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完璧すぎて断罪された悪役令嬢、間違えることにしたら人が助かりました 〜完璧だった私が、間違いを選んだ理由〜  作者: はねださら


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第19話 間違いの価値

 翌朝。


 私は、昨日よりも早く目を覚ました。


 理由は分かっている。


 考える前に、体が動いたからだ。


「……」


 まだ空気は冷たい。


 人の気配も少ない。


 だが、それがいい。


 邪魔がない。


 集中できる。


 ――そう考えた瞬間。


「……違うわね」


 私は、小さく呟いた。


 それは、これまでの思考だ。


 効率。


 最適。


 無駄の排除。


 だが。


 ここでは。


 それだけでは足りない。


「……」


 私は、ゆっくりと息を吐く。


 そして。


 歩き出す。


 向かう先は、決まっている。


 ――ルカのところ。


 建物の中は、昨日と同じ匂いがした。


 湿っていて、重い。


 だが。


 昨日より、少しだけ。


 空気が動いている気がした。


「……来たの」


 声。


 アメリアだった。


 すでに中にいる。


 壁に寄りかかって。


「ええ」


 私は頷く。


 そして。


 ルカの様子を見る。


「……」


 呼吸は、続いている。


 昨日と同じように。


 浅く。


 弱く。


 それでも。


 確かに。


 ――生きている。


「……変わらないわね」


 私は言う。


「うん」


 アメリアも頷く。


「でも悪くもなってない」


「……そう」


 私は、少しだけ考える。


 この状態を、どう評価するか。


 昨日なら。


 “失敗”として処理していた。


 だが。


 今は。


「……継続」


 小さく呟く。


「何が?」


「状態の」


 私は答える。


「維持されている」


「ふーん」


 アメリアは、あまり興味なさそうに言う。


「で?」


「……続けるわ」


 私は、ルカのそばに座る。


 昨日と同じように。


 水を用意し。


 布を整え。


 状態を確認する。


 だが。


 動きは、少しだけ違う。


 急がない。


 決めつけない。


 ただ。


 “見る”。


「……」


 時間が過ぎる。


 ゆっくりと。


 変化は、ほとんどない。


 それでも。


 何かが違う。


「……ねえ」


 アメリアが、ぽつりと言う。


「何?」


「昨日より、マシじゃない?」


「……」


 私は、ルカを見る。


 呼吸。


 肌の色。


 反応。


 そして。


「……微細ね」


 そう答える。


「変化としては」


「でもあるでしょ」


「ええ」


 私は頷く。


「あるわ」


 それは、事実だ。


 ほんの少し。


 だが。


 確かに。


「……」


 私は、その変化を見つめる。


 これまでなら。


 無視していたレベルの差。


 意味のない誤差として。


 処理していた。


 だが。


「……違う」


 今は、そうではない。


 これは。


 無視していいものではない。


 むしろ。


「……重要ね」


 私は、静かに言う。


「それ」


「え?」


 アメリアが、少しだけ驚く。


「何が?」


「その差よ」


 私は答える。


「小さいけれど、確実にある」


「うん」


「なら、それが鍵になる」


 沈黙。


 アメリアは、少しだけ首を傾げた。


「よく分かんない」


「いいの」


 私は言う。


「私も、完全には分かっていない」


 それでも。


「でも」


 私は続ける。


「“違い”はある」


 それだけで、十分だ。


 今は。


「……変なの」


 アメリアが、ぼそっと言う。


「そうかしら」


「うん」


 彼女は頷く。


「昨日まで、完璧じゃないとダメって感じだったのに」


 ――。


 私は、少しだけ目を細めた。


 その通りだ。


 完全に。


「……変わったのよ」


 私は答える。


 静かに。


「少しだけ」


「へえ」


 アメリアは、興味深そうに私を見る。


「で?」


「何?」


「それで、どうするの?」


 また、その問い。


 だが。


 今度は違う。


 迷いは、少ない。


「……増やす」


 私は答える。


「何を?」


「この差を」


 沈黙。


「どうやって?」


「……試すの」


 私は言う。


「少しずつ」


 確実に。


 無理をせず。


「……また失敗するかもよ?」


 アメリアが言う。


 軽く。


 だが、核心を突く。


「ええ」


 私は頷く。


 否定しない。


「するでしょうね」


 はっきりと。


「でも」


 私は続ける。


「それでいい」


「……いいの?」


「ええ」


 迷いなく。


「それも、必要だから」


 ――。


 その言葉は。


 自分でも、少しだけ驚くほど。


 自然に出た。


 これまでなら。


 絶対に認めなかった考え。


「……ふーん」


 アメリアは、少しだけ笑う。


「変なの」


「そうね」


 私は、同意する。


「でも」


 ルカを見る。


 その、小さな変化。


「悪くない」


 それは。


 本心だった。


 ――その時。


「……動いた」


 アメリアが、ぽつりと言う。


 私は、すぐに視線を向ける。


 ルカの指が。


 ほんのわずかに。


 動いていた。


「……」


 私は、何も言えなかった。


 ただ。


 その小さな変化を。


 見つめることしかできなかった。


 それは。


 あまりにも。


 小さくて。


 不確かで。


 それでも。


 確実に。


 ――“前に進んでいる”証だった。

第19話まで読んでいただきありがとうございます。


ここで主人公は、「間違いを許容する」という大きな変化を見せました。

これまでの価値観から完全に外れた、新しい思考です。


そして小さな変化が、はっきりと“結果”として現れ始めました。


次話では、この変化がさらに広がり、「誰かを救う」という実感に繋がっていきます。

ここで一つ、大きな感情のカタルシスが来ます。


ここまで読んで少しでも続きが気になると思っていただけたら、ブックマークしていただけると嬉しいです。

感想もとても励みになります。

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