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14:魔王ちゃん、ドナドナ

ブクマ、評価に多大なる感謝を。

 今でこそ魔王の眷属なんてやっている俺だが、昔は普通の人間だった。

 普通に寝て。

 普通に食べて。

 普通に笑い。

 普通に怒って。

 普通に友達がいて、父母がいて、妹もいた。

 幼い妹は体が弱かった。

 その死に目に会えなかった事を、俺は今でも後悔している。


 ある日、普通の人間だった俺は勇者になった。

 地球とは異なる世界、燐界ユースフィアの勇者だ。

 何故こんな事になったのかはわからない。

 寝て起きたらそこはもう地球じゃなかった。

 ユースフィアの人々は皆穏やかで優しい。

 俺には王都の城の中でも特に立派な部屋が貸し与えられた。

 だけど、それは、きっと、俺が勇者だからなのだろう。

 勇者は人類の敵を、魔王を倒しうる唯一の存在だから。 

 そして押し付けられる無理難題の数々。

 危機感を覚えた俺はある晩、城から逃げ出した。


 逃げ出した先で魔王を名乗る童女に出会った。

 朝焼けを背に受け浮かび上がるシルエットには、天に向かい伸びる二本の角。

 ここユースフィアにおいても、角の生えた人間など存在しない。

 きっと本物の魔王なんだろうな。

 嗚呼、これは詰んだな。

 そう思った俺は、破れかぶれで立ち向かった。


 魔王は驚く程……弱かった。


 詠唱中に蹴っ飛ばしたら怒ってわめき出す。

 五月蝿いとゲンコツを落としたら金切り声で騒ぎ出す。

 なんかもう、一周回って面白くなってきた俺は、

 ジャイアントスイングで魔王を投げ飛ばした。


 泣いた。

 泣き出した。

 魔王は大声を上げて泣き出した。


 その泣き顔が妹にそっくりな事に気がついて、

 俺もまた、涙した。


 その日、21番目の勇者は、人類を裏切った。




////////////////////////////////////




「チャネルライトは……裏切り者です。

 いえ、きっと最初から仲間意識なんて持っていなかった」


 荒らされた隠れ家の真相を語るガルガントリエ。

 そこで明らかになったチャネルライトさんの裏切り。

 しかし衝撃の事実は、それだけに留まらなかった。



「いいですか、カンベエ。彼女もまた、人間です」


「は?」


「チャネルライトは幻術で姿を誤魔化していたんです!

 最初から魔王様を誘拐する目的でボク達に近づいたんですよ!」



 あまりに驚き過ぎて、もう何が何だかわからない。

 落ち着け俺!

 一つずつ状況を整理しよう。


 えーと、チャネルライトさん、人間だったのか。

 いや、考えてみればおかしな点は多々あった。

 妙に人間の街について詳しかったし、

 勇者の動向に関しても、ほとんどの情報源は彼女から得たものだった。

 今回の誘拐事件にしてもそうだ。

 発端は彼女の一言から始まった。

 剣聖ちゃんが妙に俺について詳しかった件も、今なら納得できる。

 全て繋がっていたんだ。



「ボクは悔しい!あの程度の幻術も看破できなかったなんて!

 まったく、何が灰色の脳細胞だ!畜生!畜生!!」


「あの人の事は一旦置いておこう。なあ、ガルガントリエ。

 魔王様が連れていかれたと言っていたが、つまり魔王様は無事なんだな?」


「ええ。魔王を倒したら、いつかまた次代の魔王が誕生してしまう。

 だから生かさず殺さず、その力を封印し国で管理するんだとか」


「チャネルライトさんがそう言ったのか?」


「……悪いようにはしないって。でも彼女の言葉は信じられませんよ!」



 ああ、その通りだ。

 ここまでされて信じられるはずがない。

 手遅れになる事だけはなんとしてでも避けないと。

 あんな思いはもう、二度と御免だ!



「わかった、すぐ助けに行こう」


「ボクも行きます!」


「でも、お前、怪我は大丈夫なのか?」


「ボクの探知なしで魔王様の居場所がわかりますか?」



 む、言われてみれば確かにそうだ。

 俺には魔王ちゃんを探す術が無い。


「わかった、一緒に行こう!」


 だけど、ちょっとおかしくないか?


 チャネルライトさんだってガルガントリエの探知能力は知っているはずだ。

 にも関わらずガルガントリエを生かし、情報まで残して去って行くだなんて。

 まるで「追って来い」とでも言っているみたいじゃないか。

 何か罠があるのかもしれない。

 だとすれば誘われているのは元勇者である俺だろう。

 制裁か?

 いずれにせよ何が待ち受けているかわからない。

 この際、ガルガントリエに全てを打ち明けてしまった方がいいのかもしれない。

 おそらく、相手は転移の勇者である俺との戦い方を熟知しているはずだ。



「ガルガントリエ、お前に話しておく事がある」


「何ですか?薮から棒に」


「俺は元勇者だ」



 勇者というワードを聞いてガルガントリエの視線が鋭くなる。



「人間で、勇者だった俺を、信じられるか?」


「では、ボクからも一つだけ質問があります。

 ボクは元々ラピッドクロウ……不幸の象徴と呼ばれる種族でした。

 何か悪い事が起きたらいつもボクのせいにされてきましたよ。

 それが本当に本当に嫌でした。

 でも、最近思うんですよ。

 もしかしたらボクは、本当に不幸の呼ぶ存在なんじゃないかって。

 今回の件にしたってそうだ。

 ボクは魔王様を守りきれなかった。

 そんなボクを……人間で元勇者のあなたは信じられますか?」



 その瞳は真っ直ぐ、俺の心に語りかけてきた。

 ことこの質問に関してだけはどんな嘘偽りも通用しない。

 そんな瞳だ。

 それがどうした?

 俺の答えは変わらないさ。



「俺は……お前がいてくれて、幸運だったって思ってるよ」


「だったら僕達は、最高のパートナーです!」



 固く握手を交わす俺とガルガントリエ。

 こうして魔王ちゃん救出班は結成された。

 メンバー、二人しかいないけどな!



「ではボクも、対勇者用に準備していた秘密兵器を披露しましょうか!」


「秘密兵器?」


「魔族のエネルギー源、魔核を加工して金属に組み込んだ対勇者駆逐型魔鋼闘士」



 あ、なんか嫌な予感がする。



「メカ・ボルドフォック1号です!」




////////////////////////////////////




 ある晴れた 昼さがりの街道。


 荷馬車がゴトゴト 魔王ちゃんを乗せて走る。


 かわいい魔王ちゃん 連れてかれるよ。


 かなしそうな瞳で 見つめているよ。


 怒鳴ドナ 怒鳴ドナ 怒鳴ドナ 怒鳴ドナ 魔王を乗せて。


 怒鳴ドナ 怒鳴ドナ 怒鳴ドナ 怒鳴ドナ 荷馬車は揺れる。




「ん”ーーーーーーッん”ーーーーーーー!!(放せ無礼者〜〜〜〜!)」




////////////////////////////////////




・今日の魔王ちゃん  簀巻きにされてドナドナ。



・魔王ちゃんの軌跡

  最短戦闘時間:00分00秒(戦う前に城ごと爆破)

  最長戦闘時間:08分59秒(ただし相手は人間の子供)

  累計戦闘時間:23分50秒


次回:ボルドフォック襲来

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