おしまい TYPE-A
男の孫は女の子でした。
息子の身に離婚騒動がおこったので、息子は孫を男に預けたのです。
男と孫のふたりだけの生活がはじまりました。
孫は男の死んだ妻にそっくりでした。
孫はよく話し、よく笑い、よく本を読みました。
男はけれども腹が立って仕方ありませんでした。
男にも理由はわからないのです。
孫が話すたびに、男は腹が立って腹が立って仕方ありません。
孫が笑うたびに、男は腹が立って腹が立って仕方ありません。
孫が本を読むたびに、男は腹が立って腹が立って仕方ありません。
男はカルシウム不足だったのかもしれません。
孫は男が腹を立てている事に気付いていましたが、理由がわかりません。なにしろ男にも理由がわからないのですから。
孫は男と一緒に本を読みたいと願っていました。
そんなある日、食事中に孫がカレーライスで本を汚してしまいました。
男が一言も話さないので、孫はさびしくて食事中も本を読んでいたのでした。
男は読書家でしたが、愛書家でもありました。大切な本を汚された事に我慢出来ませんでした。
男はキレてしまいました。
男は立ち上がって、杖をにぎりしめると「ごめんなさい、ごめんなさい!」とあやまりながら必死に本の汚れをふきとっている孫の後ろにソッと忍び寄りました。
男は孫の後頭部を杖でおもいっきり殴りました。
孫は上半身をエビ反りにしたかとおもうと、そのままあお向けに倒れてしまいました。
男は孫の頭を杖でおもいっきり殴り続けました。
孫は最期に幻を見ました。
グリン・ゲイブルスに向って「歓喜の白路」をマシュウ小父さんと馬車でドライブしている夢でした。
孫が読んでいた本は、孫が汚した本は、モンゴメリの「赤毛のアン」でした。
気が付くとマシュウ小父さんは男に変わっていました。
そして男は孫に向ってニッコリとやさしく笑いました。
それこそが孫が唯一つ望んでいた事なのでした。
孫の頭のまわりに血の海が広がりました。
男は孫を杖で殴り殺してしまいました。
男はようやく殴るのを止めると、しばらく興奮してブツブツ何か言いながらその場をウロウロしていました。
男はやがて冷静になりました。落ち着きを取り戻しました。
男は熱しやすく冷めやすい性格だったのかもしれません。
男は興味深そうに血の海へと近付きました。
孫の目はカッ!と見開かれていましたが、もう何も見てはいませんでした。
孫の目に一杯たまった涙から、ポロリと一粒流れ落ちました。
男は血の海を指でなでてみました。
男は指に付いた血を不思議そうにじっとながめていましたが、しばらくするとその血の付いた指をチューチューと吸いました。
(TYPE-A おしまい 最終更新日22年06月19日)




