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たったひとつの冴えないやりかた 2

リリーとジェシカは俺と一緒に部屋に踏み込み、残りは待機。

そう決めて、クライから預かった鍵を回す。


すんなりと扉が開き、俺が周囲の気配を探りながら部屋に入ると……


「やあ、遅かったね」

部屋の中央のテーブルに、勇者キドヤマとハバーフィル卿が対面で座り、チェスと呼ばれる異世界ボードゲームをしていた。


「どうなってるんだ?」

勇者が、おどろく俺を楽しそうに眺めながら。


「まあいろいろと説明しなきゃいけないと思って、ここで待ってたんだ。

ちょうどお茶も湧いたし、3人ともこっちに来て座ってよ」

そう言って、手招きをする。


俺とリリーとジェシカはお互いに顔を見合わせたが。


「ああ、新婚旅行で買ってきた美味しいお饅頭もあるんだ。

良かったらお茶うけにどう?」

勇者がそう言うと。


「うむ、そこまで言うなら話を聞こう!」

リリーがスタスタとテーブルに向かって歩き出した。



やっぱりお前、その恰好でも根は変わらないんだなと……

――俺はなぜか、安どのため息をもらした。



++ ++ ++ ++ ++



部屋は8メイル四方ほどの落ち着いた書斎で、壁沿いに本棚があり。多くの書籍が並べられていた。


「説明はいらないかもしれないけど、この人はハバーフィルさん。

地下牢に閉じ込められてたから、僕が解放したんだ。

それからこれは、新婚旅行で買った『勇者まんじゅう』だ。

自分の似顔絵が書かれた商品なんて、なんだか恥ずかしいね」


勇者はそう言いながら、慣れた手つきで紅茶と饅頭をテーブルに並べる。


「うむ…… 似顔絵はあれじゃが、味はまずまずだな!」


リリーは出された饅頭を早速ほおばった。

――すぐに打ち解けて、なんでも食べてしまうリリーの性格がちょっとうらやましく感じたが。


俺が視線をハバーフィルに向けると、彼はどこか申し訳なさそうにぺこりと頭を下げ、饅頭に手を伸ばした。


「どこから突っ込んだらいいのかわからんが…… まずはその説明とやらをしてくれないか?」

俺が紅茶を口にすると、ジェシカも少し悩んでからカップを手に取る。


「そうだねえ…… どこから話したらいいか。まずはあの聖国の『遺跡』の調査結果からかなあ」


次々と饅頭を口に運ぶリリーを、勇者は楽しそうに眺めながら。

――事の真相。遺跡から発見された「問題」を話し始めた。


「前に話したけど、異世界と呼ばれていた僕たち転生者…… いや、過去からの移転者が住んでいた文明は、『科学』が発展した、ここより進んだ世界だった」


なぜその文明が滅び、彼ら『転生者』と呼ばれる過去の人々が、この時間軸に生きたまま移転したかの詳細はまだ判明していないが。


遺跡群を探る中で、彼ら転生者も知らない科学機器が幾つか出土した。

それらは遺跡と同じ過去に作られたもので間違いなく。電気と呼ばれる化学機器特有の動力を必要とするものだが。


「魔法を使用するためのもので間違いない構造をしていた。

僕たちの世界…… つまり過去の文明には存在しないはずの『魔法具』が幾つか見つかったんだ」


そしてその機械は、すべて同じ場所で発見された。


「そこから考えられるのは、過去に魔法を研究していた機関が存在していたということ。これは僕たち『転生者』…… つまり過去からこの時間軸に移動してきた人間からすると、おどろきの事実なんだ」


そしてその魔法機器が行おうとしていたのは。


「見つかった魔法の術式や、回路の科学的理論から……

――それは、タイムマシーン。つまり『時間を越えるための魔法化学機器』だったって推測してる」


そしてそこから考えられる問題は。


「つまり、真実の扉の正体は。……過去に存在した応用魔法器械ってことか?」

俺の質問に。


「それが稼働したのかどうかまでは、調査が進んでないんだけど。

大きな影響を及ばしたことは間違いがないんだ。

――ここから先の話は、ハバーフィルさんが話した方がいいかな」

勇者はそう言って、紅茶のカップを手に取った。


俺やリリーが饅頭を頬張る老人に目を向けると。

彼はゆっくりと紅茶を飲んで。


「まずは謝らなくてはならんだろう…… 戦中、カルー城で裏切り行為を働いた黒幕は、偽物とは言え、このハバーフィルなのだから」

ポツリとそう呟いて、俺の目を見ると。


ハバーフィルは深々と頭を下げた。



++ ++ ++ ++ ++



カルー城戦の数年前、ハバーフィルは1冊の古書を手に入れた。

それは財団でも存在を怪しまれていた『秘宝の書』だ。


「いよいよ激しくなる戦火の中、各地で起きた略奪に紛れて、多くの歴史的書物や魔法史跡が見付かった。その中に……その書は含まれていた」

ハバーフィルは何かをこらえるように、ぽつりぽつりと話を進める。


「私はおどろきと興奮を隠しきれずに、その書を読んだ」

そこに書かれていたのは、ナタリー司教から聞いた話と同じ。


異世界と呼ばれるものが実は古代文明であること。

さらに古代文明と、今を結び付けることが可能な方法……


そして、先ほど勇者が語った事実と同じ。

タイムマシーンの存在と、その渡航を可能にする人造人間(ホムンクルス)の存在。

が、詳細に書かれていた。


――そしてそのエネルギーとして必要な「龍力」の正体も。


「そして今までのアームルファムの研究や、新しく帝国に集められた聖遺跡の分析から、その書が間違いないことに気付いた頃……」


ハバーフィルのところに、ひとりの男が訪ねて来た。


「バド・レイナーは、私に向かって『利用されたくなければ、急いで逃げろ』と。

そう言ったのだよ」


しかし不審な男の意見など気にもせず、ただ自身の警備を強化しただけのハバーフィルは、闇の王の手によって、身体を乗っ取られる。


そしてその立場を利用して、カルー城の裏切り行為が遂行された。


「あの時私が素直に言う事を聞いていれば……

カルー城の事件は起きなかったかもしれない」


そしてハバーフィルの知識を全て吸収した闇の王は。

姿そのものをハバーフィルに変え……


「私を地下牢へ閉じ込めたのだよ。

――なぜ命を奪わなかったのか、謎なのだが。

ひょっとしたら、まだ何かに利用できると考えているのだろうか」

ハバーフィルがそこまで話すと、勇者が続きを受け取る。


「闇の王の特性上、複数の乗っ取りは可能でも。

――新しい体を手に入れるのは、負担がかかるようだ。

だから保険として命を奪わなかったんじゃないかな。

聖国での出来事で、僕らは彼のことを随分研究したんだ。もう2度と取り逃がしたくなかったし、闇の王の実態そのものが、今回の遺跡の件とも大きくかかわっていたからね」


そう言いながら、勇者はテーブルの上に魔法陣を描いた。


「陛下のことはミリオンから聞いただろう。

僕の能力じゃあ、彼女を救うことはできない……

――そして、闇の王を完全にこの世から消すことも。

だからディーンさんに協力を頼んだんだけど。

この話のポイントは『龍力』の正体だ。それでも……

この依頼を受けてくれるかい?」


魔法陣はやがて鏡のように輝き、ひとりの人物を映し出す。

それは地下牢をさ迷う、ハバーフィルと同じ姿の男。


俺がそいつをにらむと、リリーがそっと俺の手を握った。

自分でも気づいていなかったが、どうやら腕が震えていたようだ。


「僕の能力で可能なのは、彼を迷宮に落とし込むまで。

――それもそんなに長くは続けれないだろう」

勇者は少し悲しそうにそう言った。


「クライと…… バド・レイナーはどこにいる?」

俺が確認すると。


「2人とも所在不明だよ、マークはしてたけど……

どうやら振り切られたようだ」


勇者が闇の王を追い込むことに専念していたのなら、それもしかたがないかも知れない。クライやバド・レイナーを押さえ込めれる程の能力の持ち主は、彼しかいないのだから。


俺はリリーを安心させるために、手を握り返し。


「ハバーフィルさん、ありがとう。おかげで謎が解けたよ」

まだ頭を下げ続ける老人に、そう話しかけた。


「私を、許してくれるのか?」

「そもそも恨んじゃいませんよ、誰がどう聞いても悪いのはあの男だ」

「しかし……」


やっと顔をあげた老人に。


「それよりも、腐れ縁の友人が暴走するのを止めなくちゃいけなさそうだ。

――ついでに、悪の根源ってやつにも。

私怨だが、一発入れてこようかと。

まあ、そのぐらいなら…… 神も許してくれるんじゃないかな」


俺はクールにそう呟いて、席を立ち、勇者に問いかけた。

「その迷宮とやらには、どうやって入るんだ?」


「良いのかい? ディーンさん」

「ああ、昔からなぞなぞと、鬼ごっこは得意だったんだ」


勇者が苦笑いしながら短い詠唱を口にすると、本棚がゆっくりと動いて……

――壁に扉が浮かんだ。


「地下牢のダンジョンを利用して迷宮化したんだ」


俺の顔を不安そうに見るリリーとジェシカに。

「ジェシカ、約束は必ず守るから楽しみにしていろ」

そう言うと、ジェシカはなぜか顔を赤らめ。


「下僕よ……」

リリーが近付いてきたから。


「ついてきちゃダメだからな」

少し高い位置になった頭をなぜる。


そして壁にあらわれた扉を開けたが。

別れ際のリリーの表情が、いたずらを思いついた子供のように見えて。



俺は微妙な不安を抱えたまま……

――迷宮へ、足を踏み入れた。

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