あれは不思議な夢だった
闇竜を倒して配信を終えた後、俺は意外と早く地上に戻ることができた。
なんでか知らないがめちゃくちゃ眠い。多分長時間の配信疲れってやつかもしれない。
「なんかすげー疲れたなぁ」
『闇竜を倒したことでレベルが大きく上がり、体力が上昇したことが理由です』
「え? もしかして、かなりレベル上がってる?」
『はい。順調に強くなられています』
なんか、AIミリアの話を聞いてると、これからもどんどんレベル上げられるって感じに聞こえるけど、どうなんだろうか。
スマホでグループチャットをみると、氷堂さんと葵ちゃん、玲奈から連絡が来まくってたので、戻ったことを伝えた。
どうやら迎えに来てくれるらしいんだけど……ちょっとヤバいくらい眠い。マジどうしちゃったんだろ。
「そろそろここの立ち入り禁止も解除されるかな。ちょっとあそこのベンチでみんなを待つことにしよ」
いい感じに寝っ転がれそうなベンチがあったので、俺はチャットでみんなに場所を伝えつつ、ゴロリと横になった。
『景虎様、あの。そのベンチは硬い上に狭く、お休みになるには不便かと』
「え? あー大丈夫大丈夫。俺どんなとこでも眠れるかさ……ふぁあ」
ダメだ。睡魔が強しぎて全然勝てない。最後まで言い切れないままで、俺の意識は遠のいていった。
◇
「……さん!」
「虎! 虎! 起きろよ、虎!」
誰かの必死な声が聞こえる。目を覚ましてみると、よく知ってるギャルと、アイドルみたいな高校生がこちらを覗き込んでいた。
「あ、二人とも。お疲れ」
「景虎さん、お身体は大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫大丈夫。疲れたから休んでただけ」
泣きそうな顔になって心配してくれる葵ちゃん。いやーこうして見るとマジ天使だね。
「ったく! 心配させやがって!」
「おおう!? ちょ、ちょっと」
反対に玲奈は強い口調で、ぎゅっと抱きしめてきたから反応に困る。珍しく泣いてるし。
ってか、気がつけば葵ちゃんにもくっつかれてるんですが……何この状態?
困惑しきりな俺を見て、少し離れたところにいた氷堂さんが苦笑していた。
「ここに入る許可をもらえるまで、一時間もかかってしまったよ。お役所連中は相変わらず、決断が遅いから困ったものだ」
「みんなは大丈夫だったんですか?」
「ああ、心配ないよ。ただ……」
気まずそうに、氷堂さんは公園の外へと視線を向けた。ずっと向こうにある道路近くにパトカーが停めてあって、そこに連れてかれてる人達がいる。
え? え? 見覚えしかないぞあの三人!
「袋小路道宗、アイ、ノエル有栖川についてだが……彼らは違法行為が見つかったらしい。これはまだ噂だが、どうやら今回のイベント参加者の当日キャンセルが多数あったことについても、彼らが関与していたらしい」
つまり、あの三人が工作か何かしてたってことか。流石にそんなことするかなぁと思いつつ、なんとなくあの社長ならやりかねない気もしてくる。
「あ……景虎さん、ゴーグルが落ちてますよ」
「ん? あれ? いつの間にか外してたかも」
ベンチの端っこにちょこんと落ちてるゴーグルを見て、俺は首を傾げた。でも寝ている時に、無意識に付けてるのを外すのはよくあること。
「ってかさー。あたしらこれから、どんだけ報酬もらえる感じ? ね!」
金にがめついギャルがやけにウキウキしてる。
「そうだ! 表彰式とかも中止っすよね? ランキング確定や報酬渡したりとか、どうなるんですか」
「後日だよ。どうやら今回は異例のことづくしで、ダンジョン組合も大揉めに揉めているらしい。これだけ事件が起きてしまっては、簡単に決められないのも無理はないな。だが期待はしていい。主役は決まっているからね」
そう言いながら、氷堂さんはイケメンスマイルを見せた。俺が女だったらきっと惚れてる。
「あたし初任給ヤバかったんだよね。あ、そうだ虎。今度賞金で旅行でも行っちゃう?」
「旅行かー。どうっすかな」
ってか玲奈のやつ、いつまで抱きついたままなんだ。
「考えとくかー。とりあえず帰りてぇ」
「今決めちゃえよー」
「グリグリするな、こら」
そんなたわいないやり取りを続けた後、俺たちは公園から出て、とりあえずはお疲れ会をすることになった。
徐々に空が夕陽に沈んでいく頃合いだった。歩道橋をみんなで歩いていると、葵ちゃんがふと立ち止まって夕陽を見つめている。
「私、こんなにドキドキした探索は初めてでした。その……景虎さん」
「ん? どした?」
「私、お役に立ててましたか?」
「もちろん! めっちゃ助かってたよ」
何も迷うことのない問いかけだった。そういえば葵ちゃん、足引っ張ったりしないかとか悩んでたもんな。
「嬉しいです! それと……その。また、一緒に探索してくれませんか」
「え? ああ、いいよ」
夕陽に染まった葵ちゃんの笑顔は、まるで青春映画に出てきそうな……またはテレビCMでありそうなほどエモい。
俺なんかと潜るのを喜んでくれるなんて、ホントにすれてない子だなー。
「うわ……虎。まさか女子高生に……」
ギャルがまためんどい勘違いしてる。こいつたまにあるから困る。
「んなわけねーだろ」
「サイテー」
「違うっての」
「ふーん。ってか、あたしと潜る約束は?」
『景虎様は専用ダンジョンキーが貯まっています。そのため、しばらくはソロで活動を推奨します』
おお!? ここで突然AIミリアが喋った!
ゴーグルはリュックに入れて、電源落としてた筈なんだけど。
「また出たしー。ミリアっちはなんでそう野暮なの?」
『変な呼び方はやめてください』
「いいじゃん! あ、じゃあみーちゃんにしとく?」
『やめてください』
「もー、ワガママー」
玲奈とAIミリアが一応会話っぽいのをしているのを見て、俺と一緒になぜか氷堂さんも苦笑していた。
「まるで人間のようなAIだね。不思議だ」
「ああ、そうっすね」
「よければ今度、君の加入しているサブスクのことについて聞かせてくれないかな?」
「あ、全然大丈夫ですよ」
「ありがとう。探索界隈はこれから盛り上がりそうだよ。君達のおかげでね」
「え? 俺たちっすか?」
「ああ」
氷堂さんはその後、お疲れ会の店に着くまで特に喋らなかった。でも、なんだかとても嬉しそうにしていたことは覚えている。
「っていうかあの子……誰だったんだろ」
「ん? あの子って誰?」
玲奈に聞かれて、俺はぼんやり考えた後に頭を掻いた。
「さっきさ、すげー可愛い女の子がいたんだ。まるでゲームかアニメに出てきそうな、もう別世界の綺麗さっていうかさ」
「へー、いつ見たん?」
「さっきのベンチ」
『!?』
「……あ! 待てよ、普通に夢か」
『か、景虎様。景虎様はベンチで……皆様が来るまで眠っておられたのでは?』
「ああ、そうそう。だから夢だわ。俺ちょっと疲れてるな」
「どしたAI? とうとう故障?」
『違います!』
あ、あれ。なんかミリアの様子がおかしいな。
「多分昔見たゲームのヒロインかなんかだな、ありゃ」
「えーマジ? 後で詳細よろ!」
「恥ずいからやめとく」
「いーじゃん!」
玲奈とまたしょーもない会話をしながら、俺たちはようやくお疲れ会のカフェに到着した。
葵ちゃんと氷堂さんも楽しそうにしてて、最後はマジで良い一日だって思えた。
こんな日々を過ごしていけるなら、探索者っていう生活も悪くないよな。
それと、兄貴からも電話がきて、俺の探索を認めてくれたんだよ。なんかすげー嬉しかった。
だって俺、兄貴に認められたことなんて、今まで全然なかったから。
だから決めた。これからも俺は、ダンジョンに潜ってみることにする。
どこまでいけるか分からないけど。
◇
あれは不思議な夢だった。
闇竜の魔窟から出た俺が、ベンチで眠っていた時のこと。
ふと、頭に柔らかくて暖かい感触を覚えた気がしたんだ。夢の中で俺は目を開いて、公園の景色以外に見慣れないものがあることに気づいた。
(あれ? 多分これって、誰かのふともも……かな)
でも、夢の中でも眠くてたまらなかったらしく、あまりものを考えられない。まあ夢だから当たり前だけど。
それで軽く寝返りをした時だった。
うっすらと瞳を開けると、木漏れ日に照らされていた。でもそれだけじゃなかった。
長くて綺麗な髪が揺れていた。
透き通るような肌をしたその少女は、どうやら俺に膝枕をしてくれているらしい。
(誰だろ……)
彼女はこの世のものとは思えないほど、可憐で幻想的だった。
木漏れ日よりも暖かくて優しい微笑が、俺を癒してくれている。
そんな幸せな夢を見た。
みなさん、こんばんは。
作者のコータです。本作ですが、ひとまずここまでとなります。
ちょっとバテまして、しばらくお休みすることにいたしました。
本作はとにかく書いていて楽しかったので、またいつか続きを書きたいと思っています。
沢山の感想をいただいたり、日間ローファンタジーで1位になれたりと、本当に嬉しいことがいっぱいでした。
次に書くときは、いきなりミリアの正体が明らかになるところからスタートするか、景虎がモンスター交流機能にハマってしまうところからスタートするか、いろいろと考え中です。
もしよろしければ、最後に下にある☆を頂けますと大変嬉しいです。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!




