依頼
「近頃都の彼方此方で、人が襲われる事件が立て続けに起こっている……」
初めは、美しい花を咲かせた木の下で休んでいた恋人達が。次は、用事を頼まれ木陰を通った下女が。雨宿りをしていた武士が、母を待っていた子どもが、行商の男が…。その数が増えると、人は道から遠ざかる。それで解決すれば良かったのだが、そうはならず…次は別の所で人が襲われた。
手習い帰りの童が、孫を背負った老婆が、物乞いをしていた男が……。
そこまできて漸くこの話は、晴明の耳に入ってきたのだった。
「そこでな、晴明。襲われた人は、木に襲われたと揃えて言うのだ。この木、お前に調べて貰いたい。」
そう口にするのは、今日だけで二人目だった。
「是……という返事をしてある。」
さも面倒、と物語った表情を隠すことなく晴明は緩慢な動きで酒を口に運んだ。
「お前で二人目だぞ、その話をしてきたのは…頼光。」
「二人目?」
「ああ、摂政関白殿だ。」
摂政関白とは、帝の治世を助ける由々しき立場。また、今上帝のように幼く治世が難しい場合は、帝に代わり政を行うこともある
。
「藤原道長様が?」
帝からはもちろん、道長からの覚えもめでたい晴明は、今朝のうちに至急の呼び出しを受け出仕をしてきたのだった。
「この安倍晴明にお任せくださいませ。」
そう言って恭しく頭を下げた美しき陰陽師こそ、今目の前に居る安倍晴明本人。しかし、態度は月とスッポン、一種の詐欺だ。
「そうか。道長様が……やはり、民を思う摂政関白様!そうか……」
心酔している道長様と同じ振る舞いをした自分に喜び、また道長様のお優しいお心に頼光は顔を緩ませる。ー…大の男が気持ち悪い…と口に出さず、心の内に収める。
「では晴明!尚のこと早く調べにっ」
「行かせている。」
酒を呑む手を一寸止め頼光の言葉を遮り、目を細め酒を味わう。「今年の酒は美味いな…」と口の中で言葉を転がせばニヤリとした笑みを浮かべた。
「式神か……」
もう目では確認出来ない光の去った方角に目を向けると、見えもしない光を眩しげに見る。それは、期待と希望と確信を混ぜたもの。
「頼光。」
「なんだ…?」
「まずは、酒を。報を受けたら、さすがに動く。」
盃を傾け友の目を見れば、信頼故に少しの緊張の緩んだ様子に、晴明はまた目を細めたのだった。
二年放置して続きを書いてみます。
頭の中のものを形にするのって難しいですね。
ゆっくり頑張ります。




