9曲
円が照れ臭そうに立っているじゃないか。
『やぁ』
『どうして? なんでついてきたの?』
『だってさ、それ』
そう言って指差した先には、薄汚れてしまった私の足元。
『上履きのままじゃ辛いだろと思って、さ!』
語尾に合わせて、バッグから私の靴を取り出して見せた円。
その気遣いに感極まってしまい、つい大声で友の名前を叫んで飛びついてしまった。
円の顔を見ると、目を瞑っているんじゃないかと思うほど目元が細まり口の端もつり上がってなんとも愛らしい表情。もつべきものはやっぱり親友だよね。
可愛いだけじゃなく、気の利いた行動が出来るなんて人が良すぎだよ。
薫を追いかけていた筈なのに、私も追いかけられている側にいたとは思いもしなかったけどさ。
『ほんとにありがとね!』
『どーいたしまして』
感謝の言葉を贈ったあと早速もってきてくれた外履に履き替えて、そのタイミングを見計らってか、円が思案気に訊ねてきた。
『ここってなに?』
不気味な雰囲気を醸し出している建物を見やりながら疑問を口にするも私にだってわからない。
『分かんない。なんだろうねここ』
『そっかぁ。ここに用事あった訳じゃないの?』
様子を伺うように、臆することなく建物に近づいていく円。
『近づかないほうがいいって!』
『少しくらいだいじょーぶだよ』
緊迫感の抜けた朗らかな返事で、却って心配になったくらい。
閉じられていたドアが突如開いて、辺りを伺うように出てきた薫。
私と円の存在に気がついたのか、険しい視線を投げつけてきた。
『なんでここに居んだよ! 目障りだからとっとと出てけよ』
私たちに向かって突き放す様に冷たい言葉が言い放たれ、円は薫の言葉に驚いたのか、歩くの止めて固まってしまった。
私の為に靴を持ってきてくれただけなのに巻き込んでしまったのはあまりにも申し訳ない。
でもこの機会を逃す訳にはいかないんだ。
『嫌です。私はあなたに用があって来たんですから』
『俺にはないから帰れ』
薫は吐き捨てるに言ったあと扉を閉めかけたけど、建物の中から顔全体を防護マスクで覆った青年が現れては扉を押さえた。
『少しは話を聞いてもいいんじゃないかな。ここに辿り着いたよしみって事で』
『英一さん。俺は嫌ですよ』
眉間に皺を寄せて、不快感を滲ませたような低い声で進言している薫。
『なら僕が答えるまでさ』
英一と呼ばれた人は、薫の意見を取り入れつつも余裕のある態度をみせたから、薫が折れたようだ。
『……俺が答えますよ』
英一は薫の呟きに満足そうにしつつ答えた。
『良かったらこの中に入ってよ』




