ミリア、あれ……引っこ抜けるかな?
っていうか、やっと闇竜と戦うことになったわけだけど、その前に気になった奴がいる。
「ひいいいいいいいい!」
悲鳴を上げながらすれ違っていく男が一人。
「ノエル有栖川だっけ?」
『そのようです。彼は恐らくお一人で帰れるでしょう』
そうか。なら別にいいか。大部屋の中には闇竜以外にはいなそう……と思っていたのだけど。
よく見るとそれは間違いだった。
「え、どうなってんだあれ?」
『闇竜に半分吸収されている状態です。八人の反応があります。まだ救助が可能です』
ジャーマの胴体のあちこちに、人がめり込んでる。こうして正面から見る分には五人くらいなんだけど、残り三人は背中とかその辺りにいるんだろうか。
『人質として使うつもりで、半分だけ吸収し残していたようです』
「えげつないことしやがる。ミリア、あの翼みたいな大剣をくれ」
『承知しました』
俺はメタルクリスタルソードをしまい、代わりに銀翼の大剣を手にした。デカいモンスター相手なら、こっちのほうが良いはずだ。
「思ったより早かったな」
闇竜が普通に話しかけてくる。違和感が半端じゃない。
「人質を殺さずに戦えるか?」
ニヤリ、と奴はいやらしく口角を上げて笑う。確かに厳しい状況ってのは間違いなんだけど。
「ミリア、あれ……引っこ抜けるかな?」
『はい。景虎様の力なら可能です』
「オッケー。じゃあ、行くわ」
大剣を構えたまま、俺はただ走った。
黒く巨大なモンスターは、武者震いでもしてるのか、震えた後に口からビームみたいなブレスを吐き出した。
それをかわしながら、まずは下から近づいてみる。カメラを持った男と女が一人ずつ、横っ腹のあたりにいるのが分かった。
「まずは、あれだ!」
俺は大剣を片手持ちにして、右手からファイアボールを作り出してジャーマに投げつける。
顔に命中して、奴は嫌そうにのけぞった。その目眩しの間に、腹に接近した俺は、一人ずつ片手で引き抜こうとしてみる。
「うおお!」
すると、案外簡単にすっぽ抜けたので、続けてもう一人引き抜いた。
「あ、ああ! 俺は一体……」
「出れた! 私」
「二人とも逃げろ!」
呆然とする二人に声をかけつつ、再度ファイアボールを顔に見舞っていく。耐性があるのか、ダメージは与えられてる感がないけど、とにかく今は行動を封じたい。
だが、ジャーマは身体中から光の刃みたいなのを飛ばしてきて、こちらの救助を妨害にかかっていた。
「なんだこれ、厄介だな」
でも大剣を振っているとほぼ撃ち落とせるみたい。ちなみにこの大剣、振った後残像みたいな光が生じてる。さらには小さな光の羽みたいなのが舞ってるようだ。
『このまま撹乱しつつ、一人ずつ慎重に救出していきましょう。首の近くにいる二人は、後回しで良いと思います』
「あのガニ股で足だけ出てる人かー、誰なんだろ?」
『チーム袋小路の社長と、アイさんです』
ああ、あの二人か。やたら足ピクピクさせて苦しそうだけど、ミリアがそういうならもっと死にそうな人がいるんだろう、きっと。
そうこうしているうちに、闇竜が咆哮した。そしてまた全方位ビームを放ってきたり、噛みつこうとしてきたり、尻尾で薙ぎ払ってきたりする。
それら全部をかわしながら、俺は尻尾を大剣で切ってみた。闇の竜は悶絶したが、どういうわけかすぐに尻尾はくっ付いて元どおりになる。
人間とは全く違う、不気味な再生能力。やっぱ普通にバケモンだわ。
俺はここに至っても、どこか心の中で呑気な気持ちがある。そんな自分を不思議に思いつつ、撹乱しながら一人、また一人と引っこ抜いて助けていく。
「あ、ありがとうございます!」
「早く逃げな」
「はい!」
ダンジョンブレイカーズのカノンちゃんは泣きじゃくっていたようだが、引き抜いた後は元気に逃げていった。
なんだかんだで六人はすでに救出したが、面倒な場所に残った二人を助けるのが、けっこう大変。
どうしようかなと周囲をぐるっと回っていると、ジャーマの体に奇妙な変化が起きていることに気づく。
「あれ? なんか体から、モンスターが?」
『闇竜が吸収していたモンスター達です』
背中や腹、首の周りなどからキマイラや蛇、毒雲やサソリに大ムカデ、飛竜の翼にトロルの上半身といった、凶悪なモンスター達が浮かび上がってきた。
それらはボトリ、ボトリと地面に落下すると、殺意の眼差しと共にこちらに向かってくる。
『モンスターが急激に増加しています』
「うわ……こりゃ、厄介じゃね」
しかも闇竜は自身でブレス攻撃をしながら、召喚魔法まで使って恐竜モンスターをここに集めてる。
ものの数十秒で、大部屋はモンスターハウスになりつつあった。
:うわああ……キモ
:あっという間にモンスターの動物園じゃん
:これは厄介すぎる
:ってか闇竜って魔力無限なの? 全然衰えてないんだけど
:ジャーマが徐々に動き良くなってないか?
:モンスターが増え続けてる
:モンスターが増えるにつれて、闇竜も強くなってる?
:道宗とアイは助けなくても……いやなんでもない
:こんなボス倒せるやつおるんか
:あの二人は自業自得だわ
:俺も探索者やってるけど、こうなったら絶対に無理。むしろカゲトラは、どうしてここまで戦えるのか
:冷静に捌いている主が一番異常
:でもどうやってこれ倒すんだろ
:無理無理無理無理無理勝てない
:レイドボスの癖に、攻撃激しすぎだろ
:このままじゃこっちがやられない?
:まさかこんなにギミックが多いボスだったのか。チートすぎて誰一人倒せなかったの納得だわ
:逃げたほうがええで
:ジャーマを倒そうにも、あの二人が邪魔なんだよな
:やべーって!
「ったく! 面倒だな」
俺は群がるモンスターを切り伏せながら、モンスターの攻撃をバク転で回避した後、飛行魔法を使って飛び上がった。
『召喚カードが有効です』
「カード……あ、そうか!」
ファイアボールを撃ちまくることも考えたけど、もうちょっといい方法があったか。
俺は空に浮かびながら、懐からカードを取り出した。今度こそ決着をつけてやる。




