23. 形は違っても
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。気がつくと部屋の中は真っ暗で、シカバ達は居なくなっていた。本当に一人だ。
美世子に会う為にこの世界に来たのに、当の美世子が死んでるってどう言うことだよ。世界の番人は美世子に会わせてくれるって言ったじゃねえか。死んでたら、会えないじゃねえか。
唇を噛み締めた。血が出た気がしたが構わなかった。
突然、呼び鈴が鳴らされた。
今は代わりに出てくれる人間はいない。暫く放っておけば止まるだろうと無視していたが、一向に止む気配がない。
仕方がないのでやけに重たい体を持ち上げて玄関の扉を微かに開けると、そこにはエペが立っていた。手には何やら食材の入った袋を持っている。
「エペ……」
「貴女、酷い顔よ? 食べてないんでしょ? 何か作るわ」
「……いいって」
「駄目」
エペは言い切ると勝手に部屋に入って来て、料理を始めた。
俺が落ち込んでいることを知って来てくれたのだろう。有り難いが、今は放っておいて欲しかった。
「貴女の好きなもの作るから」
「……」
「いつも煩い貴女が静かだと変な感じね」
「……俺はそんな煩くねえよ……周りが煩いだけだ」
「そうかもね」
エペは俺に話しかけながら手早く料理を作っていく。よく出来るものだ。俺は話しながら料理なんて出来ない。話さないで一生懸命作った料理もカーマインに、まあまあって言われる始末だし。……そういえば、あいつら、最近飯どうしてたっけ。俺が作らないようになって何食べてたっけ。
「みんなね。貴女のこと心配しているのよ」
「……わかってる。心配かけていることは」
「貴女がね、美世子さんに会いたがってるってことも、みんなよく知っているわ」
「……」
わかっている。全部わかっている。落ち込んでいたって仕方がないってことも。俺の行動がみんなに心配をかけているってことも全部全部わかっているんだ。
体を丸めて膝に顔を埋めた。
「美世子……」
ことりと音を立てて目の前のローテーブルの上に料理の乗った皿が置かれた。
「出来たわよ。貴女、好きって言ってたわよね?」
「筑前煮……」
そうだ。俺は美世子の作った筑前煮が何よりも好きだった。
「ごめんね。美世子さんの味がどんなかわからなかったから、これは私流だけど」
「……」
一口食べた。美味かった。美世子とは違う味付けだが、美味かった。
「ねえ、私達、貴女のことが好きよ。貴女が美世子さんを思うように、私達も貴女のことが大切よ」
「ああ」
「美世子さんの代わりが出来るなんて誰も思っていないわ。でも、別の形でも、貴女のことを支えて行きたいと思ってる」
「…….ああ」
エペは優しく震える俺の手を握った。
「エペ」
「何?」
「俺、美世子に会う為だけにこの世界に来たんだ」
「うん」
「美世子に会う為だったら元の世界で死んだことになってもよかった。ここには美世子がいると思ったから。でも、いなかった」
「うん」
「俺、生きてる意味がわからなくなって、急に一人になった様な気がして……」
俺の体をエペは強く抱き締めた。
「大丈夫。一人じゃないわ。私達がいるもの」
「……うん」
涙が溢れそうになってエペの肩口に顔を埋めた。
「ねえ、こう考えてみない? 貴女は私達に会う為にこの世界にやって来たって。私、貴女と会えて、貴女がここにいてくれて嬉しいわ。今、私達がいるこの時に貴女が来てくれて嬉しい」
「……うんっ」
俺は彼女の背に腕を回し、しっかりと抱き締めた。
「ありがとう……エペ。お前が今日、来てくれて良かった」
声が少し震えてしまったかもしれない。でも、涙は溢さなかった。
エペも、シカバもムスリクもカーマインも、セイヴもみんな俺のことをわかってくれている。大切に思ってくれている。
美世子のことを吹っ切るには時間が掛かるかもしれないけど、仲間の為に生きようと思うことは出来る。
いつか美世子のこと、思い出に出来るときが来るのだろうか。きっと来る。でも、美世子の為に買った指輪を見るたびに彼女のことを思い出すのだろう。
「いつか……美世子のことを思い出として話せるようになったら……俺の話を聞いてくれるか?」
「勿論よ。私達、仲間なんだから」
エペの声はどこまでも優しく俺の耳に馴染んだ。
「俺も、お前達が大切だ」
俺を強く抱き締め、エペは笑った。
「うん! 私達も!」
『女神ジンノは仲間の温かさを知る』




