第一章 星読姫
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星辰国 首都 北辰京。
尊星宮の離宮にある屋根裏部屋。
誰にも忘れ去られた部屋には大きな天窓があり、満天の星が煌々と輝いていた。
そこで2人の男女が睦み合っていた。
「ああ、蒼真…蒼真…」
狂しく、切なく、女は男の名を呼ぶ。
男は愛おしそうに女の頬から首筋、鎖骨へと手を滑らせた。
「…星羅」
耳朶に口を寄せ蒼真は掠れた声で囁くように名を呼ぶ。
今日も2人は深い深い夜に堕ちてゆく。
天に瞬く星たちだけが、2人の幾度目かの逢瀬を見ていた。
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今宵も2人の秘密の場所の天窓から見える澄みきった空には星が瞬いていた。
「………星がざわめいている………」
ポツリと星羅は呟いた。と同時に部屋に人の気配を感じた。
背中から星羅は抱き締められる。
「……蒼真」
前に回された手にそっと触れた。
蒼真は星羅の耳朶に唇を近づけ、囁く。
「……星羅、どこまでも俺についてきてくれるか?」
「……………急にどうしたのですか?」
「星羅、答えてくれ」
抱擁に力がこもる。応えるように星羅は蒼真の手をギュッと握った。
「あなたとならどこまでもついて行きます。 地獄までも」
「星羅…星羅……」
蒼真は星羅の名を愛おしそうに呼びながら、耳朶から首筋へと唇を這わせた。
「あっ」
甘い吐息が星羅の唇から洩れる。
唇を離した蒼真は抱擁を解き星羅を自分の方に向かせる。
真剣な眼差しとどこか青褪めた蒼真の顔を見た星羅は、蒼真の頬にそっと手を当てた。
その手に軽く口付けてから、蒼真は強い眼差しで星羅を見た。
「今夜、俺と共にここを出よう」
「ええ、勿論よ」
星羅は眦に涙をたたえながら蒼真を見詰める。
引き寄せられるように2人の顔が近づき、深い口付けを交わした。
離宮の隠し通路から出ると何やら慌ただしい音が遠くに聞こえてくる。
「何かあったのでしょうか?」
「……………」
星羅の問いかけに蒼真は無言のまま繋いだ手を強く握った。そしてその背中はこれ以上の質問を拒否していた。
星羅も手を強く握り返した。
尊星宮の敷地外縁にある通用門まで来ると、門番である2人の武官が地面に転がっていた。
「この者たちはどうしたのですか?」
「しっ!大丈夫。ただ眠っているだけだよ」
蒼真は門に近づき鍵を開けた。
そして、手を差し出した。
「さあ、行こう」
「はい」
星羅は蒼真の手を取った。
森の闇は深く2人を覆い隠してくれる。
しばらく歩いて森を抜けると、水鏡に星が美しく映る観星台へと辿り着いた。
予め隠して置いた風輪(空飛ぶ二輪車のようなもの)に2人が乗り込んだ時、何者かの気配を感じ、蒼真は身構える。
現れたのは、全身血だらけで、腕に女性を抱えた男だった。
「きゃっ」
その凄惨な姿を見た星羅が短く悲鳴を上げ蒼真の背中に隠れる。
「藍夜……」
蒼真が呟いた。
藍夜と呼ばれた男は2人に気付いたのか、顔を向けた。
蒼真と目が合う。男は微笑んだ。
その笑みは何の邪気もない子供のような微笑みだった。
蒼真はぐっと歯を食いしばり、風輪を浮上させ、満天の星が輝く空へと翔けていった。
夜の黒は深く、星の空は凪いでいた。
星羅は蒼真の背中に縋り嗚咽を上げている。
「星羅…星羅…、泣いてくれ。俺の代わりに泣いてくれ」
嗚咽は激しさを増した。
「俺たちは生きなくてはならない。どんな地獄に堕ちたとしても生きるしかないんだ」
空は次第に色を変えてゆく。
暁の星が輝き始めていた。




