13:魔王ちゃん、誘拐される
魔王ちゃん成分、皆無でお送りします。
※累計戦闘時間修正
時間は少し遡る。
チャネルライトさんが敵を誘き寄せている間、
手持ち無沙汰になった俺は落とし穴を掘る事にした。
何故落とし穴かって?
城の残骸の中からたまたまスコップを発見したからです!
勿論、こんなもので勇者一行を倒せるなんて思っていた訳じゃない。
限られた時間の中で準備できる穴は、精々が一人分。
しかも、転移魔法を使える奴が向こうにいれば、脱出は容易である。
これじゃあ策とも呼べない、正に穴だらけの一手だ。
1mくらい掘ったところで後悔し始めた俺だが、
途中で辞めるのもなんだか悔しいので、汗水垂らしながら必死で掘った。
そしてついに完成する至高の作品。
砂利と雑草によるカモフラージュ。
推定5メートル以上の縦穴。
穴底は足首を捕らえる泥沼仕立て。
始原にして最古の罠、実に美しい。
元々土いじりが好だった俺は、この時点ですでに満ち足りていた。
いっその事、誰もこの作品に引っ掛からなくてもいい、
ただ罠を眺めているだけで俺は幸せな気持ちに包まれた。
重労働によって火照った体を軽風が撫でる。
俺は清々しい気分のまま、時を待った。
それからお客人が現れるまで、あまり時間はかからなかった。
後はご存知の通り。
俺はただ禍々しいオーラ(のような湯気)を放ち、立っていただけ。
特別な事は何もしていない。
剣聖ちゃんが向かって来る。
落ちろ!堕ちろ!墜ちろ!!
頭の中で繰り返した。
誰かが踏み抜いたその瞬間、俺の罠は美術品へと昇華する!
手段として用意した落とし穴は、いつしか目的へとすり替わっていた。
そして彼女はそれを踏み抜いた。
「えっ」
一瞬、思考が抜け落ちた剣聖ちゃんの表情を見て体中に電撃が走る。
未だかつて味わった事の無い爽快感だった。
今なら理解できる。
あの猿顔の少年は、こんな楽しい事をしていたのか!
掘り嫉妬!
「だ、出して!ここから出して!」
下から響く剣聖ちゃんの声に、
上からゆっくり土をかぶせる。
「え、ちょ!嘘でしょ!?やめ!やめ!」
穴を掘った際に出た大量の土は転移で簡単に持って来られる。
おかわりはまだまだあるよ!
た〜んと召し上がれ?
「って、なんでちょっと笑ってるんですか!?」
「いやー、剣聖様も落とし穴には勝てなかったんだなぁって思うと。
敵側の俺としてはなんだかホッコリとしてしまってな、ははは」
「うっ、魔王の腹心ともあろう者が、こんな原始的な手法を用いるとは!」
「その原始的な手法に引っ掛かった奴は、
俺が知る限りではお前と猪くらいなわけだが……」
「逆に言えば、原始的とは力強さを裏付ける表現とも考えられますよね。
それでいて緻密で繊細で巧妙な計算の元に成り立つ、罠の中の罠!
これを回避できる人類は未だかつて現れず!落とし穴、あっぱれです!」
「少しは自分を恥じろよ!!」
落とし穴を持ち上げたって、自分の株は下がるばっかだよ!!
まぁ、いいや。
勇者が来ないならここにもう用はない。
死なれても後味悪いし、顔の下くらいまで埋めたら見逃してやろう。
俺が殺さなきゃいけないのは勇者だけだしな。
再び土の転移を再開しようとしたその時、背後から大きな爆発音が聞こえる。
驚き振り返ると、宵空には花火が上がっていた。
「な、なんだ!?」
「合図……どうやら上手くいったみたいですね」
「どういう事だ?」
「あの花火が上がった方角に何があるか……あなたの方が詳しいのでは?」
な!?
あっちには魔王ちゃんが待機している北の森の隠れ家がある!!
つまり剣聖ちゃんはただの足止め?
勇者ら、王国最強の騎士をブラフに使いやがった!!
「確かに、私は貴方の落とし穴には負けました。
でも剣聖リッツは貴方に負けた訳じゃありません!
足止めとしての役割が達成できた時点で私の勝利です!」
ぐ、この負けず嫌いがぁ〜〜〜〜!!
とは言え反論できない。
今すぐ転移で魔王ちゃんの元へ……。
駄目だ!!
意識が転移先に集中できない!?
「転移先にも転移妨害を仕掛けてあります。
保険のつもりだったけど、無駄じゃなかったみたいですね」
「本当に準備がいいな、おい」
転移妨害の重ね掛けか。
俺なら強引に飛べなくもないが……。
座標の始点と終点が不安定になっている今、
下手に飛んだらどこへ行き着くかわからない。
まさかこんなネタグッズを2つも持っていたとは予想外だった。
「そういう事です。さあ、どうしますか?
私に土を被せている時間なんて、貴方に残されていますか?」
俺は舌打ちと剣聖ちゃんをその場に残し走り去る。
無事でいてくれよ、魔王ちゃん!
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トップスピードで走り続けること30分。
すでに日は沈み、森は深い闇と静寂に包まれていた。
その中でぼんやりと光る家の灯りを見つける。
漸く隠れ家へと辿り着く事が出来た。
『はーーーっはっはっは!
カンベエはすぐに帰ってくるだろうからな!
今のうちに外灯を点けておくのだ!暗いと怖いしな!!』
不意に、そんな魔王ちゃんの姿が頭に浮かび、思わず笑みが溢れる。
「静かだな」
外から見た隠れ家はいつもと変わらないように見える。
しかし、明かりが点いている割りには中から人の気配が感じられない。
不気味な程に静かだった。
嫌な想像が頭の隅を掠める。
少し震えた手をドアノブにかけ、ゆっくりと回した。
「ただいまー!」
『おおぉカンベエ!
よくぞ帰ってきたな!』
しかし返答はない。
そこにある物と言えば、散乱した食器の破片と、荒らされた家具。
その程度だ。
「はは、なんだよ……これ」
ちょっと留守にしてただけなのに、こんなのってありかよ。
爪先から順にだんだんと力が抜けていき、その場で膝を突く。
その時、部屋の隅で小さな物音が聞こえた。
物陰から見える紫色の翼。
ガルガントリエだ。
「ぐ、おかぇ……なさ、カンベ……ケホッゴホッ」
「ガルガントリエ!!良かった、無事だったのか」
ひっくり返ったソファーの影で倒れているガルガントリエ。
俺は膝を付いたまま這うようにそこまで移動した。
「無事じゃ……ありませんよ……いててて」
「待ってろ!今すぐ治療を」
傷の具合を見ようと手を伸ばす。
しかし、ガルガントリエはそれを力なく払い退けた。
「やめて……ください。ボクに、そんな資格は……。
ボクは……魔王様を、守れなかった。
頼むって、任され、たのに……エグッ……頼むって……うぅうぅぅ」
「ああ、もう!四天王だろ!男がめそめそするな!」
薄弱な抵抗を無視し、強引に傷の手当に入る。
幸いな事に大きな怪我は見受けられない。
俺は引き裂かれたカーテンを包帯として代用し、傷口に少し強めに巻き付けた。
ガルガントリエに関してはこれで問題ないだろう。
となれば残る問題は一つ。
「何があった?チャネルライトさんは戻ってないのか?
ノアは……魔王ちゃんはどうした!?」
尋ねられたガルガントリエは、苦渋に表情を歪め口を噤んだ。
どう説明したものかと、心の中で整理をつけているように見える。
だから俺は急かすような事をせず、続く言葉を待つ。
そして数秒の沈黙の後、少年は強く噛み締めていた下唇を解いた。
「すみません。魔王様は、連れて行かれました……チャネルライトは……」
呼吸を忘れ、次の言葉を待つ。
「裏切り者です」
一瞬、目の前が真っ暗になる。
もう充分に混乱していた俺は、その言葉を冷静に受け入れる事ができなかった。
どういう事だ?
魔王ちゃんは誰かに連れて行かれて、チャネルライトさんは裏切り者?
つまり、こういう事か?
魔王ちゃんが四天王に誘拐される事案、発生。
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・今日の魔王ちゃん
戦闘時間:00分35秒(一応じたばたと抵抗してました)
・魔王ちゃんの軌跡
最短戦闘時間:00分00秒(戦う前に城ごと爆破)
最長戦闘時間:08分59秒(ただし相手は人間の子供)
累計戦闘時間:23分50秒




