表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 紀ノ川
第3部 耳かき男
25/37

第3章 ニキビ男

カリカリカリ

カリカリカリ

カリカリカリ

耳かき男が耳かきをしています


カリカリカリ

カリカリカリ

カリカリカリ

耳の奥の壁をかいています






 耳かき男が高校3年生の時、ニキビ男がやって来ました。

 ニキビ男の顔は真っ赤なニキビだらけです。

「おたくはまだいいよ。俺なんか小学6年生の時から40歳を過ぎた今でもニキビだらけなんだぜ。40歳を過ぎてもニキビが治らないなんて想像出来るかい?今では顔だけじゃなく体中にニキビが出来ているんだぜ。

 鼻の穴の中は勿論、耳の穴の中にもニキビが出来るんだぜ。おたく、耳の穴の中にニキビが出来た事があるかい?ニキビというよりは吹き出物だな。吹き出物というよりは腫瘍だな。そのうち脳に腫瘍が出来るんじゃないかと諦めているよ」


 耳かき男はニキビ男の話を黙って聞いていました。

 ニキビ男の頬から膿が垂れはじめました。


「俺が小学6年生の時にはじめてニキビが出来たよ。テレビで、

「ニキビは青春のシンボル!ニキビ治療薬クレアラシルを買いましょう!」

 と爽やかなCMが流れていたよ。

 俺は母にクレアラシルを買ってくれって頼んだよ。そしたら、

「ニキビは潰せ!薬が一体幾らすると思っているんだ?!」

 と怒鳴られたよ。

 俺は彼女の言葉に従うしかなかったよ。次から次へと出来るニキビを潰して潰しまくったよ。その結果がこの顔さ。不潔な手で潰すから菌がどんどん広がったんだな。

 おたくにアドバイスするとしたら、もし皮膚に異常を感じたら皮膚科に行きな。もし耳に異常を感じたら耳鼻科に行きな。もっとも高校生じゃ保険証も金も持っていないだろうな」


 ニキビ男の頬から膿が垂れ落ちました。

 それはニキビ男の涙だったのかもしれません。


「俺の母は風邪になっても病院に連れて行ってくれなかったよ。風邪薬さえ買ってくれなかったよ。母に言わせれば、

「外から帰って来ても、手洗い・うがいもせず、食事の好き嫌いばかり言って、毎晩夜更かしをしている奴に飲ませる薬はない。規則正しい生活を心掛けていれば、風邪になる訳がない。普段から不規則な生活をしといて、いざ風邪になったら、病院に連れて行ってくれだの、薬が欲しいだの、甘ったれるな!」

 と子供の頃から何度も怒鳴られたよ。

 要は俺の母は薬や病院を嫌っていたのさ。

 だけどその母も年老いて、脳に腫瘍が出来、病院に入院させられたよ。薬漬けにされ、苦しみ抜いて、あの世へ旅立ったよ。

「痛み止めの薬を頂戴!」

 それが母の最期の言葉だったよ。昨日、葬式を済ませたばかりさ」


 ニキビ男はそれだけ言うと黙り込んでしまいました。

 耳かき男は黙ってニキビ男に耳かきを渡しました。

 ニキビ男は黙って耳かきをはじめました。

 耳かき男も黙って耳かきをはじめました。


 カリカリ、カリカリ。

 カリカリ、カリカリ。

 ニキビ男と耳かき男が並んで黙々と耳かきをしています。

 その時、ギターの音色が聴こえました。驚いた耳かき男は、

「これからどこへ行くのですか?」

 ニキビ男は、

「南へ行く。南には幸福の楽園があるんだぜ」


 ニキビ男は去り行く途中で一度だけ立ち止まると、ポーズを決めて叫びました。

「出物腫れ物所嫌わず!」






ツンツンツンツン

トントントントン

ツンツンツンツン

トントントントン

耳かき男が耳かきをしています


ツンツンツンツン

トントントントン

ツンツンツンツン

トントントントン

耳の奥の壁を耳かきで刺激しています


(つづく 最終更新日14年07月20日)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ