長編短編集『歯医者から始まる交際0日婚』 ― 名前も知らない彼女と、気づけば夫婦になっていた話 ―
この物語は、ちょっとおかしな出会いから始まる。
舞台は歯医者。関係は患者と歯科助手。普通なら、それだけで終わるはずだった。
けれど――一人の少年が、ほんの少しだけ“ゲーム脳”だったことで、その日常は大きくズレていく。
これは、名前も知らないまま結婚した二人の、“ほのぼのとした冒険の記録”である。
――それは、ただの歯医者のはずだった。
「はい、じゃあ口開けてくださいね〜」
柔らかい声が近い。
吉田誠、18歳。彼は今、人生最大のピンチにいた。
近い。とにかく近い。
視界のすぐ先にいる歯科助手。整った目元。落ち着いた声。
そして――
当たっている。
胸が。
(いや無理だろこれ!!)
理性が崩壊寸前のまま治療は進む。
「力抜いてくださいね〜」
(無理です!!!)
数分後、診察は終わる。
だが誠の中には、妙な感情が残っていた。
(また会いたい)
名前も知らない。それでも確かに惹かれていた。
帰り道、誠は決める。
(次で、決める)
「……交際0日婚」
その一言が、全ての始まりだった。
☆★
再び訪れた診察日。
同じ距離。同じ状況。
そして――同じ破壊力。
(無理!!!!)
診察が終わり、受付へ。
誠の脳内に浮かぶ三択。
①普通に帰る②名前を聞く③プロポーズ
(③しかないだろ)
誠は声を潜めて言う。
「……結婚、しませんか」
沈黙。
だが彼女は――笑った。
「条件あるけどいい?」
・歯をちゃんと治すこと・サボったら即離婚
(重い!!)
だが誠は即答する。
「はい」
そして彼女は言った。
「じゃあ……役所、行く?」
こうして、二人の結婚は決まった。
☆★
帰り道。
ぎこちない空気。
「自己紹介しよっか」
真琴はゲーム好きだった。
RPG好き。
(仲間発見!!)
誠も自分を話す。
不器用ながら、少しずつ距離が縮まる。
公園で座る。
「嫌じゃないよ、この結婚」
その一言で、誠の心は決まる。
「楽しい夫婦でいこっか」
そして初クエスト。
――スーパーへ。
それは小さな冒険。
でも確かに“夫婦の始まり”だった。
☆★
再び歯医者へ。
今度は“妻の職場”。
完全に他人として接する真琴。
だが診察が始まると――
距離が近い。
そして小声での会話。
「……わざとですか」
「……半分くらい」
(認めた!?)
秘密のイチャイチャ。
バレたら終わりの関係。
それが逆に楽しい。
帰り際、スマホにメッセージ。
『ちゃんと我慢できてえらいね、旦那さん』
(破壊力!!!!)
誠はその場でしゃがみ込んだ。
☆★
夜、初デート。
私服の真琴。
(可愛すぎる)
食事は“歯に優しい”和食。
夫婦らしい会話。
「後悔してない?」
「楽しいからです」
シンプルな答え。
でも真琴は笑った。
「いいね、それ」
そして――
「もう一回言って」
「……好きです」
「合格」
帰り道。
手を繋ぐ。
ぎこちないけど、温かい。
「夫婦っぽいね」
こうして二人は、
少しずつ本当の夫婦になっていく。
この物語は、“あり得ない始まり”から生まれた日常です。
でも――どんな関係も、結局は“日々の積み重ね”。
歯医者から始まった二人の関係は、少しずつ、確かに形を変えていきます。
次はきっと、“同じ家での生活”という新しい冒険へ。
この夫婦の物語は、まだ始まったばかりです




