第十八話 「職場疑惑加速――杏里沙・梓・雪音の“確信フェーズ”」
――歯科医院。
朝の診療前準備。
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「おはようございます」
受付に立つのは、いつも通りの雰囲気。
だが空気は違っていた。
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そこにいるのは――
稲垣杏里沙
水瀬梓
白瀬雪音
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(昨日の“確信未満”が、今日で確信に変わる空気だ……)
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診療室。
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患者席には一人の女性。
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榊原志保
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「お願いします〜」
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「はい、では口開けてくださいね」
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担当は――
小野寺真琴
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(いつも通りのプロの顔)
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器具が静かに動く。
キュイイイイ……という音。
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だが――
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その一方で。
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「ねえ」
小声で稲垣杏里沙が言う。
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「昨日のさ」
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「またそれ?」
水瀬梓が即制止。
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「でも気になるじゃん」
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「仕事中」
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「はーい……」
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だが視線は止まらない。
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(完全に“観察モード”入ってる……)
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その時。
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カチャ。
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器具を渡す瞬間。
ほんの一瞬だけ、小野寺真琴の視線が外に向く。
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(……?)
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その先にいるのは――
なぜか落ち着きがない新人患者。
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(いや、関係ないはず……)
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だが杏里沙の目が光る。
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「今の見た?」
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「何が」
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「なんか一瞬だけ優しくない?」
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「気のせい」
梓の即答。
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(でも“気のせい”で済まない空気になってきてる)
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その頃。
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診療室の奥。
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扉が開く。
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「おはようございます」
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入ってきたのは――
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最上玜介(50歳)
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「今日も忙しいね」
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「おはようございます、院長」
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小野寺真琴が軽く頭を下げる。
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「最近どうだ?」
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「問題なく順調です」
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だが院長の視線は一瞬だけ止まる。
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(……)
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「職場の空気が少し変わった気がするが」
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(来た!!!!)
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「気のせいです」
即答。
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「そうか」
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それ以上は言わない。
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(助かった……?)
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だが院長は一言だけ残す。
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「患者との距離は大事にな」
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(意味深すぎる!!!!)
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一方その頃。
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大学講義室。
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吉田誠はノートを取っていた。
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周囲には同級生たち。
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村瀬颯
真藤亜香里
須田紅葉
中條勇登
蘇我圭史
野村向葵
流川瑠奈
鮎川千世
長谷部美峰
江藤藍
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「なあ吉田」
村瀬颯が声をかける。
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「最近さ、お前落ち着いてない?」
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「そうか?」
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「なんか幸せそう」
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(やめろ鋭い)
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真藤亜香里がニヤニヤする。
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「彼女でもできた?」
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(直球やめろ)
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「いや、別に」
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即否定。
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(ここは鉄壁防御)
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「ふーん?」
流川瑠奈がじっと見る。
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「怪しい」
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「証拠は?」
中條勇登。
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「顔」
蘇我圭史。
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(根拠が雑すぎる)
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「でもさ」
野村向葵が笑う。
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「絶対なんかあるよね」
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(やばい、別方向でも詰められてる)
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その頃。
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歯科医院。
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「杏里沙」
水瀬梓が言う。
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「はい?」
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「もうほぼ答え出てるでしょ」
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「え?」
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水瀬は器具を片付けながら。
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「隠すなら、もっと完璧に隠す」
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「じゃあこれって……」
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雪音が小さく言う。
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「……本当に」
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「うん」
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水瀬は一言。
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「ほぼ確定」
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(終わった)
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杏里沙がニヤッとする。
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「じゃあさ」
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「泳がせる?」
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「……面白いから」
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(最悪の戦略!!!!)
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夕方。
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小野寺真琴は診療を終える。
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院長が通り過ぎる。
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最上玜介
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「小野寺」
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「はい」
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「私生活は大事にな」
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(またそれ!?)
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「……はい」
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その夜。
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誠のスマホが震える。
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『そろそろバレてもいいんじゃない?』
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(杏里沙!!!!)
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『隠すの下手すぎ』
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(確信してる!!!!)
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だが同時に。
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真琴からもメッセージ。
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『もう少しだけ、頑張ろっか』
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(まだ続けるんだ……)
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誠は空を見上げる。
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「この関係……どこまでいくんだろ」
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こうして。
“確信フェーズ”に入った職場は――
静かに、しかし確実に。
二人の秘密へ手を伸ばし始めていた。
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