第3章 ニキビ男
カリカリカリ
カリカリカリ
カリカリカリ
耳かき男が耳かきをしています
カリカリカリ
カリカリカリ
カリカリカリ
耳の奥の壁をかいています
耳かき男が高校3年生の時、ニキビ男がやって来ました。
ニキビ男の顔は真っ赤なニキビだらけです。
「おたくはまだいいよ。俺なんか小学6年生の時から40歳を過ぎた今でもニキビだらけなんだぜ。40歳を過ぎてもニキビが治らないなんて想像出来るかい?今では顔だけじゃなく体中にニキビが出来ているんだぜ。
鼻の穴の中は勿論、耳の穴の中にもニキビが出来るんだぜ。おたく、耳の穴の中にニキビが出来た事があるかい?ニキビというよりは吹き出物だな。吹き出物というよりは腫瘍だな。そのうち脳に腫瘍が出来るんじゃないかと諦めているよ」
耳かき男はニキビ男の話を黙って聞いていました。
ニキビ男の頬から膿が垂れはじめました。
「俺が小学6年生の時にはじめてニキビが出来たよ。テレビで、
「ニキビは青春のシンボル!ニキビ治療薬クレアラシルを買いましょう!」
と爽やかなCMが流れていたよ。
俺は母にクレアラシルを買ってくれって頼んだよ。そしたら、
「ニキビは潰せ!薬が一体幾らすると思っているんだ?!」
と怒鳴られたよ。
俺は彼女の言葉に従うしかなかったよ。次から次へと出来るニキビを潰して潰しまくったよ。その結果がこの顔さ。不潔な手で潰すから菌がどんどん広がったんだな。
おたくにアドバイスするとしたら、もし皮膚に異常を感じたら皮膚科に行きな。もし耳に異常を感じたら耳鼻科に行きな。もっとも高校生じゃ保険証も金も持っていないだろうな」
ニキビ男の頬から膿が垂れ落ちました。
それはニキビ男の涙だったのかもしれません。
「俺の母は風邪になっても病院に連れて行ってくれなかったよ。風邪薬さえ買ってくれなかったよ。母に言わせれば、
「外から帰って来ても、手洗い・うがいもせず、食事の好き嫌いばかり言って、毎晩夜更かしをしている奴に飲ませる薬はない。規則正しい生活を心掛けていれば、風邪になる訳がない。普段から不規則な生活をしといて、いざ風邪になったら、病院に連れて行ってくれだの、薬が欲しいだの、甘ったれるな!」
と子供の頃から何度も怒鳴られたよ。
要は俺の母は薬や病院を嫌っていたのさ。
だけどその母も年老いて、脳に腫瘍が出来、病院に入院させられたよ。薬漬けにされ、苦しみ抜いて、あの世へ旅立ったよ。
「痛み止めの薬を頂戴!」
それが母の最期の言葉だったよ。昨日、葬式を済ませたばかりさ」
ニキビ男はそれだけ言うと黙り込んでしまいました。
耳かき男は黙ってニキビ男に耳かきを渡しました。
ニキビ男は黙って耳かきをはじめました。
耳かき男も黙って耳かきをはじめました。
カリカリ、カリカリ。
カリカリ、カリカリ。
ニキビ男と耳かき男が並んで黙々と耳かきをしています。
その時、ギターの音色が聴こえました。驚いた耳かき男は、
「これからどこへ行くのですか?」
ニキビ男は、
「南へ行く。南には幸福の楽園があるんだぜ」
ニキビ男は去り行く途中で一度だけ立ち止まると、ポーズを決めて叫びました。
「出物腫れ物所嫌わず!」
ツンツンツンツン
トントントントン
ツンツンツンツン
トントントントン
耳かき男が耳かきをしています
ツンツンツンツン
トントントントン
ツンツンツンツン
トントントントン
耳の奥の壁を耳かきで刺激しています
(つづく 最終更新日14年07月20日)




