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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.11 裏戸のスキッド
124/195

第124話 運命のポーチ



 「私たち、孤児院で育ったの」


 アスターシャは、言う。


 「姉のミルと一緒に。他に身寄りはいなかった。ずっと貧しかった。私たちはいつも一緒で、仲良しだった。姉妹のお互いだけは、信じることができたの。2人で一緒にいるときは、未来に希望を持てた。でも、孤児院の生活、何かと不便でつまらなくて。とうとう、ミルは1人で孤児院を飛び出していった」


 アスターシャ、目を伏せる。


 「15歳の時よ。3年前のこと。15歳の女の子が、1人で飛び出して、まともにやっていけるわけ無い。ミルは、裏街(アンダーグラウンド)の、いかがわしい連中と付き合うことになった。そこでうまくやってたの」


 裏街(アンダーグラウンド)。レイラも、もちろん知っている。星都にある、大きな繁華街の区域(エリア)だ。ちゃんとした名称はあるが、もっぱら、裏街(アンダーグラウンド)との隠語(ジャーゴン)で呼ばれている。


 裏街(アンダーグラウンド)といっても、基本的には合法的な街だ。普通の市民の出入りも多い。ただ、〝夜の街〟として栄え、暗黒街(アウトロー)の住人が根を張っている。大小さまざまなギャング団が活躍し、いろいろな事件が起きる。非合法行為も、行われている。警察は、定期的に一斉手入れ捜査摘発を行っている。レイラは管轄担当が違うので、裏街(アンダーグラウンド)での刑事の仕事は、したことはなかった。


 アスターシャは、遠くを見つめている。孤児院を飛び出して、裏街(アンダーグラウンド)に出入りするようになった姉の姿を、追っているようだ。


 「向こうに行ってから、ミルはとっても元気でね。いつもうれしそうにしていた。すごく、うまくいってるって。で、私のことを誘うの。窮屈な孤児院にいてもつまらないでしょ? 私のところに来なさいよ。大丈夫、ちゃんと守ってあげるから。2人でいようよ。そう言ってね。でも、私は行けなかった。怖くて。私、ミルと違って、臆病なの。そういう世界でうまくやれっこない。だから、ミルの誘いを断っていたの。1人で、孤児院に閉じこもっていた」


 そのうちに、ミルが突然、姿を消した。アスターシャにとって、大きな衝撃だった。ずっと一緒にいた姉が、不意に姿を消したのだ。ミルの知り合いに聞いても、どこへ行ったかわからない、いきなり消えた。たぶん、もうこの星にはいないんじゃないか。別の星に行ったんじゃないか、そういう話だった。


 それが、半年前のことだった。


 「私に何も言わず、行き先も告げずに星を出て行くなんて、考えられない。きっと何かあったに違いない。裏街(アンダーグラウンド)で、トラブルに巻き込まれたんじゃないか。私、ミルを探し回った。でも、見つけられなかった。その時よ。ふらふらと、この前の道を歩いていた私を、お母様が見つけてくれたのは。養女にならないかと言われて。二つ返事で、承知したわ。お金持ちになれるんだもん。断る人なんていないよね。それで、孤児院を出たの。今は、お嬢様のアスターシャよ。たった1人の姉のミルが消えてしまった。いなくなってしまった。その代わりに、お母様ができたの」


 アスターシャは、言葉を切る。



 そういう事情なんだ。


 アスターシャの言葉や物腰の端々から漂う、どこが生来のお嬢様らしからぬ雰囲気、それでわかった。


 貧しい境遇の孤児院暮らしから、突如、大金持ちの養女に。


 すごい人生大逆転だ。


 でも、一足先に孤児院を飛び出していた双子の姉は、裏街(アンダーグラウンド)でうまくやっていたけど、何らかのトラブルで姿を消した。


 「私、ミルを忘れたことは、ずっとなかった。本当に会いたいの。探し出したいの。それで今日、このポーチでぼんやり外を見てたら、レイラ、あなたを見つけたの。ここ、本当に、運命のポーチね」


 運命。


 レイラは、思う。


 私はただ、ミルと、そっくりっていうだけなんだけど。



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