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最終話. 彼女と一緒になりまして

 


 この世界で、俺と美世子の新しい生活が始まった。前の世界に帰りたいとは思わない。ここが俺達の世界だから。


 以前はムスリクの家に転がり込んでいたが、美世子と部屋を借りて一緒に暮らし始めた。

 世間的には闇の王は倒されたことになっているため、古めかしい黒いローブはタンスに閉まわれた。闇の王と言っても見た目は普通の人間と大差ない。特徴的な格好をしていなければ誰も闇の王だとは思わないだろう。ローブを見に纏っていたって暑苦しい奴だと思われるだけかもしれない。


 美世子は長かった髪を短く切った。俺は長くてもいいと思ったが、美世子なりのけじめみたいなものらしい。


 ムスリクは相変わらず諜報部隊隊長として国の為に尽力している。最近はエペと夜遅くまで飲み歩いているらしいが、まあ二人のことだから心配には及ばないだろう。


 そうそう、エペの家に新たな住人が増えた。クマのぬいぐるみ、トライバルだ。彼の体は既に滅んでしまっていたため、シカバに体を返してそのまま消えるつもりだったところを彼の事情を知ったエペが止めたのだ。昔助けて貰った恩を返したいということだった。エペは信用していた彼が本当に悪に染まっていたわけではなかったことを心底安堵していた。


 そしてシカバことトロイ王子は元の姿に戻り、すぐにオネットと結婚した。

 オーフェン王が退位し、姿を消したことから国の安念の為に早急に王位継承の儀が行われることとなった。トロイ王子は王になり、オネットは王妃となった。最初こそ心配したが意外と夫婦仲は良く、上手くやっている様だ。


 そんな二人を支えるのが、トロイ王子に付いて来たドラガーナの従者であるカーマインと元勇者で王妃の友人でもある王家の騎士、セイヴだ。二人は相棒として王家を支える右腕左腕として切磋琢磨している。ときどき王都の上空をドラゴンと騎士が飛んでいる様子を見るのも珍しいことではなくなった。


 みんな新しい生活が始まり、慌ただしいがそれなりに充実した日々を過ごしている。



 そしてようやく新しい生活にも慣れて来た今日この日、俺は美世子にプロポーズをする。


「もう、気にしなくていいのに」


 そうは言われても俺の気が収まらないのだ。


 そうしてやってきた当日、俺は緊張した面持ちで美世子が来るのを待っていた。あの日と同じ、わざわざ外で待ち合わせをした。王都のデートスポットとして名高い風花の丘だ。この丘も西の花畑に負けず劣らずの絶景。


 この日の為に二人でスーツとパーティドレスを買いに行った。あの日と同じようにそわそわとした気持ちで美世子を待つ。あの日と違うところは、俺が女になっていて美世子が男になっていること。でも、そんなことは俺達にとっては些細なことだ。美世子と一緒なら、二人一緒ならそれで良かった。それだけで充分なんだ。


 下ろし立てのスーツを見に纏った美世子が現れる。


「こうちゃん」

「美世子」

「私が待っていたかったのにな」


 笑って彼は俺の手を握る。


「お前を待つのは俺の特権だ」


 彼の手を引いて歩き出す。


「こうちゃんとこうしてまたデート出来るなんて、夢みたいだな」

「夢じゃねえよ」

「うん」

「夢じゃねえ。俺達はこれから何回だって一緒に歩いて行くんだ」

「……うん。……ああ、駄目だな。男の癖に泣くなんて」

「美世子は美世子だ。男とか女とか関係ねえよ」

「ありがとう、こうちゃん」


 今度はちゃんと彼女、いや彼の手を握ってデートすることが出来た。大丈夫だ。今度は消えたりしない。その存在を確かめるように強く手を握った。


 夜は大通りに面したレストランを予約した。以前予約していた高層ビルの上層階にある夜の都市を一望できるレストランではないけれど、この窓から見える異世界、王都の風景が俺は好きだ。


 次々と運ばれてくる絶品の食事を終えて、二人の間にはゆったりとした時間が流れる。


「素敵なレストランだったね。調べてくれたの?」

「ああ。以前ムスリクときたことがあってな。洒落た店だったから美世子と来ようと思ってたんだ」

「ムスリクさんと……デートしたの?」

「おいおい、勘違いするなよ?」


 態とらしく怪訝そうな顔をして見せる美世子にそう言ってやると、彼は可笑そうに笑った。


「ふふっごめんごめん。わかってるよ」

「美世子」

「何?」

「俺はずっとお前に惚れてるんだ。これから先も惚れ続ける」

「うん」

「お前は指輪なんて形だけだって思うかもしれないけど、俺はこの気持ちを形として残しておきてえんだ」


 黒い小さなケースを出して、開いてみせた。サプライズでも何でもない。絵に描いたような既定路線。

 美世子も予想していた通りのタイミングだろう。


「受け取ってくれ。俺の証だ」

「うん。ありがとう」


 美世子が嬉しそうに微笑む。俺も釣られて笑った。


「私、これから魔物退治を沢山して沢山お金稼いで、こうちゃんと生まれてくる子供の為に頑張るからね!」

「……ん? 子供?」

「うん。 だってこうちゃん、子供欲しがってたでしょ? 私は産めないからこうちゃんが産むことになるし、こうちゃんが動くのが大変になる分、私が頑張らなきゃ!」


 ぐっと拳を握って美世子はそう宣言した。


「そ、そうか……俺が産むのか……」


 考えてみれば当たり前だ。当たり前なんだが、怖い!


「こうちゃん」


 俺の手を美世子の大きな手が包み込む。


「大丈夫。私が側にいるから」

「お、おう」


 ここで男気見せねえでどうする! 俺はやってやるぜ!


「何人でも俺が産んでやるよ!」

「私達、普通の人間と違ってかなり寿命が長いから本当に何人でも産めちゃうかもね」


 脳内に沢山の子供達に囲まれた俺達が浮かぶ。


「……ペース配分は考えような」

「そうだね。まだまだ先は長いからね」

「ああ」





 前前前世で出会った俺達は前世で付き合いだして今世でようやくプロポーズして結婚することが出来た。

 登り始めたばかりの、この結婚坂を美世子と一緒に一歩一歩進んでいく。


 そう、俺達の結婚生活はまだ始まったばかりだ!!







ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

また別の作品で会える日を祈っております。

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