばされる。


なんとかジャスミン先生直伝の『ジュー術』の受け身を取って距離を取り、顔を上げると。

ラズロットは、1メイル半程の木の(ワンド)を握りしめていた。


「手というのは、この空間をつくった勇者と連携して……

僕のエネルギー源を切り離す事かい?

――ならたった今、その希望も無くなったようだけど」


俺が懐に手を入れ、勇者から預かった『勇者まんじゅう』を探すと。ラズロットは俺に向かって左手を差し出し。


「探し物はこれかな?」

饅頭をぐしゃりと握りつぶした。


――くそっ、食べ物を粗末にするなんて、なんてヤツなんだ!


足元の穴から点滅するようにクライが仕組んだ魔法石が誘うように点滅する。

……そうか、その方法なら!

俺が足りない個所へナイフを投擲して、その陣を完成させようとすると。


「その手も……

そこの男と戦ったキミの記憶や、帝都でレイヴンと言う男との戦闘で見たよ。

確かに即興で魔法陣を作成したり、書き換えたりするなんて。

通常じゃあ考えられないし、思いついてもできないものだからね。

――初見だったら看破できなかっただろう」


外部と連絡可能な通信魔法陣が完成する前に……

ラズロットは杖を一振りして、リリーが作った足元の穴を全て塞いでしまった。


俺が歯を食いしばると。


「さあどうする?

後は僕と同程度の力を持つリリーを前面に出して、イチかバチかで戦いを挑むぐらいしか思いつかないけど……

――まあ、キミたちが嗅ぎまわってくれたおかげで、アームルファムが隠した『真実の扉』の本物の鍵の場所も分かったし。

その男も、リリーも。

もう用がないから、消えてもらおうかな」


「さっきから、わたしを無視して何を言っておる!」


クライの姿をしていた男が、ラズロットの言葉に憤慨して……

聖国で見た年老いた男の姿になると、両腕に貯めた魔力を爆発させるように振りかぶった。


「まて、やめろ!」

俺は腕を伸ばして、その行動を止めようとしたが。


「……待ってたよ」

ラズロットは嬉しそうに微笑んで、懐から封印箱を取り出した。


「ふん、そんなものわたしには効かん! 以前、お前を殺した時に重々理解しただろう」


俺の制止を振り切るように、闇の王が魔法を放つと。

ラズロットの封印箱がそっと開いて…… その男を飲み込んでしまった。


「やっぱりディーンの話が理解できてなかったんだね。

以前から、あなたを封印する事なんてそれほど難しくなかった。

僕は神になるために、一度精神と肉体を分裂させる必要があっただけなんだよ」


ラズロットはその箱を懐にしまうと、もうひとつ封印箱を取り出し。

ゆっくりとリリーを見る。


「げ、下僕よ…… 我が時間を稼ぐから、主たちは一度下がって勇者に連絡を……」


バカなことを言い出したリリーを、俺は引き下がらせる。

そんなことしたらヤツの思うつぼだ。


「あの箱の構造は良く知ってる…… いいか、リリー。

お前は間違ってもラズロットに向かって攻撃しちゃダメだ。

攻撃してきた力を利用して、あの箱は稼働するからな」


リリーにそう言ってから、後ろの柱に声をかける。


「なあクライ、やっぱりいつもの方法で行く」

「……まったくお前は、進歩してないな」


あきれたような親友の声と、そこから膨れ上がる魔力に。


「人間なかなか成長できないもんだな」

俺もため息をもらして。


リリーをかばうように、ラズロットに向かって一歩前に出る。

「下僕よ…… 主はいったいなにをする気じゃ」



相変わらず心配そうなリリーに、最高にニヒルな笑みを見せつけ。

「いつも通り…… 正面突破さ」

ホルスターからナイフを2本抜き取り、両手で握りしめると。



俺はクライの魔術援護を受けながら……

――ラズロットに向かって、全力で走りだした。

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