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56. がんばれ! 闇の王様!

 


 また一人になってしまった。


 いや、覚悟していた。自分で受け入れた。

 もうどうしようもない。


 まあ、だから、少しくらい本音を言ったって罰は当たらないだろう?


「……こうちゃんにプロポーズされたかった!」


 この世界で封印された私の魂は別の世界飛ばされ、そこで美世子という何故かルミアの見た目をした女性として生きていた。それが私の望んだ姿なのだとメモリーは言っていたがよくわからない。


 そこでこうちゃんと出会い、上手いこと付き合うことが出来た。なのに、よりにもよってプロポーズされる予定の日にこちらの世界の私の本体を目覚めさせられてしまった。


 私はこちらに呼び戻された。こうちゃんとのデートもこうちゃんが内緒で予約していた夜景の見えるレストランも行けなくなった。こっそり用意していたらしい指輪も貰えなかった。頭を悩ませて考えていたであろうプロポーズの言葉も聞けなかった。

 こうちゃんのプロポーズは成功率百パーセントの筈だったのにプロポーズする機会が無くなってしまった。


「これからそのこうちゃんに殺される人の言葉とは思えませんね」

「煩い……どうせ私は消えるんだから少しくらい愚痴を聞いてくれたっていいだろ」

「いいですよ」

「あー……こうちゃんとの新婚旅行はイタリアとか行きたかったなー」

「海外という意味ではこの世界は日本ではないのですから達成では?」


 少女が言う。


「いや、この世界でこうちゃんとそんなに一緒にいれてないもん」


 そりゃこの世界での私は途方もない力を持っているから世界一周旅行とかちょちょいと出来ちゃうけどさ。こうちゃん、闇の王を倒す光の女神として召喚されちゃったんだもん。


「せめて、普通の一般市民としてこっちの世界に来てくれていれば……私がこうちゃんを拐うだけで済んだのに……」

「それは犯罪では? まあ、そればっかりは運が悪かったとしか言えませんね」

「君がやったんじゃないの?」

「私はなるべく世界に干渉しないようにしてますから。干渉者ではなく鑑賞者なので」

「はあ……」

「干渉し過ぎると今回のように世界が崩壊しますし」

「はあ……世界は崩壊しちゃったし……上手く立ち回ってトライバルを倒して私が消えれば解決すると思ったのに……こうちゃんが来るなんて予想外だよ……」

「貴方、先程から口調を取り繕えていませんよ?」

「もういい」


 この口調は当初こうちゃんが好きだった漫画のキャラクターを真似したものだった。でもそれもすっかり板についた。

 闇の王として、この姿の威厳を保つ為に出さないようにしていたが、それももういい。これから全てを背負って消えるのだから。


「こうちゃんと一緒にいることはとっくの昔に諦めてたけど、こうちゃんに殺されるのは嫌だあ……」

「貴方、あんなに格好つけていたのに……」

「……好きな子の前では格好つけたいでしょ? それに、君に格好つけたって仕方ないし」

「まあ貴方の格好悪いところは散々観測済みですけど。ちょっと可愛い子に話しかけられたからって緊張してクールキャラ気取っていたところは笑えましたよ」

「君、私のこと嫌いだよね?」

「そんなことはありませんよ? 最初は貴方と推しのカップリング推しでしたから」

「今は?」

「屈強な戦士と推しのカップリング推しです。正直、貴方の存在は邪魔になっていたので丁度良かったです」

「君、かなり酷いこと言ってるからね?」


 私だってわかっている。私よりもこうちゃんを幸せに出来る人がいるってこと。別にこうちゃんが幸せなら誰と一緒になったっていい。




 ……嘘。


 やっぱり嫌だ。


 こうちゃんには幸せになってね、なんて口では言っても心の中では後悔してばかり。

 私、どうしたらこうちゃんと一緒にいられたんだろう。自分が闇の王だってこともこうちゃんが光の女神だってことも全部投げ捨てて二人で何処かに逃げちゃえば良かったのかな。


 でも、それもきっとダメだね。


 闇の王が世界の脅威とされていて、それが目覚めたなら誰かが倒すまで人々の心に平穏は訪れない。

 世界の平和の為には私と言う存在は不要なのだ。


「はあ……これで、良かったんだよね」

「一つ言わせて貰うとすれば、闇の王らしく最期は禍々しい城で終わらせても良かったのでは?」


 私が最期の場所に選んだのは花畑。

 最初に私に話しかけてくれた彼女と一緒に行こうと約束した場所。こうちゃんとのデートで花畑は何回か行ったことがあるんだけどね。


「死に場所は綺麗なところがいい」


 真っ青な青空。快晴の空の下、花畑に闇の王と観測者の少女。こんなに明るい場所では闇の力は弱まるし、動くのもしんどい。でも、闇の王だろうと綺麗なものを綺麗だと感じる心は持っている。


「こうちゃんの思い出の中で綺麗なままでいたい」

「あの子から貴方の記憶は消去してます。今のあの子にとって貴方はただの倒すべき敵でしかありませんよ」

「本当に何でも出来るね」

「ええ。それなりのリスクがありますけどね。まあ、今回のリスクは貴方が全て引き受けて下さったので私は楽させて貰えてラッキーです」

「さいですか」


 今、私が思うのは後悔と諦めだけ。









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