53. 肉塊の叫び
城が揺れた。地響きがして城が崩れる。城の中央部分が埋没した。
「はあ!? な、何だよ!?」
埋没した瓦礫の間から巨大な肉塊がもぞもぞと這い出て来た。
「き、気持ちわりい! 何だよあれ!?」
「あ、あれは……」
トライバルの顔が青ざめる。
「知ってんのか?」
「魔物化した……人達」
「あれが?」
「人を魔物化して一つにまとめて、王と君、二人だけの世界を作ろうとしていたんだ」
「お父様は消えたのに」
「彼が消えても彼がやろうとしていたことは消えない。でも、どうして暴れているんだ。あれには意思なんて無いはずなのに」
「お父様も最期にとんだ置き土産を残してくれたな……」
びちゃびちゃと赤い液体を撒き散らしながら肉塊は崩れていない城の上部に向かって登り出す。
「あそこはオネット様の部屋!」
「やべえ! セイヴとカーマインが!」
そして肉塊は城の上部に覆い被さり、破壊した。
人のものとは思えない叫び声をあげる肉塊からおびただしい量の赤い液体が飛び散る。
「セイヴ!カーマイン!」
肉塊の背後から真紅のドラゴンが空に飛び上がったのが見えた。よかった。無事だった。カーマインの背にはセイヴと、その腕に抱かれたオネットの姿が見える。
カーマインの口から炎の玉が吐かれ肉塊に当たった。炎に焼かれた部分が黒く焦げる。だがそこはすぐに肉塊に覆い隠される。
肉塊からいくつもの触手が飛び出してドラゴンを捕えようとしている。何とか避けてはいるが、このままでは捕まるのは時間の問題だ。
「あいつ、カーマイン達を狙ってやがる」
「どうするの?」
「決まってんだろ! 助けに行く! おいトライバル、俺の魂を俺の体に戻せ」
「ルミア……」
「この体じゃ戦えねえんだよ! 早く!」
「……わかった」
トライバルが俺の体を抱き込む。
「ルミア、君の体は丁重に葬る。会えて嬉しかった」
トライバルの声が何処か遠くに感じた。そして俺は闇の王の腕の中で目を覚ました。やっぱりこっちの方がしっくりくるな。手を握り締めて体が動くことを確認した。
「おはよう……って、んなこと言ってる場合じゃねえな。美世子、手伝え!」
「うん」
「婆さんはどっか隠れてろよ」
「無理するんじゃないよ」
「ああ」
頷いてから俺は美世子の手を取って空に飛び上がった。
あれが魔物化した人間ならムスリクと同じ様に動きさえ止めれば魔物化した事実を切り取れる。兎に角動きを止めなくては。
「お前の影であいつの動きを止められるか?」
「やってみよう」
「つか、メモリーは何処だよ……」
空から城を見渡してみても彼女の姿は見えない。
肉塊から伸びる触手が俺たちにも向けられた。だが、触手は俺に触れることは出来ずに弾け飛ぶ。弾け飛んだ触手からつんざく様な叫び声が上げられた。
「人の……声。くそっ!」
そっと闇の王の手が俺の耳にあてられた。
「聞く必要はない。全て終われば彼らを人間の姿に戻すことは出来る」
「でも」
「大丈夫。こうちゃんはあれを倒すことだけ考えていればいい。後のことは任せて」
「美世子……」
「私、闇の王だから」
「はは……すげえ説得力ある言葉だな」
「でしょ?」
黒い影が肉塊を縛り付けた。雄叫びを上げて体液を撒き散らす肉塊に俺は突撃して行く。
消さない程度、こいつの動きが止まるくらいのダメージを与える。
肉塊の上に着地して力を込めようとした。だが、それより先に肉塊が俺の体に覆い被さって来た。
「うわっ!」
取り込まれる。俺の力を使えばすぐに脱出することは出来た。でも、出来なかった。
痛い、痛い。
苦しい。
助けて。
怖い、嫌だ。
声が聞こえる。魔物化して人達の叫び声が。助けを求める声が。俺が少しでも力を込めれば苦しむ人々の声が呻く声が聞こえる。
美世子の言う通り、この声を聞く必要はない。彼らの声を無視して早く倒してしまった方がいい。そうすれば彼らは苦痛から解放され、元の姿に戻せる。
でも、わかっていても苦しむ人の声を無視することが出来なかった。自分が彼らを苦しめている。呻き声を上げさせている。そう思うと体が硬直して動かない。
「……ごめん、ごめんな」
コーイチ!!
そのとき、馬鹿でかい声が耳元で聞こえた。
「え、シ、シガバ!?」
そうっす!
「お前大丈夫なのか!?」
大丈夫じゃないっす! めちゃくちゃ痛いし苦しいっす!
「お前何処いんだよ! 助ける!」
俺のことはいいっす! 早くこの化物を倒すっす!
「でも」
他の人の声が邪魔なら俺が気にならないくらい大声で喋ってやるっす!
「シガバ」
早くするっす! この化物は今、王様……オーフェン様の意識が主導権を握ってるっす!このままだとオネット様を殺すまで止まらないっす! そんなこと許せないっす! オネット様、俺の婚約者っすから!
「ああ。シカバ、わかった!」
肉塊に飲まれた体に力を込めた。蠢く肉塊。人々の叫び声。そしてそれを上回るシカバの大声。
痛いっすーーー!!! でも、大丈夫っすーーー!!!!コーイチーーー!!!
「何だあーーー!!?」
シカバに負けないくらい大声を張り上げた。
元の姿に戻ったら! コーイチのまあまあなご飯、腹一杯食べたいっす!!!!
「任せとか!! 嫌になる程食わせてやるよ!!! 」
だから、死ぬんじゃねえぞ!
肉塊が弾け飛び、俺の体は外に押し出された。




