帰り道
ばあさんが言うところによると、人間が猫になったという事例があるらしい。人間に戻るには、夜に交尾の相手が必要らしい。しかも人間の。それに満月の夜という限定付きだ。
とりあえず話は聞けたので、俺の家に帰ることにした。その帰り道も茜は何かを考えているようで、何も話そうとしない。落ち込んでいるようにも見える。
俺はかける言葉も見つからないうちに、家に着いた。
「茜、これからどうするんだい?」
「……うん、しばらくここにいてもいい?いくとこないし」
俺はまたもやどきっとした。落ち着け、俺!茜はいくところがないからこう言ってるだけなんだ!俺は平静を装って言った。
「ああ、まあ構わねえけどよ。俺の女ってことにしとかねえとな」
「なんでそうなるのよ!」
茜が食ってかかってきた。俺はもっともらしい理由を言った。
「あのなあ、この辺でも男はたくさんいるんだよ。俺の女ってことにしておけば誰も手出ししねえからよ」
俺は自分で言って、本当に茜が俺の女になってくれればいいと思った。
「……わかった。ありがとう」
なんて可愛いんだ!その上目遣いだと誘っているように見えるぞ!これは本当に他の男たちには会わせられねえな。
「まあ、その、気のねえ女に手出ししたりしねえからよ」
俺の言葉に茜はほっとしているようだ。これから寝起きが一緒か……俺の理性が持つか不安だ。
とにかく茜に何もないようにしなきゃなんねえな。パトロールを増やすか……。
俺は自分の縄張りの確認を前にもまして力をいれるようになった。