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異世界

夏の灯火が、この静かな町に微かな光を瞬かせていた。夕日の残照が一面の田畑を金紅色に染め上げている。透真は車内に座り、車窓から見える懐かしくもあり、どこか異なる景色を眺めながら、心に複雑な感情が湧き上がっていた。彼の指は軽くハンドルを叩き、頭の中の思考は車外を吹き抜ける夜風のように乱れていた。


これは透真がこの夏初めて田舎に戻ってきた日だった。祖父――大学を退職した教授――の家に向かうためだ。祖父は博識な人で、書斎にはいつも古書や手稿が山積みされていた。幼い頃、透真はよくその書斎で古い本を漁りながら、自分もいつか博識な学者になりたいと夢見ていた。しかし、時が経つにつれて、学業や生活に追われるようになり、祖父との関係も次第に疎遠になってしまった。今回の帰郷は、心を休めるためだけでなく、長らく失われた家族の絆を取り戻すためでもあった。


祖父の家に足を踏み入れると、透真は懐かしい香りを感じた。簡単な挨拶を交わした後、彼はすぐに書斎へ向かった。そこはほとんど変わっておらず、相変わらず静かで神秘的な雰囲気が漂っていた。透真は深く息を吸い込み、棚に並ぶ本の背表紙を撫でた。それらの本は、まるで無数の物語を背後に抱えているかのように、彼に語りかけているようだった。


「久しぶりだな……この本たちも変わってない……」透真は独り言を呟き、棚から一冊の本を手に取った。その表紙は擦り切れ、縁も傷んでおり、他の本よりもさらに古いもののようだった。透真は好奇心からその本を開いてみたが、そこに記されていたのは、普通の文字ではなく、古代のような難解な符号と図形だった。


「この本、何だろう?」透真は眉をひそめながら、さらにページをめくっていった。すると、その符号が微かに光り始め、まるで何かが目覚めたかのように見えた。「おかしい……これって動いている?」透真は驚いて本のページを見つめ、その目には驚愕の色が浮かんでいた。


無意識のうちに彼はその符号に手を伸ばしていた。すると、突然強い光が本から放たれ、瞬く間に彼を包み込んだ。「うわっ!」透真は驚いて叫び、本を手放そうとしたが、何かに吸い寄せられるように両手が本に張り付いて動けなかった。光はますます眩しくなり、部屋の全てがぼんやりと霞んでいった。透真は、自分が果てしない暗闇に引きずり込まれていくのを感じた。


再び目を開けたとき、透真は冷たい石の床に横たわっていることに気付いた。周囲はすっかり見知らぬ場所――もう祖父の書斎ではなく、薄暗い洞窟の中にいた。冷たい空気が肌を刺し、彼は思わず震えた。「ここは……どこだ?」透真は慌てて立ち上がり、自分が完全に未知の場所にいることを認識した。洞窟の内部は陰気で湿り気があり、石壁はごつごつしていて、不気味な圧迫感が漂い、彼は得体の知れない恐怖を感じた。


状況を思い出そうとするうちに、脳裏にはあの神秘的な古書と、突然の強烈な光が浮かんできた。光に飲み込まれる瞬間、自分の体内に何か不思議な力が流れ込んでくる感覚があったのを思い出した。彼は直感的に理解した。自分は異世界に飛ばされ、その上、特別な能力を手に入れたのかもしれないと。


透真は深く息を吸い、冷静になろうと努めた。彼は目を閉じ、内なる感覚に集中しようとした。最初は何も感じなかったが、徐々に微弱な波動が体内で感じられるようになってきた。それは気流のように緩やかで規則的に流れ、少しずつ全身に広がっていった。


「これは……気の力か?」透真は驚いて自分の手を見つめた。体内に力が流れているのを確かに感じていた。その力は微弱ではあったが、生命力に満ちていた。「これが……気の力というものか……」透真は興奮しながら呟いた。その力が彼の体を温かく安定させていくのを感じ、胸が高鳴った。


洞窟の中を探索しながら、透真はやがて巨大な石室にたどり着いた。石室の中央には石台があり、その上には遺骨が安置されていた。遺骨は破れた戦袍を身にまとい、手には長剣を握りしめていた。透真が遺骨に近づくにつれ、かつてないほどの圧迫感を感じ、その遺骨の主がかつて途方もない力を持っていたことを悟った。


遺骨にさらに近づこうとした瞬間、石台の符文が突然光り輝き、強大な内力が透真に向かって押し寄せてきた。あまりにも突然のことに、透真は反応する暇もなく、その圧倒的な力に身体が引き裂かれるような痛みを感じた。強大な力が彼の経脈に侵入し、まるで身体を破壊しようとするかのようだった。

「うわああああ!」透真は苦しみながら叫び、その狂暴な力を制御しようとしたが、その力はあまりにも強大で、彼の制御をはるかに超えていた。力は体内で暴れ回り、彼の経脈を衝撃の洪水のように押し流していた。


透真がその力に耐えきれず、意識が遠のき始めたその時、彼の脳裏に、あの気の感覚がかすかに蘇った。「冷静に……冷静になるんだ……」透真は自分にそう言い聞かせ、必死に集中し、再び気の存在を感じ取ろうと試みた。


彼は目を閉じ、体内の変化を感じ取ろうとした。すると、彼の意識の深部に、あの気の光点が再び現れた。今度は単なる光点ではなく、傷を癒すような温かな力を帯びていた。透真はその気を慎重に導き、狂暴な力に融合させていった。

気の力が流れ込むにつれ、制御不能だった力が次第に安定してきた。それでも依然として強大だったが、先ほどのように暴れることはなくなった。透真は経脈の痛みが和らいでいくのを感じ、体も徐々にその力に順応していった。


「この感覚……」透真は目を開け、体内の力の変化を感じた。その流れはもはや制御不能な激流ではなく、安定し、彼の身体と共鳴しているように感じられた。

力が落ち着いた瞬間、透真は皮膚の表面に痒みを感じた。それと同時に、体内から何かが排出されているような感覚が広がった。彼が下を見ると、皮膚の表面から黒い物質が滲み出してきており、鼻を突くような悪臭が漂っていた。


「これ……何だ?」透真は驚きながら呟き、鼻を覆ってその臭いから逃れようとした。しかし、その黒い物質は毛穴から次々と溢れ出し、彼の全身を覆っていった。雜質が排出されると同時に、透真の身体はますます軽くなり、筋肉もより強靭になっていくのを感じた。まるで体が一度徹底的に鍛え直されたようだった。


「この力……俺の体を作り直しているのか?」透真は体内の変化を感じながら、この神秘的な力に驚かざるを得なかった。雜質が排出されるにつれ、彼の体質はより純粋になり、力がさらに集中していくのを感じた。全身が、より高い次元へ進化しつつあるかのようだった。


しかし、同時に悪臭はますます強烈になり、彼はそれに耐えきれなくなっていた。透真は眉をひそめ、皮膚にこびりついた黒い汚れを見下ろし、早くこれを洗い流したいと思った。「風呂に入らなきゃ……」透真は自分にそう言い聞かせ、何とか水源を見つけて、この汚れを洗い流す決意をした。


周囲を見回すと、石室の隅に岩壁を伝って水が滴り落ちているのに気付いた。透真は急いでその水流に向かい、裂け目から水が洞窟の奥へと続いていることを確認した。「何にせよ、まずはこれを洗い流そう。」透真は水の流れに沿って石室を出て、隠れた小川のそばにたどり着いた。そこは清らかな水がゆったりと流れ、岩に囲まれた自然の小さな池を形成していた。


「ここならちょうどいいな……」透真は上着を脱ぎ捨て、水に飛び込んで体にこびりついた汚れを洗い流した。清流が黒い物質を一瞬で流し去り、彼の肌は新しく生まれ変わったように清潔になった。水流が彼の肌を優しく撫で、これまで感じたことのない心地良さをもたらしていた。


透真は全身を水に浸し、冷たい小川が全ての疲れや不快感を洗い流してくれるのを感じながら、目を閉じてこのひとときの静けさを楽しんだ。彼の心の中には、次に何をすべきかという考えが浮かんできた。この未知の世界は謎に満ちているが、透真は徐々に、この世界の仕組みについてもっと知る必要があることに気付いた。


「ここは一体どこなんだ?どうやって戻るんだ……」透真は自問し、思考は乱れていた。彼は自分の知識だけではこの世界の法則を理解することも、帰る方法を見つけることもできないと気付いた。

「もっとこの世界のことを知ることができれば、帰る方法が見つかるかもしれない……」透真はまず、この世界の真実を知るために情報を集めることが必要だと決心した。



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