第124話 運命のポーチ
「私たち、孤児院で育ったの」
アスターシャは、言う。
「姉のミルと一緒に。他に身寄りはいなかった。ずっと貧しかった。私たちはいつも一緒で、仲良しだった。姉妹のお互いだけは、信じることができたの。2人で一緒にいるときは、未来に希望を持てた。でも、孤児院の生活、何かと不便でつまらなくて。とうとう、ミルは1人で孤児院を飛び出していった」
アスターシャ、目を伏せる。
「15歳の時よ。3年前のこと。15歳の女の子が、1人で飛び出して、まともにやっていけるわけ無い。ミルは、裏街の、いかがわしい連中と付き合うことになった。そこでうまくやってたの」
裏街。レイラも、もちろん知っている。星都にある、大きな繁華街の区域だ。ちゃんとした名称はあるが、もっぱら、裏街との隠語で呼ばれている。
裏街といっても、基本的には合法的な街だ。普通の市民の出入りも多い。ただ、〝夜の街〟として栄え、暗黒街の住人が根を張っている。大小さまざまなギャング団が活躍し、いろいろな事件が起きる。非合法行為も、行われている。警察は、定期的に一斉手入れ捜査摘発を行っている。レイラは管轄担当が違うので、裏街での刑事の仕事は、したことはなかった。
アスターシャは、遠くを見つめている。孤児院を飛び出して、裏街に出入りするようになった姉の姿を、追っているようだ。
「向こうに行ってから、ミルはとっても元気でね。いつもうれしそうにしていた。すごく、うまくいってるって。で、私のことを誘うの。窮屈な孤児院にいてもつまらないでしょ? 私のところに来なさいよ。大丈夫、ちゃんと守ってあげるから。2人でいようよ。そう言ってね。でも、私は行けなかった。怖くて。私、ミルと違って、臆病なの。そういう世界でうまくやれっこない。だから、ミルの誘いを断っていたの。1人で、孤児院に閉じこもっていた」
そのうちに、ミルが突然、姿を消した。アスターシャにとって、大きな衝撃だった。ずっと一緒にいた姉が、不意に姿を消したのだ。ミルの知り合いに聞いても、どこへ行ったかわからない、いきなり消えた。たぶん、もうこの星にはいないんじゃないか。別の星に行ったんじゃないか、そういう話だった。
それが、半年前のことだった。
「私に何も言わず、行き先も告げずに星を出て行くなんて、考えられない。きっと何かあったに違いない。裏街で、トラブルに巻き込まれたんじゃないか。私、ミルを探し回った。でも、見つけられなかった。その時よ。ふらふらと、この前の道を歩いていた私を、お母様が見つけてくれたのは。養女にならないかと言われて。二つ返事で、承知したわ。お金持ちになれるんだもん。断る人なんていないよね。それで、孤児院を出たの。今は、お嬢様のアスターシャよ。たった1人の姉のミルが消えてしまった。いなくなってしまった。その代わりに、お母様ができたの」
アスターシャは、言葉を切る。
そういう事情なんだ。
アスターシャの言葉や物腰の端々から漂う、どこが生来のお嬢様らしからぬ雰囲気、それでわかった。
貧しい境遇の孤児院暮らしから、突如、大金持ちの養女に。
すごい人生大逆転だ。
でも、一足先に孤児院を飛び出していた双子の姉は、裏街でうまくやっていたけど、何らかのトラブルで姿を消した。
「私、ミルを忘れたことは、ずっとなかった。本当に会いたいの。探し出したいの。それで今日、このポーチでぼんやり外を見てたら、レイラ、あなたを見つけたの。ここ、本当に、運命のポーチね」
運命。
レイラは、思う。
私はただ、ミルと、そっくりっていうだけなんだけど。




