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真夏の幻

作戦決行は朝8の刻、帝都城開門と同時に行う予定だ。


時計の針はまだ7の刻をまわっていなかったが、帝都の教会の来客を知らせる鐘がなったから、俺は正門を開けるために部屋を出た。


今日の作戦はいたってシンプルで、俺とリリーが帝都城の受付を通り場内へ進入。

昨日マリスの屋敷で約束を交わした、真夜中の福音のバーニィ隊長や特殊部隊のメンバーが場内で錯乱を誘発。


そのスキに後方から忍び込んだジェシカと合流して、ダンフィル卿を追い込み、ミリオンたちを救う。


帝都の教会は残った人員で守りを固めることになったが、それが俺には少々不安だった。


リリーに相談したら。

「ではドラゴンバスターズを帝都の教会に集結させよう!

下僕よ、心配せんでもあいつらならちゃんと使命を果たすじゃろう」


自信満々にそう言ったから、任せると言ったら。

リリーは早速『通信魔法板』であちこち連絡を取り出した。


その結果の来客だったが。


「ディーン様! 大命を仰せつかり、光栄です」

朝一の列車で到着したドラゴンバスターズのリーダーマルコは、眠たそうな眼をこすりながら、俺に敬礼する。


いつもの学ランではなくフワッとした少女らしいストライプのワンピースに、リーゼントではなく降ろした金髪。正直、一瞬だれか分からなかった……


「ありがとう。夜通しの移動は大変だったろう、まずはゆっくり休んでくれ」

俺がそう言って、マルコに笑いかけると。


「いえ、そんな……」

照れたように微笑むマルコの姿は、どう見ても年相応の可愛らしい女の子だ。

その後ろに並ぶドラゴンバスターズのメンバーも。


「帝都初めてだからさ……」「ねえ、あたし髪跳ねてない? 大丈夫かな」

「きゃ、ディーン司祭様ってやっぱりカッコいい」


小声でそんな声が聞こえてきて。


見ると、眠気と戦いながら和気あいあいとおしゃべりに興じてる。

格好も全員サイクロンの教会で会う時とは違って、年相応の女の子らしいスタイルだった。


うん…… どこからどう見ても、女学院の集団旅行にしか見えない。


「まあ、マルコちゃん達ありがとう! お腹空いてませんか?

朝食の準備ができましたから、皆さん来てください」


俺を追いかけて正門まで来たシスター・ケイトが、嬉しそうにそう言って、彼女たちを食堂に連れてゆく。


なんだろう? 彼女たちの実力をいまさら疑う気はもうないが、何かを大きく間違えたような気がして。



俺は朝の空に輝きだした太陽をにらみながら……

――これ以上熱くならないでくれと、心の中で天に願った。



++ ++ ++ ++ ++



「下僕よ、なぜこのような騒ぎを大きくするような作戦をたてたのじゃ?

もう少し穏便に、目的だけ果たす方法もあったじゃろうに……」


7の刻を半分ほど過ぎた辺りで、俺たちは帝国城の正門前に着いた。入場の順番待ちの列に加わると、リリーは俺の隣に並んで不思議そうにそう問いかけた。


「騒ぎを大きくするのも目的のひとつだからだよ。

俺の指名手配が解けない、正式に城に招くことができない。

これは単に、政治的な駆け引きをかいくぐってほしいと言う願いじゃないんだ。

――ミリオンは俺に、そう言った駆け引きごと壊してほしいのさ。

なら、正面から堂々と壊しに行けばいい」


「うむー」


そう唸るリリーは、頭から大きな薄手の生地の日よけのフードをかぶり、シスター・ケイトが最近着ている、改造していない修道服を着ていた。


リリーはフルパワーで動くことを想定して、教会から龍力を完全開放した状態でいる。なんでも、途中で龍力を全開にすると体の大きさが変化してしまい、服が破ける心配があるそうだ。


そのせいか…… 顔を隠した状態でも、フードを通して見えるシルエットや、時折除く横顔に、周囲の男どもがこちらをチラチラのぞき見ている。


まあ修道服の上からもハッキリとわかる、二十歳前後の身体に変化したリリーの美しいプロポーションも、その原因のひとつなんだろうが。


「しかし下僕よ、なぜだか我らは注目を集めておらんか?

前に並んでおる商人も、さっきから何度もこちらを振り向いておるが」


「俺の指名手配は顔の映像まで、通信魔法板を通して広く通達されてるようだし。

それに……」

俺はそこまで言って、続きをどう説明しようか悩んだが。


「それになんじゃ?」

どうやらリリーは真剣にその事に気付いていないようだったから。


「それに、リリーが綺麗すぎるからだ」

からかい半分でそう言ってやると。


「あ、阿呆」

怒るわけでもなく……

小さくそう呟いて、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。


ああ、いや。その恰好でそうされると、非常に対処に困るんだが。

しかし事実とは言え、からかった俺も悪かったと反省してたら。


「おい、そこのお前!」

誰かが密告でもしたんだろう。

順番待ちの列をかき分けて、2人の衛兵が駆けつけてきた。


俺はやっとこの羞恥プレイから解放されると。



周りの注目からリリーを隠すように立ちながら……

――心の中で深いため息をついた。



++ ++ ++ ++ ++



衛兵と門を守っていた検問魔術師を昏倒させ、城内の庭園まで一気に走り込んだあたりで、多くの兵に周囲を固められた。


以前シスター・ケイトと訪れた時もこの庭園で足止めをくらったが。


「リリー、龍力は得られそうか?」

その時感じた地脈の揺らぎと、地下ダンジョンの存在。そして地図上からもうかがえる帝都城の位置から、ここに龍力スポットの存在を確信していたが。


「うむ、下僕よ! ここなら全力で動いても何ら問題ない」


どうやらその勘は当たっていたようだ。

リリーはそう言ってフードを脱ぎ捨てると、ニヤリと微笑んで周囲の兵たちを見回した。


後方に門を守る衛兵たち、前方に白亜城からあらわれた衛兵たち。合計50人を超える数の兵が、リリーの美貌とあふれ出るオーラに感嘆の息をあげる。


そして、恐れをなして1歩下がるもの。思わず見とれて目を凝らすもの。

反応は様々だったが、帝国屈指の統率力を誇る衛兵たちが崩れたのは間違いない。


俺が打ち合わせ通り、リリーの台詞を待っていたら。


「の、のう…… 下僕よ。なんて言えば良かったんじゃ?

――緊張して忘れてしまった」

リリーが恥ずかしそうに近寄って来て、ポソポソと耳打ちしてきた。


「ここで……

『伝説の古龍リリー・グランドが、帝国に巣食う悪を滅ぼしに来た、覚えのないものは今すぐ立ち去り、はむかう勇気のあるものは前に出ろ! 我が天に変わって裁いてやる』

と大声で叫んで、派手目のブレスか何かを、空に向けて撃つんだ」


俺が小声でリリーに伝えると。


「うむー下僕よ、もちょっと短く出来んか?

なんじゃかこう…… 人が多すぎて。

――妙に緊張するんじゃ」


また困ったように、そう耳打ちしてくる。おかげでリリーの吐息が俺にかかり、近付き過ぎたせいでいろんなものがハッキリと見えた。


「なに言ってるんだリリー! そもそもこの台詞を決めたのはお前だろう。

まあこの際、台詞は何でもいいが……

開始の合図になるブレスが無いと、う、打ち合わせ通り後方で錯乱をおこすタイミングがつかめない。

そ、そこだけは、まあ、なんとかしてくれ」


なんだか色っぽく見える唇や、白くて滑らかな首筋……

そしてその下にある大きな2つの膨らみについつい目が行ってしまい。

俺の声もだんだんと途切れ途切れになってしまう。


しかしこの、シスター・ケイトと比肩するであろう巨大なブツはなんだ!


今の普段のリリーが10代中~後半だとすると、あと数年でこんなに膨らむもんなのか? それとも俺が見ているのは真夏の幻か、リリーのあふれ出る龍力による幻覚なのか。


リリーがモジモジするせいで、その物がフルフル揺れて、おかげで俺の何かがおかしくなりそうだ。


「のう、下僕よ…… 主はいったい何を見ておるんじゃ」

リリーの冷めた声が聞こえ、俺にかかっていた不思議魔術が解かれてゆく。


冷静になって、そのたわわな胸から目をそらし。


「どうしたんだリリー、ドンと来いよ!

以前はてれることなく俺の前で裸踊りをしてたじゃないか。

――あの頃のお前が懐かしいぜ」


緊張をほぐしてやろうと、俺がクールにそう呟くと。

リリーは下を向いて肩をプルプルと震わせた。


さすがにこれはまずかったと、なにか言おうと手を差し伸べたら。

リリーが1歩下がったせいで、空振りした手がムニュリとリリーの大きな胸に当たった。


しばし、帝都城の庭園から音が消えたが……

リリーの握りしめた左手に龍力が集まり、淡く輝き始め。


「こ、こ、この…… 阿呆がー!」


リリーの咆哮が静寂を打ち破った。


俺に向かって放たれたリリーのブレスを、アイギスとガロウを抜いて、なんとか寸前で角度を変えて空に放つ。


鬼の形相に変わったリリーだが、その神秘的な美しさには陰りは無く。


「なあコレ、どういうことだ?」「あれは指名手配のディーンじゃないか」

「きっとあの女たらしが、また美女を泣かしてるんじゃないか」

「とにかく何でもいいから、今のうちにあいつの息の根を止めよう、以前から無性に腹が立ってたんだ」

「じゃあの美女を守りながら、ディーンを殺す方向で」


取り囲んだ衛兵から、不穏な声が聞こえてくる。


「やー、ダーリン。今のはひどいよ、龍姫様がかわいそうだ」

「ご主人様、やっぱり多くの男性の恨みを買ってらっしゃるんですね……」


脳内からも、ガロウとアイギスの不穏な声が聞こえたが。


空に放ったリリーのブレスを聞きつけた、陽動部隊が動き出したのだろう。白亜城の手前から、爆発音が数回聞こえてきた。


「あ、安心しろ下僕よ、その衛兵どもには指一本触れさせん。

――我がお主を安らかな眠りに誘ってやる!」


リリーのその宣言に。



俺は徐々に暑さを増す太陽をにらみながら……

――これ以上熱くならないでくれと、もう一度心の中で天に願った。

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