3-14 とある支配者の気炎 中編
『アリゾナ病』、長い正式名称はわざわざ唱えるのも無駄だ。
つまらぬ政治で国の対応が遅れている時、自衛隊の参謀長が訪ねてきた。
杯を交わしながら話を聞く。自衛隊参謀班と厚生労働省の高官、国立大学教授の有志で行われた検討会で、今後の動向と推移を推測したところ、もう近いうちに日本という国家の維持ができなくなり無法地帯に陥るとのことであった。
NBC兵器、これにより国家が壊滅的な被害を受けた時の対応については、勿論自衛隊の中で検討が行われてきた。議会や政治家、一般市民には当たり障りのない軽度な被害だった場合の対策を公開していたが、真に危機に迫った場合の対策は過激であり秘匿されつつも維持、そして改良が続けられていた。無論NBCのうち、N、核の脅威に対する問題が最も重要視されていたが、化学兵器は局地的なものばかりで広域に被害をもたらすことは無く持続性も無く、さらに生物兵器は環境や微生物の動向で効果が安定せずに想定されるよりも遥かに効果が低いことが多い・・・筈であったが、儂はこの『アリゾナ病』は米国の生物兵器が事故により流出したものだと睨んでいる。人類の700万年の歴史で、今この瞬間に都合良くこのような病気が流行るものか!
細菌兵器への対策法も自衛隊内部では勿論あったが、それはもっと狭い範囲で、例えば天然痘ウイルスによる既知のものによるテロに近いものとして考えられており、今回のような明確な攻撃とは取れない、スペイン風邪のようなものに関しては考えられていなかった為に初動が遅れてしまったそうだ。厚労省が通常は感染症の対策に当たるが、それは基本的な海外からの渡航の制限や各病院からの情報収集及び注意喚起、最大でも患者の隔離程度しかできない。つまり、既存の対処法は無いという事だ。
国民主権、まあいいだろう。儂としてもこの国を愛しておるし、国民を救いたい気持ちは今の政治家よりも遥かに強い自負がある。だが、国民一人一人に権利が有りすぎて人権を盾に介入ができない事は緊急事態においては致命的だ。テロリストに捕われた人質を救うために警察官が血を流すことは正しい、だが、国の判断として屈服するのは誠持って愚かだ。今後も同じ事件が起こるであろうし反国家集団を調子付かせることになる、多少の人質の被害は目を瞑り、早期に突入して犯罪者を駆逐する方が長期的な被害が出ないのだ。この『アリゾナ病』も、最早感染者ではなく、未だ感染していない国民を一人でも多く助け社会を維持せねばならぬ、ありとあらゆる手段を使ってでもだ。
そして、そのための計画案を今手渡された。
統制都市。外部からの接触を減らして感染拡大のリスクを抑えつつ、内部で発生した感染にも迅速に対処、適切にやるべき仕事を計画的に割り振り社会を維持しつつ、研究者に最優先でよい環境を提供して『アリゾナ病』への対処法を確立させるまで体制を維持する。
そして、自衛隊としては、あくまで政治の主導のもとにこの強硬策を実行するよう指示して欲しいという事だ。これは、保身のためではなく、この策が軍事クーデターではなく、国として必要だから行っているという姿勢が必要だからだ。
そして、この強硬策、勿論憲法の国民の権利を侵害する事甚だしく、これを実行した政治家はすべてが終わった後には重い罪に処されることだろう。
だが、それこそ政治の本質だ。例えいかなる法律、そして憲法を無視してでもやらねばならぬことができるのは国の中枢たる政治家のみだ。例え後世の者にどれほど悪しく指さされようとこれこそが政治家の本懐だ。
今の首相、鼻垂れ小僧には奴が小さなころ会ったことがある、図体はデカくなっても肝心なところは成っとらんようだ。だが、立場は立場、奴を動かすのが一番効率が良い。
場所を変え、必要な人間を増やして行われた綿密な打ち合わせは東の空が白ずむまで続いた。そして、睡眠をとることなく各々が早速動く。この国の限界はもう近い。




