22. メモリーの記録
あの日、急変した俺を心配したシカバ達に連れられて俺はすぐに帰宅した。写真は、姫様に頼んで持ち帰らせてもらった。
あれから、俺は何をする気力も湧かず、ただ家で写真を眺める日々を送っている。
信じられない。信じたくない。だが、美世子が三十年前に既に死んでいる事実。
俺には、受け入れられない事実。
「コーイチ……」
「ごめん、放っておいてくれ」
壁を向いてベッドで一日中丸くなった。背中にシカバやムスリク、カーマインの心配そうな視線を感じたが、それに答えてやることは出来なかった。
***
「コーイチのまあまあなご飯も食べられなくなると恋しくなるネ」
「コーイチ、このままだとまずいっすよ」
「だが、原因はジンノの恋人の美世子さんが既に死んでいたということだろう。彼女が気持ちの整理をつけるのを待つしかないんじゃないか?」
「そうっすけど……」
シカバは誰よりもジンノと共に居た。彼女が落ち込んでいるときに何も出来ない自分が不甲斐なかった。
「……ルミア様のこと、調べるっす。ルミア様が美世子さんじゃないって証明出来れば、コーイチも元気になるっす!」
「でも、そんなこと出来るのカナ?」
「メモリーに聞くっす」
「……なるほど。メモリーか。聞いてみる価値はある」
シカバの言葉にムスリクは頷いた。話の見えないカーマインはきょろきょろと二人を交互に見やった。
「メモリーって?」
「メモリーはこの国の歴史や情報を遥か昔から記録している機械人形っす」
「諜報部隊の仕入れた情報も定期的にメモリーに保存されている。メモリーはこの国の言わば宝だ」
「そんな凄いものがあるんだネ。でも、そんなこと他国の王子が知ってていいのカナ?」
「メモリーにアクセス出来るのは限られた人間だけだ。諜報部の人間ならその存在くらいは知っているがな」
「じゃあ私達も会えないんじゃないノ?」
「俺を誰だと思っている。諜報部隊隊長だぞ」
にやりと笑みを浮かべるムスリクにカーマインはぽんと手を叩いて頷いた。
「なーるホド!」
三人は早速国営図書館へと向かった。そこにメモリーがいるのだという。
ムスリクは迷いなく図書館の『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉を開けて中に入って行った。カーマインはシカバの腕を握ってぶらぶらと揺らしながらその後を追った。
「カアちゃん、俺の扱いが雑っす……」
可哀想なぬいぐるみの嘆きを聞くものは残念ながらこの場には居なかった。
永遠と本棚が陳列している通路を進む。何処もかしこも本だらけで目が回りそうな程だ。しばらく進むと本棚に囲まれた小さなスペースの真ん中に一人がけの大きなソファが置かれている。そこに身を預けている眼鏡をかけた少女。彼女がメモリーだった。
「やあ、メモリー」
「こんにちは。ムスリク、カーマイン、トロイ」
「何で私達のこと知ってるのカナ!?」
「言っただろう。俺が情報は定期的に更新している」
「あ、そっカ」
「メモリー、三十年前に死んだルミア王女のことを教えて欲しいっす」
「貴方はアクセス権限を持っていません」
少女は静かに答えた。
「メモリー、頼む」
ムスリクが言うと少女は小さく頷いた。
『ルミア=エス=リュミエール
故人
三十年前に死亡。
生前は女神の生まれ変わりと言われていた。当時の王であるリエゾニアス=エス=リュミエールから一身に寵愛を受けていたが、闇の王に心を奪われ、その療養中に死亡。その直後に王も自ら命を絶っている』
「貴方のアクセス権限ではここまでしか情報の開示は出来ません」
「それだけっすか!?」
「これ以上は最高アクセス権限をお持ちの方しか開示出来ません。すみません」
少女は申し訳なさそうに頭を下げた。
「最高アクセス権限って……」
「現国王陛下です」
「シカバ、これ以上は無理だ。ただでさえ国王にアクセスを頼むことは出来ないのに今、国王は療養中だ。諦めよう」
「でも、こんな情報じゃ……コーイチは元気にならないっす」
落ち込むシカバにメモリーはそっと触れた。
『ベティ
ルミア王女のお友達。彼女が幼い頃から大事にしていたクマのぬいぐるみ』
「えっ」
「これは誰にも規制をかけられていない情報です」
「俺のこの体、クマのぬいぐるみはルミア王女の物だったっすか!?」
「そうです。彼女は生前、ベティをとても大切にしていました。これは彼女からの確かな情報です」
このクマのぬいぐるみがあったのは、ブラン婆さんの部屋だ。
「隊長、次に行くところが決まったっす」
「みたいだな」
『シカバは女神の為に奮闘する』




