8曲
気持ちが奮い立って衝動任せに飛び出してみたものの、同じように訊いた所でまともに答えてくれるとは思えない。素っ気なく足蹴にされるのが目に見えている。何かいい方法はないかなぁ。思考を巡らしながら、一定の距離を保ちながら薫の後をついていく。
学校の敷地を抜け出しなっちゃんも通り越して、住宅密集地か山間の神社へと続くY字路に突き当たった。薫は迷いもなく神社へと続く道を突き進んでいく。
なんて切り出そうか考えている間に、周りの景色は変わりゆき時間は進んでゆくばかり。
ソールの浅い上履きのままだから、地面に転がる石ころやゴミを踏み付ける度に、足の裏に痛みが走る。こんなことなら急いで外履きに履き替えて追いかけるんだった。
あまりにも無鉄砲すぎる行動に少し後悔しつつ、声を掛けるタイミングを見計らいながら薫の後を追い続ける。
辺り一面に鬱蒼と生い茂った草花と針葉樹で覆われた広場に辿り着き、その中央をくり抜くように神社へと続く石畳の階段が見えてきた。
見上げてみれば最上段は遥か遠くに見えるほどの階数がある。これを登るのかと思うと気持ちが萎え掛けてきたけど、徐々に小さくなっていく薫を見ていたら自然と足が動いた。
階段の造りは統一性のない大小様々な石で敷き詰められているせいで、勾配が緩やかな所もあれば、急になっている所があった。更に踏面が少ない所もあるせいで、転びそうにもなった。一段上るだけでも気を使って疲れるのに、薫といえば歩きなれているのかペースは衰えることなく一定の早さで駆け上がっていく。
今、後ろを振り返られたら身を隠すところが無いから、その時は腹を括るしかない。
出来る人なら相手との距離をだいぶとってから動くのだろうけど、私がそんなことをしたら見失うだけだ。薫が階段の半分程を登った所に、彼と同じ位の背丈の灯篭が左右両脇に設えてあり、右側の灯篭に向き合ったと思ったらそのまま木々の方に向って消えていく。よく見ると人が進んでいける獣道があるようだ。
階段を踏みしめるごとに呼吸は乱れて膝は笑いっぱなしだけど、自分を騙しながら薫の消えた先に向かう。
灯篭のある所に着いた時には息も絶え絶えで今にも倒れ伏しそうになったけど、私の身体あともう少しだけ言うことを聞いて。
薫が通って行った獣道を改めて確認してみると、高く伸びている木々から生えた枝葉が空を埋め尽くしているせいで光が遮られて仄暗い世界が広がっていた。
足元を見ればくるぶし位まで伸びている雑草がむき出しの素肌にあたりそうで気持ち悪いけど、ここまで来たのなら我慢して行かないと。
踏みつけられた草花を目印に一歩、また一歩と恐る恐る慎重になりながら歩み続けた。
こんな人目にもつかない様な所に何があると言うのだろう。
話す切っ掛けを探しあぐねていたら、いつの間にかに下手な尾行みたいになってしまったけど、何かの発見がありそう。わざわざこんな辺鄙な所に足を運ぶ何かが。
この薄気味悪い道を歩き始めてから10分ほど経過した頃、木々の隙間から蔦で全体を覆われた建物が見えてきた。近づくにつれ仔細に見えてきたからわかった事。コンビニよりも少し小さい造りで、
蔦のせいで窓らしい物がどこにあるのか見当たらなく、人目につかない様に人為的に蔦を這わせたんじゃないかと思わせた。
なんでこんな所にこんな物があるんだろう。もしかして薫はこの中に入って行ったのかな?
木々の合間から建物を観察してみたら、踏み潰されて出来あった草花の道が玄関先へと続いている。
これはきっと薫の足跡に違いない。
折角ここまで来たのだから、もうひとつアクションを起こせれば良いんだろうけど、流石に女子独りではこの建物に近づくのは不用心すぎる。
どうしたもんかと物思いに耽っていると、後ろから音が近づいて聞こえる事に気がついた。
枝を踏み潰して割れる音、草木が何かに擦れてでる擦過音が徐々に大きくなって聞こえてきた。
何かが私の近くまで近づいてきている。
脳裏を掠めたのは、以前遭遇した得たいのしれないキノコ生物。
想像をするだけで呼吸が乱れてきたけど、ゆっくりと後ろを振り返ってみれば。