32. そこに行けば何か掴める気がする
「ジンノ!」
気がつくと、目の前にエペがいた。
「エペ、来てくれたんだな……」
「探したのよ。貴女、廃坑に居たと思ったら時計塔に移動しているんだもの。驚いたわ」
「廃坑……そうだ! ムスリクが!」
「落ち着いて話してちょうだい。ムスリクがどうしたの?」
興奮する頭を落ち着かせながら何とか説明したが、言葉足らずだったかもしれない。ぎゅっと口をつぐむ。
「貴女が無事で良かったわ」
「でも、ムスリクが、」
「そうね。だけど、貴女が無事で良かったことには変わりないわ」
エペはそれ以上何も言わせなかった。
「シカバ?」
何も言わないシカバをエペが気にかける。シカバは何か言おうとしたが、言葉が出てこないようだった。目の前でムスリクが魔物化したのだ。当然の反応だろう。俺だって頭が混乱している。
「帰りましょう」
ムスリクの家に、俺達は帰った。でも、そこにはムスリクは居ない。彼は帰って来ない。
彼が居ないだけで部屋が広く感じる。
「今日、泊まろうか?」
以前の俺だったら、美世子以外の女と一つ屋根の下なんて……とか言っていたかもしれない。俺も弱くなったものだ。
「エペ」
「うん?」
「頼む」
「うん」
また、大切に思っていた人が居なくなってしまった。大切な仲間が。
これから先、エペが、シカバが、セイヴが、カーマインが居なくなってしまったら、俺はどうしたらいい?
***
「美世子、俺、どうしたらいい?」
「大丈夫。私が手伝うから。彼はきっと帰ってくるよ」
「美世子は? 美世子は帰って来ないのか?」
「うん。私は、駄目だよ」
美世子は俺に背を向けて歩いて行く。
「どこ行くんだよ」
「どこだろうね。遠くの方かな」
「行くなよ」
振り向いて彼女は笑う。
「安心して。彼が帰って来れば、こうちゃん、幸せになれるよね」
お前、勘違いしてるって。俺はムスリクのことを大切に思っているけどさ、愛してるのはお前だけなんだぜ?
***
「帰ってきたらこんなことになっているとはネ」
帰って来たセイヴとカーマインにすぐに事情を説明した。ムスリクのこと、トライバルのこと。セイヴは少し考えてから、俺に向き直って言った。
「話はわかった。ジンノ」
「え、はい!」
「貴女が女神の力を制御出来る様になれば、魔物を……ムスリクを消す心配はなくなる」
「でも、力の使い方なんてわからないしよ。それに、ムスリクを元に戻す方法を探す方が先じゃねえか?」
「今のままでは、貴女は誰かれ構わず全ての魔物を消してしまう」
「うっ……」
「ドラガーナに行く」
「ええ? 王都を離れたら不味いんじゃ……」
「貴女の話を聞く限り、トライバルは闇の王と結託しているわけではなさそうだ。むしろ、闇の王は貴女を逃している。そして、トライバルが世界を破滅させる為に貴女の力を使おうとしているなら、現れた闇の王をすぐに倒せるように王都にあるという貴女の意味も無くなる」
「た、確かに」
「一先ず王都から、いや、トライバルから離れ、ドラガーナにいる女神様に話を聞きに行こう」
「ドラガーナにも女神がいるのか?」
ドラガーナに女神がいるなんて初耳だった。いや、でも女神信仰が厚い国と言うからには女神の一人や二人居てもおかしくないのか。
「カーマ様っすね」
「え、カーマイン?」
「違うっす。カーマインの名前は確かに、彼女から取りましたけど、カーマ様っす。愛の女神様っす」
「愛、ね」
愛の力でどうにかなるならどうにかして欲しいもんだ。
「ジンノ、トライバルの計画は必ず止めなくてはいけない。ムスリクの為にも。貴女の為にも」
セイヴの野郎、餓鬼のくせに頼りになるじゃねえかよ。
俺は彼の目を見て頷いた。
「姉さんは、王都を頼む」
「ええ。ジンノ、ムスリクを人間に戻す方法、私も探してみるわ。貴女は自分の力の制御のことだけ考えて」
「カーマイン、行けるか?」
「もードラゴン使いが荒いなア! でも、仕方がないネ。トロイ様の体を取り戻す為でもあるし、人肌、いや、ドラゴン肌脱ぐヨ!」
「ジンノ、行こう」
「ああ、わかった。……頼むぜ、勇者様」
『女神と勇者はドラガーナへと向かう』
***
勇者一行の様子を伺う影が一つ。




